8 / 20
8、帰ってきました
しおりを挟む
ぱち、と音がするくらいに勢いよく目を覚ました。見渡せばあまり馴染みのない景色に驚き、離れだと気づく。
そして早送りのように一気に流れ込む映像が脳裏に映し出された。
『起きた?まだ発情してるだろう?』
『慧さ、んっ、あっあん!あ!もっと、もっとぉ……!』
『ああ、たくさん気持ちよくしてあげるよ』
『慧さん!お願い、もっと、慧さんの、ちょぉだい……!』
『はは。エッロ。初めては私のを挿れたいから指で我慢して?大丈夫。祈里は良い子だから、指で上手にイけるな?』
『あー、可愛い。イキすぎて腰がガクガクしてるし、もう水みたいな精液しか出ないな。そろそろ打ち止めかな。空イキしそう』
『……っ、…っ! はっ、ぁ、……っ!!』
『あ、イったね。もう出ないね。はは、すんごいだらしない顔。かわい』
「っ!~~~~っ!!ごほ、ごほっ!」
思い出したここ何日かの出来事に叫ぼうとしたが喉が掠れて上手く叫べなかった。痛みで咳をすると、自分が寝ていた枕の隣にメモが置いてあることに気がついた。
そこには『祈里へ』と記載があった。
「『発情はだいぶ収まったようだから一旦帰ります。起きるまで居てやれなくてごめん』……っ、はぁああぁあ……」
どんな顔して合えばいいのか分からない。大きくため息をついてそう思った。
乱れに乱れきった記憶は曖昧にだがある。全然無いと思っていた性欲が爆発してずっと彼に強請った覚えもある。とにかく、はしたない。はしたない己の痴態をこれでもかとさらけ出した。
「ううううううぅう゛……」
枕に顔を埋めて唸る。恥ずかしさで穴を掘って埋まりたい。
彼は口では意地悪な所もあったが、手つきは優しさそのものであった。全身を撫ぜる手や僕の雄を擦る時も中をかき混ぜる指も全てが愛しいものを触る様だった。
あんなのずるい。あんな心地よい触れ方、忘れられるはずがない。
「はぁ……今日、一体何日目なんだろ。学校……」
のそのそと起き上がり、寝乱れた布団を整理して夜着を整えて本家にある自分の部屋にヨタヨタと向かった。
「行ってきます」
翌日、僕は発情期もきっちり終わって学校に向かった。結局四日も休んでしまったらしい。つまり、発情期で慧さんと三日間過ごしたわけだ。
あんなだらしない格好で彼にたくさん強請った。自分があんなに我儘だとは思いもしなかった。
欲のままに彼を欲した。今までの欲の無さは一体なんだったのだろうかと思うほどに。
恥ずかしくてブンブンと首を振って赤む自分の頬を押さえながら玄関を出て、庭を横切り家の門をくぐり抜けた。
「祈里!」
「……姉様……?!」
門の横には伊織が立っていた。相変わらず美しくて華奢なかわいい女の子だと思った。しかしその顔は明らかに疲労を宿し、艶のない肌と髪はいつもの美しさ半減させていた。
「どうして…いや、どこに行ってたの?!」
「そんなのどうでも良いじゃない!祈里に会いに来たのよ!」
「僕に? それより、なんでそんなに窶れてるの?」
「聞いてよ!私騙されたの!アイツ、『二人で一緒に暮らしていくなら、君も働いて欲しい』って言ってきたのよ?! そんなのおかしいじゃない!」
一気に捲し立てる伊織にやや引きながらも話を聞き続けた。門の前でする話じゃないと思い、仕方なく伊織を門の内側に引き入れる。
「働くとか、全然意味分かんない! そもそも私、あんな貧乏な暮らしするつもりなんてなかったのに!」
「何言って…そんなの予想出来たじゃないか。あの使用人が霜永家の使用人を辞めたらお給料だって無くなるし、大変なのは目に見えて分かるよ」
「だから!騙されたのよ!」
髪を振り乱しながら叫ぶ姉を落ち着かせようと背中を摩る。
「とにかく…母様と父様はカンカンに怒ってるんだ。戻ってくるならちゃんと誠心誠意謝って……」
「謝る?!なんでよ!騙されたって言ってるじゃない!なんで分かんないのよこのグズ!」
