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23、喜びの訪れ

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  それから、2ヶ月が経った。
  殿下は今まで以上に僕に対してことある事に抱き締めたり、キスしたり、……そういう事をしてきたりと時間があればそばに居てくれようとした。


「あ、そういえば、結婚式の話なんだけれどね?」

「け、結婚式…っ、本当にするんですか?」

「当たり前だよ? 大々的にやるよ? もちろん安心してね。フロウの元の身分はもう誰にも分かんないようにしてあるから。ニーアのそっくりさんで済ませられるからね?」


  殿下の見えない力が玉に怖くなるのは何故なのか未だによく分からない。
  それでも殿下に任せておけば大丈夫だろうと、どこか甘えたくもなってしまう。

  いつも通りベッドの端に座って雑談のような会話を続けた。


「ああ…フロウのウェディングドレス……楽しみだよ」

「ぼ、僕のはドレスじゃないのにして下さい」

「えぇー? あ、じゃあドレスはベッドで来てもらうように作るから。ね?お願い」

「でも…僕が着るのは」

「フロウ、お願い」

「う……わ、わかりました……」


  男の僕がドレスを着るのには抵抗がある。なんとか民衆の前で恥を晒すことだけは回避出来たが、閨での恥は晒されることになりそうだと溜息をついた。

  殿下はとても優しいのに、ベッドの中ではなんだかとっても意地悪な気がする。
  それはそれで僕にしか見せてない顔のようで嬉しくもあるけれど、玉に本性なのかな、なんてのも思わなくもない。


「あ、後はご両親にも見て貰えるように特別席でも作ろうか」
「ラスティ様……」


  前言撤回、やっぱり優しい方で間違いない。
  嬉しくて胸がキュウとなるのを感じながら殿下の瞳を見つめる。
  その視線に気づいた殿下は、口を弧を描く形に変えて僕の顎を指でなぞり、クイと上げる。


「ふふ、そんな見つめて…嬉しい? ならどうするのか教えたよね?」

「あ……ラスティ、さま……んっ……」


  自分から殿下の首に腕を回して、殿下の艶やかな唇に自身の唇を重ねた。口を少し開けば、殿下の厚めの舌が口内に入り込み、僕の舌を嬲るように絡ませてくる。
  ぴちゃ、と唾液の混じる音が耳を掠めて犯すように響く。


「フロウ…いい?」


  僕はラスティ厶殿下の問いの意味をもう分かっていて、恥ずかしいけど嬉しくて頷いた。


「ラスティ様…」

「ん?ちょっとまってフロウ。そういえば月のものは来た?」

「月のもの…? あ、あれ? そう言われると…」


  ラスティ厶殿下にいわれるまですっかり頭から抜け落ちていた。
  最初の1回が来たっきり、その後1度も来ていない。

  そういえばモニカに『…そろそろ医師を呼んだ方が良さそうですね』なんて言われた気がする。
  どこも悪くないのにな、なんて呑気に思ってた。


「……調べてもらおうか」
「え。で、でも……っ」
「フロウ?」
「ひゃい……」


  このやる気になった気持ちを押さえつけるのがつらくて抵抗したけど、すぐにラスティ厶殿下の笑顔の圧に負けた。

  なんだか僕だけがそういう気持ちになってたみたいで恥ずかしかった。

  殿下がベルで侍女を呼び、医師を寄越すようにと説明すると了承して外に出ていった。
  しばらくすると、年配のベテラン風な男の人が現れた。

  聞かれたことを答えたり、魔法でお腹をなぞるように見られたりして診察が終わると医師は口を開いた。


「おめでとうございます。 御懐妊でございます」


  同時に、ラスティ厶殿下が優しく包むように手を回した。


「フロウ……! ありがとう!」
「ラスティ様…っ」


  医師がニコニコとこちらを見ているけれど、殿下は気にせずに僕の頬やら額にキスを落とす。
  くすぐったくて笑っていると、医師は説明をし始めた。


「安定期に入るまでは激しい運動はお控えください。 あとは栄養のあるものをしっかりお食べになられてください」


  激しい運動、の部分をいやに強調された気がして、僕は頬を染めてしまった。

  その僕の様子を見たラスティ厶殿下のニヤけた顔を見て僕は頬を膨らまして抗議した。
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