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シルヴィド商会は王国一大きな商会である。
主な取引相手は貴族であり、ありとあらゆる品を取り扱っている。魔核もその内の一つである。

元々はここまで大きくなかった。祖父の代で大きく成長した。そして、父が跡を継いで、自分が跡を継いだ。

ベルンハルト=ジルヴィドは次男である。
次男の自分がどうして跡継ぎになったのかは、ただ長男が騎士になると言って家を飛び出したからという至極明快な理由である。

長男は家を飛び出したが音信不通になった訳では無い。両親との仲も悪くは無い。 もともと、長男に商才は無さそうだと早い内から理解していたようだった。

そして白羽の矢が立ったのは、次男である自分だった。

跡継ぎになることに、なんの不満もなかった。商人の仕事を面白いと思うし、貴族と取引してやり合うのもやり甲斐がある。仕事に不満は何も無かった。

しかし、仕事をし始めて3年目のあの時、自分の中である問題が起きた。


「お前…、アレは……」
「アレって、シオンのこと?」


隣にいた兄、アルノルト=シルヴィドが、後ろ姿のシオンを見て苦悶の表情をしていた。

その理由は、痛いほど分かっている。


「…大丈夫だよ。分かってるから」
「何が分かっているだ! お前! 同じことを繰り返すんじゃないだろうな!」


兄は俺の肩を両手で掴んで揺らしてくる。 怒っている訳では無いことは分かっている。

ただ、心配してくれているのだ。

兄は弟である自分に、大きな商会を全て任せることに負い目を感じ続けている。自分がいくら、商人の仕事が好きだから構わないと言っているのにだ。

兄が掴んでいるこの肩には、何百人の従業員の将来がかかっている。


「繰り返すつもりはないよ。シオンは、代わりじゃない。……慰めだ」
「代わりじゃない? 何を言ってる。どこを見て代わりじゃないと言えるんだ…!」
「シオンは割り切ってくれると約束してる」
「そっちはそうかもしれないが! アレの姿を見て、お前のどこが割り切れているんだ!」


兄の眉間の皺が深くなる。怒ってはいない。ただ、自分を哀れに見ている。

兄の眼にはきっと、5年前の自分が映っている。


「シオンは似ていない」
「……っ、苦しむだけだ!お互いに!」
「シオンは知らない。詮索しないと約束してる」
「っくそ! 勝手にしろ!」


兄はそう言って、どこかに行ってしまった。しばらく顔を合わせてはくれないだろうな、と思った。

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