ヒートアップしている伊織を宥めるのは困難だった。こんなに騒いでいたら伊織が戻って来たことはすぐに伝わるだろう。それに、さっき近くにいた庭師が中に向かっていったのが見えた。母と父に知らせに行ったのだ。
「落ち着いて姉様。母様と父様とは僕が話してくるから、姉様は僕の部屋に……」
「何故その人間を霜永家の敷地に入れてるのですか」
低く、冷たい声が聞こえてきた。母の声だとすぐに気づいた。マズイ、とは思ったが伊織はそんな僕の思いに気づくことなく母に縋り着いた。
「お母様!私騙されたの!あの男が『こんな家に一生居ては不幸になる、飼い殺しだ』なんて言うから一緒に飛び出したの!なのにあの男、我儘だの働けだの、全然幸せになんか…っっ!」
パンッと言う乾いた音が庭に響き渡る。伊織は何が起こったのか一瞬分からなかった様だが、頬の赤みが痛みを表現していて頬を押さえた伊織もすぐに理解した。
「な……にするのよ!お母様!痛いじゃない!」
「痛くしたのだから当然です!今更帰ってきて何を言っているのですか!どれだけの人間が迷惑したと思っているのですか!お前の行動一つで本来ならば霜永家の大多数の人間が路頭に迷うところだったのですよ!!」
「は…」
「祈里がお前の代わりに皇家に嫁いでくれると言ってくれなかったら……!霜永家は終わっていたでしょう!どうして逃げたりしたのですか!お前が少しでも不自由ないようにと旦那様がどれだけ皇家に頭を下げて契約したと思っているのですか!」
「な、なに」
「逃げたりせず!不満だったなら不満と言えば良かったではないですか! お前が『皇家くらい経済界にも政界にも名高い家じゃないと嫁ぎたくない』というから……!」
母が一気にまくし立て、はぁはぁと息を切らして伊織を見下ろしていた。
「お前にはほとほと愛想が尽きました……!二度と顔を見せないでください!」
気丈な母が泣いている姿を見たのはこれが二回目だった。伊織は母を見上げ、呆然としているだけだった。
そして早送りのように一気に流れ込む映像が脳裏に映し出された。
『起きた?まだ発情してるだろう?』
『慧さ、んっ、あっあん!あ!もっと、もっとぉ……!』
『ああ、たくさん気持ちよくしてあげるよ』
『慧さん!お願い、もっと、慧さんの、ちょぉだい……!』
『はは。エッロ。初めては私のを挿れたいから指で我慢して?大丈夫。祈里は良い子だから、指で上手にイけるな?』
『あー、可愛い。イキすぎて腰がガクガクしてるし、もう水みたいな精液しか出ないな。そろそろ打ち止めかな。空イキしそう』
『……っ、…っ! はっ、ぁ、……っ!!』
『あ、イったね。もう出ないね。はは、すんごいだらしない顔。かわい』
「っ!~~~~っ!!ごほ、ごほっ!」
思い出したここ何日かの出来事に叫ぼうとしたが喉が掠れて上手く叫べなかった。痛みで咳をすると、自分が寝ていた枕の隣にメモが置いてあることに気がついた。
そこには『祈里へ』と記載があった。
「『発情はだいぶ収まったようだから一旦帰ります。起きるまで居てやれなくてごめん』……っ、はぁああぁあ……」
どんな顔して合えばいいのか分からない。大きくため息をついてそう思った。
乱れに乱れきった記憶は曖昧にだがある。全然無いと思っていた性欲が爆発してずっと彼に強請った覚えもある。とにかく、はしたない。はしたない己の痴態をこれでもかとさらけ出した。
「ううううううぅう゛……」
枕に顔を埋めて唸る。恥ずかしさで穴を掘って埋まりたい。
彼は口では意地悪な所もあったが、手つきは優しさそのものであった。全身を撫ぜる手や僕の雄を擦る時も中をかき混ぜる指も全てが愛しいものを触る様だった。
あんなのずるい。あんな心地よい触れ方、忘れられるはずがない。
「はぁ……今日、一体何日目なんだろ。学校……」
のそのそと起き上がり、寝乱れた布団を整理して夜着を整えて本家にある自分の部屋にヨタヨタと向かった。
「行ってきます」
翌日、僕は発情期もきっちり終わって学校に向かった。結局四日も休んでしまったらしい。つまり、発情期で慧さんと三日間過ごしたわけだ。
あんなだらしない格好で彼にたくさん強請った。自分があんなに我儘だとは思いもしなかった。
