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「ふぅ……」


今日、ベルンハルトと4回目のホテルに入った。情事が終わり、ガウンを羽織ってソファに座る。コップに水を入れて掠れた喉を潤していた。

ベルンハルトはその隣に座って、ジッとこちらを見ていた。飲みにくい。


「な、なんですか?」


ずっと見られるのも限界で、ベルンハルトの方を見て尋ねる。もう一度、喉を潤すためにコップを傾けた。


「こないだ一緒に来たのは誰?」
「っんぐ」


喉に入った水を、危うく誤嚥するところだった。
ベルンハルトは至極真面目に聞いているようだった。こちらへの視線は外さないまま俺の言葉を待っている。


「えぇ……?」


やはり自分には、お互いを詮索しないというのがどこまでをさすのか分からなくなってしまう。

だが別に隠すことでもないため、まぁいいか、と話すことに決めた。


「先輩ですよ。細工師の。1番お世話になってる人です」
「それだけ?なんか妙に近い気がしたけど」
「えぇ…いや、それだけですけど……」


ベルンハルトはなんとなく納得してないようだった。取引先でも、さすがに工場長ほど上にならないと知らないのだろうか。アイザック先輩はちょくちょくシルヴィド商会に行っているようだったのに。

近いと言っても、別に納品の時に背中を箱で押したくらいだ。あとは隣を歩いていただけである。

俺はどうしていいか分からず、不思議に思ってベルンハルトを見ることしか出来なかった。何となくソワソワしてしまう。とりあえずもう一度水を飲んで落ち着くことにした。


「彼ともこういう関係?」
「っぶは」


飲んでいた水を少し吹き出してしまった。ベルンハルトの方を向いていなくて良かったと思う反面、なんてこと言うんだ、とベルンハルトにかけてやれば良かったとも思った。

俺は口元を拭いながら否定した。


「な、なわけないでしょう。アイザック先輩は妊娠中の奥さんがいますよ!」
「妊娠中なら溜まってるんじゃない?」
「な…っ」


この男は、どうしてしまったのか。こんな子供じみたことを言うような人だった事に驚いたし、先輩が侮辱されていることにも多少腹が立った。

と言うよりもだ。やはり条件の確認が必要な気がした。
彼から言い出したのだし、別に俺が彼の条件に抵触してないなら別にいいか、と、なあなあにしていた俺が悪い。けれども、さすがに彼の言葉は明らかに度を超えている。


「っていうか、『お互いのことを詮索しない』んじゃないですか? ぶっちゃけ、アイザック先輩とそういう関係だったとしてもベルンハルトさんには関係ないと思いますけど」
「…怒ってる?」
「怒るというか、先輩とはそんな関係じゃないって言ってるじゃないですか」


あまり感情を表に出さない俺でも、ベルンハルトを睨みながら言った事で効果があったようだ。彼の口がしばらく閉じた。


「どうしちゃったんですか…そちらの提示した条件でしょう?」
「いや、よく答えてくれていたから。…悪かったよ」


俺がなあなあだったせいで、彼も条件があやふやになったようだった。
謝罪をしたベルンハルトを見ながら、俺はため息をついた。彼はようやく反省したようで俯いて明らかに落ち込んでいた。


「はぁ…じゃあ何を聞いちゃいけないのか、ちゃんと決めましょう。そうすれば多少詮索しない内容が見えるはずですし」
「そうだね…そうしよう」
「俺は家族のことはあまり聞かれたくありません。聞かせて面白いものでも、楽しいものでもないです。俺自身も話したくないです」


ベルンハルトは頷いて了承したようだった。

アイザック先輩には話してしまっていたが、家族のことは自分の中ではまだ昇華しきれていない。
妹の桃のことは話せることは沢山あるが、両親とはお金のやり取りしかない希薄な関係だという話はあまりしたくない。それに、もう二度と会えない人達の話をするのも嫌だった。
これでは、女神に言われた時に転移ではなく、転生を選んだ方が良かったかもしれない。
記憶が無くても、最初からなら全てを受け入れられる。記憶があっても、新しい家族とやり直せるかもしれない。

しかし、それはもう後の祭りだ。


「ベルンハルトさんは?」
「私は、パン屋にいる理由だ」


1番気になっていたことを封じられてしまった。しかし、俺が言い出したことだから、責任を持たなくてはならない。俺も了承の意味を込めて頷いた。


「他は聞いてもいいんですね?」
「ああ、大丈夫」
「じゃあ俺も聞きます。こないだ一緒にいた、ベルンハルトさんに似ている人は誰ですか?」


最初に納品した時に、隣にいたベルンハルトと良く似た男性だ。ただ、単純に興味があった。兄弟のようにそっくりだった。


「アルノルトのことかい?私の兄だ」
「へぇ、跡継ぎはお兄さんじゃなかったんですね」
「兄は、計算よりも剣の方が好きだからね」
「なるほど。だからベルンハルトさんよりガタイが良かったんですね」


確かに、剣を振り回して魔獣を討伐しているのが似合う体躯の良さだった。ベルンハルトも別にヒョロい訳では無い。俺と比べると体格も良いし、筋肉もある。手も大きくて、指も俺より太い。あの指が俺の中を。

変なことを考えそうで頭を振った。ベルンハルトは不思議そうに俺を見る。


「どうしたの?」
「いや!なんでもないです!」


さっきしたばかりだと言うのに、ベルンハルトの指を見て想像してしまった自分に赤面してしまったのは、彼には言えなかった。
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