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ビーズ細工・1
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ビーズを使う手法は多い。テグスで編むものやワイヤーを使うもの、或いは糸で織るものに布に直接縫い付けることもできる。さまざまな方法があるし、何を作るかによって使い分けられるのも特徴だろう。
ヴィオラの転生したこの世界に、しかし彼女の知るようなビーズは存在しない。鉱石や硝子を磨いて穴を開けた装飾品はあるが、小さいものでも小指の先くらいの大きさになってしまう。研磨技術があまり進歩していないせいか、細かい細工がないのだ。
繊維や染料はかなり種類が豊富で布地は進歩が著しいだけに、差が大きい。綿や絹だけでなく、ウールなど獣毛類は多彩だし、シフォンやオーガンジー、サテンにツイードのような織りもいろいろある。さすがにポリエステルやアクリルのような化学繊維はないが、それに見た目は良く似た類いもあって、気になったヴィオラが調べてみたら魔物素材だった。
この魔物素材というのがかなり何でも有りで。魔力や魔法を貯めておく機能も持たせられるし見た目の美しさも優れているし、それを狩って生活を成り立たせる職業さえある。もちろん繊維や布地に限った話でもなく、魔物の骨や牙・鱗といった素材も服飾品に利用させることがある。
とはいえ、それらもやはりあまり細かい細工はされない。うっかり細かくしすぎたものを、塗料に混ぜて塗ったりすることはあるらしい(それくらい貴重なものである)。
魔法街にはそれらの貴重な素材も、いくらかは流れ込んでくる。もちろんヴィオラも欲しいと言えば入手は可能なのだが、正直一掴みで金貨が飛んでいくような高級品は気後れする。
「普通の、ガラスとかランクの低い鉱石でいいんですけどねえ」
「そうはいってもお嬢さん。それならいくらでも売ってるのに、それじゃ嫌だと仰ったんじゃないですか」
ヴィオラのこぼした言葉にマリサは呆れた声を返す。
「マリサ、嫌とは言ってません。駄目だって言ったんです、大きすぎるんだもの」
「大きいって……」
「糸が通るぎりぎりの大きさくらいが理想なんですよね……」
前世、ヴィオラはいろいろ手芸もしていたが、一番好んでいたのはビーズ細工だった。小さなビーズを拾うようにして形作る、キラキラした装飾品や動物の姿をしたマスコット、布製品に施す刺繍など。特に良くやったのはテグスで編むアクセサリーだ、指輪やネックレス、イヤリングにブレスレット、或いはバレッタやピンなどの髪飾り。
それらに使うには、この世界で流通している品では、どうにも粒が大きすぎる。自分で石なり何なりを割って研磨する、ほどの技量はさすがになかった。
「とは言ってもね。一番早いのは、あんた自身がスキルのレベルを上げることじゃないかねえ」
相談したおばばは、こともなげに宣う。
「スキル、ですか……」
「あんたのスキルは、あたしもよくわからんけど。錬金スキル、ってのはその人ごとに進化の仕方が違うらしいんだよ」
「……進化が、違う……修行次第で、身につくスキルが変わるということでしょうか」
「概ねはそうらしい。要は、自分がやってきたことがスキルに反映されるんだ。そう思えば、修行にも熱が入るってもんだろう」
「確かに……ありがとうございます、師匠。何となく、目指す方向が見えたような気がします」
「そいつぁ何よりだ」
おばばは強面、というかおとぎ話にでも出てくる悪い魔女そのものの容姿だ。暗い色合いのフードを深々とかぶり、顔を見せないし声もしゃがれているのに妙に良く通る。魔法街で顔役なのも、古株であると同時に腕の良い魔女であるからだ。個人の能力も高く、顔も広くて伝手が多い。しかもそうした人々に信頼篤く、縁故としても他に得がたい人物であり、彼女を師として仰げたことはヴィオラにとっても幸運と言っていい。
ヴィオラの転生したこの世界に、しかし彼女の知るようなビーズは存在しない。鉱石や硝子を磨いて穴を開けた装飾品はあるが、小さいものでも小指の先くらいの大きさになってしまう。研磨技術があまり進歩していないせいか、細かい細工がないのだ。
繊維や染料はかなり種類が豊富で布地は進歩が著しいだけに、差が大きい。綿や絹だけでなく、ウールなど獣毛類は多彩だし、シフォンやオーガンジー、サテンにツイードのような織りもいろいろある。さすがにポリエステルやアクリルのような化学繊維はないが、それに見た目は良く似た類いもあって、気になったヴィオラが調べてみたら魔物素材だった。
この魔物素材というのがかなり何でも有りで。魔力や魔法を貯めておく機能も持たせられるし見た目の美しさも優れているし、それを狩って生活を成り立たせる職業さえある。もちろん繊維や布地に限った話でもなく、魔物の骨や牙・鱗といった素材も服飾品に利用させることがある。
とはいえ、それらもやはりあまり細かい細工はされない。うっかり細かくしすぎたものを、塗料に混ぜて塗ったりすることはあるらしい(それくらい貴重なものである)。
魔法街にはそれらの貴重な素材も、いくらかは流れ込んでくる。もちろんヴィオラも欲しいと言えば入手は可能なのだが、正直一掴みで金貨が飛んでいくような高級品は気後れする。
「普通の、ガラスとかランクの低い鉱石でいいんですけどねえ」
「そうはいってもお嬢さん。それならいくらでも売ってるのに、それじゃ嫌だと仰ったんじゃないですか」
ヴィオラのこぼした言葉にマリサは呆れた声を返す。
「マリサ、嫌とは言ってません。駄目だって言ったんです、大きすぎるんだもの」
「大きいって……」
「糸が通るぎりぎりの大きさくらいが理想なんですよね……」
前世、ヴィオラはいろいろ手芸もしていたが、一番好んでいたのはビーズ細工だった。小さなビーズを拾うようにして形作る、キラキラした装飾品や動物の姿をしたマスコット、布製品に施す刺繍など。特に良くやったのはテグスで編むアクセサリーだ、指輪やネックレス、イヤリングにブレスレット、或いはバレッタやピンなどの髪飾り。
それらに使うには、この世界で流通している品では、どうにも粒が大きすぎる。自分で石なり何なりを割って研磨する、ほどの技量はさすがになかった。
「とは言ってもね。一番早いのは、あんた自身がスキルのレベルを上げることじゃないかねえ」
相談したおばばは、こともなげに宣う。
「スキル、ですか……」
「あんたのスキルは、あたしもよくわからんけど。錬金スキル、ってのはその人ごとに進化の仕方が違うらしいんだよ」
「……進化が、違う……修行次第で、身につくスキルが変わるということでしょうか」
「概ねはそうらしい。要は、自分がやってきたことがスキルに反映されるんだ。そう思えば、修行にも熱が入るってもんだろう」
「確かに……ありがとうございます、師匠。何となく、目指す方向が見えたような気がします」
「そいつぁ何よりだ」
おばばは強面、というかおとぎ話にでも出てくる悪い魔女そのものの容姿だ。暗い色合いのフードを深々とかぶり、顔を見せないし声もしゃがれているのに妙に良く通る。魔法街で顔役なのも、古株であると同時に腕の良い魔女であるからだ。個人の能力も高く、顔も広くて伝手が多い。しかもそうした人々に信頼篤く、縁故としても他に得がたい人物であり、彼女を師として仰げたことはヴィオラにとっても幸運と言っていい。
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