欲のままに彼を欲した。今までの欲の無さは一体なんだったのだろうかと思うほどに。
恥ずかしくてブンブンと首を振って赤む自分の頬を押さえながら玄関を出て、庭を横切り家の門をくぐり抜けた。
「祈里!」
「……姉様……?!」
門の横には伊織が立っていた。相変わらず美しくて華奢なかわいい女の子だと思った。しかしその顔は明らかに疲労を宿し、艶のない肌と髪はいつもの美しさ半減させていた。
「どうして…いや、どこに行ってたの?!」
「そんなのどうでも良いじゃない!祈里に会いに来たのよ!」
「僕に? それより、なんでそんなに窶れてるの?」
「聞いてよ!私騙されたの!アイツ、『二人で一緒に暮らしていくなら、君も働いて欲しい』って言ってきたのよ?! そんなのおかしいじゃない!」
一気に捲し立てる伊織にやや引きながらも話を聞き続けた。門の前でする話じゃないと思い、仕方なく伊織を門の内側に引き入れる。
「働くとか、全然意味分かんない! そもそも私、あんな貧乏な暮らしするつもりなんてなかったのに!」
「何言って…そんなの予想出来たじゃないか。あの使用人が霜永家の使用人を辞めたらお給料だって無くなるし、大変なのは目に見えて分かるよ」
「だから!騙されたのよ!」
髪を振り乱しながら叫ぶ姉を落ち着かせようと背中を摩る。
「とにかく…母様と父様はカンカンに怒ってるんだ。戻ってくるならちゃんと誠心誠意謝って……」
「謝る?!なんでよ!騙されたって言ってるじゃない!なんで分かんないのよこのグズ!」
ヒートアップしている伊織を宥めるのは困難だった。こんなに騒いでいたら伊織が戻って来たことはすぐに伝わるだろう。それに、さっき近くにいた庭師が中に向かっていったのが見えた。母と父に知らせに行ったのだ。
「落ち着いて姉様。母様と父様とは僕が話してくるから、姉様は僕の部屋に……」
「何故その人間を霜永家の敷地に入れてるのですか」
低く、冷たい声が聞こえてきた。母の声だとすぐに気づいた。マズイ、とは思ったが伊織はそんな僕の思いに気づくことなく母に縋り着いた。
「お母様!私騙されたの!あの男が『こんな家に一生居ては不幸になる、飼い殺しだ』なんて言うから一緒に飛び出したの!なのにあの男、我儘だの働けだの、全然幸せになんか…っっ!」
パンッと言う乾いた音が庭に響き渡る。伊織は何が起こったのか一瞬分からなかった様だが、頬の赤みが痛みを表現していて頬を押さえた伊織もすぐに理解した。
「な……にするのよ!お母様!痛いじゃない!」
「痛くしたのだから当然です!今更帰ってきて何を言っているのですか!どれだけの人間が迷惑したと思っているのですか!お前の行動一つで本来ならば霜永家の大多数の人間が路頭に迷うところだったのですよ!!」
「は…」
「祈里がお前の代わりに皇家に嫁いでくれると言ってくれなかったら……!霜永家は終わっていたでしょう!どうして逃げたりしたのですか!お前が少しでも不自由ないようにと旦那様がどれだけ皇家に頭を下げて契約したと思っているのですか!」
「な、なに」
「逃げたりせず!不満だったなら不満と言えば良かったではないですか! お前が『皇家くらい経済界にも政界にも名高い家じゃないと嫁ぎたくない』というから……!」
母が一気にまくし立て、はぁはぁと息を切らして伊織を見下ろしていた。
「お前にはほとほと愛想が尽きました……!二度と顔を見せないでください!」
気丈な母が泣いている姿を見たのはこれが二回目だった。伊織は母を見上げ、呆然としているだけだった。
116
お気に入りに追加
1,701
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭


Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。



初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる