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要らぬ訪問者

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  セティと暫く話をして、夕食を終えてそのままセティはレゲンデーア家に泊まることになった。
  一応フレイには家がある。しかしフレイ的にはセティを一人にしておきたくないらしい。王城に行ったレーヴェの護衛にフレイはついて行って居るので、そのまま滞在してもらった。

  なんだが騒がしい気がして目を覚ました。朝日がカーテンの隙間から差し込む眩しさで目を細めていると、扉が常にないほどノックされ続けていた。

  ベッドから足を下ろし、カーディガンを羽織って扉を少し開けた。

「……セス。どうしましたか?」

「おはようございます、カッツェ様。朝早から騒がしく大変申し訳ありません」

「構いません。用件は」

  セスは出来た執事だ。そんな彼が何度もノックするほど焦っている。
  とんでもない緊急事態なのだろうと察して話を促した。

「イェステ子爵夫人がお見えです」

  その言葉に大きく目を見開き、一瞬だけ思考することを失った。
  すぐに気を取り直し、セスにすぐに案内するように言った。

  セスの後ろを着いていくと、すぐにイェステ子爵夫人がいるのが分かった。客人を泊める部屋の近くで女性の声が聞こえてきた。

「……んで貴方がこのような場所にいるのかしら。卑しい踊り子の子供が」

「……お、お義母様、ここはレゲンデーア家……」

「母と呼ばれる謂れはありません!やめてちょうだい!」

  廊下に劈く声が響き渡る。セティは青い顔をしており、近くにいたメイドも同じ顔色をしていた。確かあのメイドはつい三日前に入ってきたばかりの新人だ。

「……申し訳ございません。どうやらあの新人メイドが誤って案内してしまったようで……」

「その件は後で話しましょう」

  セスに説明され、納得した。だが今はメイドのことよりもセティの事だ。

「イェステ子爵夫人。おはようございます」

  ニッコリと微笑んで声をかける。穏やかに落ち着いた声で話しかけると、イェステ子爵夫人はこちらに振り向き貴族夫人らしく微笑んだ。

  イェステ子爵夫人はセティの継母である。そしてフレイの実母だ。浪費家であまりいい噂は聞かない。今着ているドレスも宝石も、扇子も彼女の身の丈に何一つ合っていない。

「ご機嫌麗しゅう、カッツェ様」

「この間の夜会ぶりでしょうか?とても素敵なドレスですね」

「あら。分かりますか?これは最近人気のデザイナーによるもので」

  そして彼女はペラペラと話し始めた。やれドレスはどれだけ手間がかかったものか、やれ宝石はどれだけ手に入りにくいものか…今この状況でよく話せるものだ。
  だからこそ御しやすいとも思う。

「それで。イェステ子爵夫人。本日はどのようなご用件で?」

「あらやだ。すっかり。カッツェ様が美しくて忘れてしまいましたわ」

  カッツェの容姿のことなど一切触れていなかったのに突然こちらの責任にしてくるのはよして欲しい。

「この泥棒猫が…ふしだらにも私の息子に色目を使っておりますのよ。信じられませんわ。あの子は真面目で素晴らしく将来有望な子ですし…私が守らなくてはと思って来たんですの」

  泥棒猫と言われてビクリと肩を震わせるセティ。
  フレイはもう二十五だ。子供と言うにはだいぶ歳が経っている。
  夫人はカッツェがニコニコと話を聞いているからかペラペラと話すのを辞めなかった。

「大体、平民以下の卑しい踊り子の身分でしかない母親を持った子など…私は引き取るなと言ったのです。けれど夫が哀れに思って拾ってやったというのに、その恩も忘れて……」

「イェステ子爵夫人」

  まだ続けようとする夫人の口を遮るように名を呼んだ。
  ニコニコとしながら遮ったからか、夫人は少し驚きの表情で止まった。

「なにぶん今はまだ早朝です。礼儀に反していると思いませんか?」

「ふん。こんな泥棒猫に礼儀など」

「どんな相手にもすべきです。イェステ子爵夫人? 僕がそう言っているのです」

「は?」

「まだ分かりませんか?現在この屋敷の主人は僕です。礼儀がなってないと言ってるのですよ?」

「……そ、れは」

「もう少し分かりやすく教えて差し上げましょうか?」

  まだ口答えする元気がありそうなので畳み掛けることにする。

「僕は今、領主代行としてこの領地の、この屋敷の一切を任されています。その領地と屋敷に夫人はアポも取らずに迷惑極まりない時間帯にやってきて、この領主代行への挨拶もなく、その領主代行の大切な客人でもあり友人でもある人間に対し暴言を吐いております」

  ニッコリと微笑んで分かるように丁寧に伝えると、ようやく事の次第を飲み込めたのか夫人は顔を真っ青にしてたじろいだ。
  夫人のお供に来た夫人付きのメイドもカッツェの勢いに顔を青くしている。

「イェステ子爵夫人?具合が悪そうです。まだ朝も早いですし、家に帰って休まれた方が懸命かと」

「え、ええ!そうしますわ! ごきげんよう!」

  二度と来るなという意味を込めてイェステ子爵夫人の後ろ姿に手を振って差し上げた。
  セティを見るとズンと落ち込んで、顔色が悪い。

「セティ。嫌な思いをさせてすみませんでした……少し休んでください。そしてまた起きたら僕と遅めのブランチをとりましょう?」

「あ……ちが。カッツェは何も」

「いいえ、今この家で起きた一切は全て僕の責任です。さ、セティ。また起こしますから、何も考えずゆっくり休みましょう」

  優しくセティを部屋の中に誘導し、近くにいたメイドにセティを休ませるように命じた。

  セスと共に執務室へ行き、扉が閉まってすぐにセスは頭を下げた。

「新人が大変申し訳ありませんでした」

「……セス。メイドには一ヶ月の減給を。メイド長にもう一度徹底した教育をさせてください」

「は。かしこまりました」

  そしてカッツェはふぅ、とため息をついて執務室の天井を見上げ、少ししてからセスに顔を向けた。

「件のメイドに挽回のチャンスを与えましょう」

  そう言うとセスは目を見開き、すぐに頭を下げて了解の意を示した。


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