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そして、早速と言わんばかりに喫茶店を出て、ベルンハルトが止めた馬車に乗せられた。

馬車の中では一言も会話がなかった。俺は何を話していいか分からず、窓の外を見ているばかりだった。

これで良かったのだろうか。ベルンハルトは、後悔していないだろうか。あの返事で間違っていなかっただろうか。合わなかったら、この微妙な関係はどうなってしまうのか。

すると馬車は到着したのか、動きが止まった。


「降りよう」


そう言って、ベルンハルトは男の俺をエスコートするように降ろしてくれた。少しだけ恥ずかしい気もしたが、彼はそんなとこも恥ずかしげもなくする所が、らしいな、と思った。


「ここは?」
「入ろう」


質問には答えてもらえなかった。目の前にはいかにも高級感が出ている白い建物が建っていた。周りに植えられている木は丁寧に剪定されていそうだった。

重厚感のあるよく磨かれたドアをベルンハルトが開ける。すると、広いエントランスが広がった。ドアボーイなんか初めて見た。天井にはいくらするのか分からないシャンデリア、高級そうなソファはいくつも並べられていている。正面のカウンターには3人ほどの男性が並んでいた。

ベルンハルトはキョロキョロしてしまう俺を置いて、慣れた様子でカウンターへ向かう。なにかやり取りをして鍵を受け取っていた。


「あの」
「こっちだよ」


手を引かれる。ベルンハルトの足取りは喫茶店に向かう時と同じだった。

魔石で動くエレベーターに乗って、1番上の階を押していた。47階建てのようだった。やっぱり金持ちだったんだなぁ、と今更思いながら引かれた手が離れていなかったのを見ていた。

ドアが開くと、先程よりは小さなカウンターがまたあって、男性が立っていた。コンシェルジュがついている部屋のようだった。コンシェルジュはベルンハルトから鍵を受け取ると、扉を開けて、こちらですと案内してくれた。

扉を開けると圧巻だった。言葉を無くすということはこういうことだった。1面窓ガラス張りになっていた。天井も高く、下のエントランスよりは小さいが、豪奢なシャンデリアがある。壁には見たことないような額縁に収まった絵が並んでいて、いくらするのか分からない壺も飾られている。ソファは明らかにエントランスよりも高級感のあるものだった。


「すご……」


やっと出てきた言葉は語彙力が失われていた。ベルンハルトは気にもとめず、繋いだままの手を引く。コンシェルジュはいつの間にか扉を閉めていなくなっていた。

少し歩くとまた扉があった。ホテルに2部屋なんてあるのか、と思っていたが扉を開けられて固まった。

その部屋は、一体何人横になれるのかと思うベッドが鎮座していた。天蓋付きで、ベッドには薔薇の花びらが撒かれている。そんないかにもなベッドを目の前にして、俺は今更状況を理解した。


「え、え、い、今?」
 

まさか今日これからセフレとしての生活が始まるとは思っていなかった。次回からかと思っていたのだ。馬車に載せられた時点で気づくべきだった。むしろ何故理解出来ていなかったのか、自分のアホさ加減を呪った。


「合わなかったら、止めなくてはならないんだろう?」


ベルンハルトは今日合わなければ、この関係は終わりだと言っている。単純で、分かりやすい言葉に俺はこの状況に躊躇しながらも頷いた。


「そっちの部屋がシャワー室だ。先に入って準備して欲しい。準備の仕方は分かる?」


俺はなにも経験がないから、首を振った。ベルンハルトは慣れた様子でシャワーの説明をしてくれた。俺は少し恥ずかしかったが、これからのことを考えて真剣に聞くことにした。

聞き終えて、シャワー室に自分一人になった。


「……あああぁぁ……」


シャワー室で響かないように嘆きながら顔に手を当てて座り込んだ。すごいスピード感に、心がついていっていない。

そもそも今日は、ただ単に居酒屋で助けてくれたお礼を渡しただけだったのだ。それがどうしてこうなった。ここが異世界だから、こんなことになっているのか?

まさかここまで自分が流されやすい性格だとは思っていなかった。どちらかと言うと慎重な方で、新しいことには食いつきが悪い自分なのに。だいたいパンを買って渡すことも普通だったらしないだろう。どうしてベルンハルトが関わるとこうなるのか。

そして、俺はなんの確認もされず準備する側を指定されていた。いや、自分がベルンハルトを抱けるのかと聞かれれば、無理と答えるだろう。自分よりも体格が良くて身長の大きな男を組み敷いている姿は想像できない。

俺は小さくため息をついて、ベルンハルトに言われた通りに準備をすることにした。

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