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stage1 海辺

012 逃走

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 丘の上の城はなかなか立派だった。

 とはいえお城といったらシンデレラ城くらいしか行ったことがないので、この城の格式がどうとか、どのくらいの規模の国のそれなのか、ということはわからないのだけれど。

 とにかく、TDLのそれよりは大きくてリッパ、というのだけは確かだった。

 それと、小路からすぐに敷地に入れたり、見張りが等間隔に構えているというわけでもないところを見ると、ずいぶん平和な国なのかなと思う。

 戦争に明け暮れているような国だったら、きっともっと城壁を巡らせたり色んな工夫をしているだろう。
 
「あ、あった!」

 ずりずりと王子様を引きずって、植栽の影を縫いつつ城の周りを巡っていると、幸運なことに、正門とはまた別らしい、こぢんまりとした扉を見つけることが出来た。

 何に使っているのかはわからないけれど、扉の外の地面が踏み固められているので、日常に人が出入りしているのは間違いない。

「よし、あの辺でいいかな?」

 敷地内にポイッと捨てていくよりかは、通用口の近くに置いていく方が、王子様も早く発見してもらえることだろう。
 額の汗を拭って、私はもうひと息と自分を励ました。

「あれ、なんか良い匂い……。もしかして扉の向こう、厨房なのかなあ」

 鼻腔をくすぐる煮炊きの匂いに気分をほぐされつつ、扉の前までやって来た私は、そこに王子様を横たえた。

 さすがに髪の毛グシャグシャの小枝や葉っぱが絡まった状態で発見されるのは哀れと思って、軽く身だしなみを整えてあげる。

 するとやっぱり、王子様はどこから見てもため息が出るほどのイケメンで、私はしばしほうっと見入ってしまった。

 それがいけなかった。

「ちょっくら野菜屑を捨ててくるわね~!」

 快活なおばちゃんの声が聞こえたかと思うと、ガチャッ!と景気よく扉が開いた。

「あらっ?」

「え?」

 屑籠を抱えた小太りのおばちゃんと、ばっちり目が合った。
 奇妙な間のあと、どんぐり眼をぱちくりさせたおばちゃんの視線が、スイッと下へ向かった。

「お、王子様あ!?」

 ひっくり返る屑籠。
 飛び散る野菜の皮やら根っこ。

 その瞬間、私は脇目も振らずに逃げ出していた。

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