上 下
4 / 5

第三幕

しおりを挟む
さて、もう一つの可能性は、彼女は確かに乳母だが私もしくは私の母に対して良い感情を持っていない、あるいはあの態度からして憎んでいるといってもいいかもしれないな。
その代わりと言ってもなんだが、父をとても好いているような雰囲気もある。
そして丁度、私とこの乳母以外の屋敷のものが全ていないか、とても少ないからこそ、日ごろの鬱憤を晴らすためにここにやってきた、という可能性。
屋敷のものがいない理由としては、何かしら大きな行事だと仕事も多くなるので人手が必要になり、必然的に動かせない赤子は置いていくしかないということになる。
我ながら、無理やり感が半端ないな。
まあ、頭をひねって考えていても、今のところは答えにはたどり着けないだろう。
今は考えることによって忘れ去られていた、この羞恥心と戦うことが重要だろう。

なんやかんやと、私の考えはほぼ当たっていた。
結局あのとき乳母(のような)は何もせずに部屋から出ていき、勿論いなくなってしまえば泣く意味もないので、私も泣くことをやめた。日付が変わった頃だと感じたとき、若い侍女服っぽい装いの女性がやってきて、私の身支度を整えにきた。
その時私はなんとなく狸寝入りをしていた。
そしてその侍女(仮)はこう言った。
寝ていることを考慮した小声である。
「お嬢様をお一人にしてしまい申し訳ございません。新年会の支度に皆出ていたので」
物凄く丁寧に謝ってくれた。
聞こえていない設定ではあるが。
何度も言うように、今現在の私の年齢は1歳児にもならない。
だが、私の出自からすれば、まだ言葉も分からぬ赤子であろうと、丁寧に接するのは当然とも思える。
あの、乳母のような態度のほうがやはりおかしいのだろう。
そして、私の予想がほぼ当たっていたことが判明した。
夜が明けると、薄めの銀髪に誰もがひれ伏してしまいそうな風格のある、神様の最高傑作かと思えるほどの美形が現れた。

私は、状況も忘れてぽかんとあほみたいに口を開けたままになった。
赤子の姿ではあほっぽくはならなかったようだが。
「ああ!愛しい俺の娘メリア会いたかった」
威厳のある姿であったのは数秒だけだった。
崩れた顔は言葉で言い表せない。
美形こと言葉の意味からして、私の父なのであろう、男は突進するように、いやあれはようなではなく突進しているとしか見えないほどの勢いだ。
この状況はあれだ、生後一年未満で死を覚悟するというのは、哀れと評価できてしまうのではなかろうか。
実際には父は寸前でその勢いを止め、私の寝台に寄って私に頬擦りをした。
髭があってじょりじょり痛いということはなかった。
この見た目でじょりじょり痛いはあったらあったで驚くが。
とりあえず、今目の前にいるこの、この世のものとは思えぬ美形の男が私の父親ということになるわけで。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました

yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。 二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか! ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

元最強賢者は異世界でメイドカフェを開きます〜転生賢者のメイドカフェ経営〜

津ヶ谷
ファンタジー
友達の妹を庇って一度死亡し、異世界に転生した叢雲御影。 死んだ御影は神によってチートな力を与えられ、異世界にそのままの年齢で転生した。 そこから数年。世界最強の賢者として名が知れ渡った御影は、依頼先の森で一人の少女を拾う。 それをきっかけに冒険者を引退し、趣味であったメイドカフェを開くことにした。 しかし、巻き込まれ体質は変わらないのであった。 「ご主人様、メイドへのお触りはご法度ですよ?」 これは転生賢者が異世界でメイドカフェを経営する物語。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな

朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。 !逆転チートな婚約破棄劇場! !王宮、そして誰も居なくなった! !国が滅んだ?私のせい?しらんがな! 18話で完結

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

処理中です...