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番外編
初恋 side ソーニャ
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ソーニャ=クロテットはあの食事以来、何度もジェドと会う事になった。
ジェドから誘ってくれる日もあれば、ソーニャから誘う日もあった。
そんな違いはあったが、違いがないこともあった。
「待ったか。悪いな。少し遅れた」
「いえ、僕も終わったばかりです」
ジェドは毎回必ず魔法師団まで迎えにきてくれるのだ。それを面倒だとも思っていないようで最初は少し驚いた。
ジェドが言うには、こういう世話焼きなお節介が積もり積もって今までの恋人と別れることになっていたと言う。どの女性も、最初はお姫様扱いしてくれて嬉しいというが、最後の方はちょっとうざったいと言われるらしい。
ソーニャも少し納得してしまった。それだけ気遣いが多い。
ソーニャが食事する周辺はいつの間にか整頓されているし、荷物は全部ジェドが持ってくれる。食べ方が難しい露店の串焼きを食べた時も落とさないようにジェドが持って、座ってから食べる。みんな歩きながら食べているのにだ。
ちゃんと意識して見れば、とにかく気を遣ってくれていた。
気遣いが多くなればなるほど、ソーニャのドジは相対的に減っていった。
恋人になるまでの間だけやってくれるのかもしれない、とも思った。
実際ターニャも付き合い始めは良い人なのに、時間が経つと人が変わったようになっていく男もいたと話していたことがある。
何ヶ月か経ってジェドからついに告白された。
ジェドがもしかしたら変わってしまうかもしれない、と少し怖かったが、そんなの付き合ってみないと分からないことだ。
ソーニャは告白を受け入れた。
そしてジェドは変わらずずっと紳士的であった。
「今日はターニャもエメもいなかったな」
「ああ、『もう任せることにした』って言ってました!」
「そうか。やっと信頼されたのか」
ジェドは嬉しそうに、ふ、と笑う。その姿がかっこいいと思って少し頬が熱くなるのを感じた。
ターニャもエメも、ディランの手腕を信じていながらもダメ男ばかりを見てきた弊害か、ジェドを最初は信頼しきっていなかった。
ジェドもそれが分かっていたのでターニャとエメの出迎え待ちを文句一つ言わず受け入れていた。
「ターニャに言われました…、私もディランに紹介されたいと」
「へぇ。ディランは喜んでやると思うけどな。まぁそうは言ってもターニャは自分で見つけたいんだろ?」
「そうなんですよね…運命は自分で見つけると微笑んでました」
「いつになるんだ、それは…俺も流石に心配になるレベルでダメなやつしか捕まえてないぞ。むしろよくあんなに見つけられるなと感心するんだが」
そんな話をしながら向かっている先は、ジェドの自宅だった。
ここ最近は自分の家に帰らず、ジェドの家に行くことが多くなった。
まぁ恋人となればそれなりのことも致すわけで。
最初は抵抗があった。男同士だし、どうやるのかもよく分からなかった。
けれどジェドはゆっくりと丁寧に時間をかけて、およそ最初にそう言うことを致し始めてから二ヶ月ほどかけて最後までいったのだ。
ジェドが気持ち良くなっていないことに二ヶ月の間不安を感じていたが、ジェドは『まっさらなソーニャが自分の色に染まっていくのは見ていて最高に楽しい』と言われて何も言うことができなくなった。
いや本当に良い笑顔で言われたのだ。
「僕、自分がドジで間抜けで良かったって、初めて思いました」
夕食後、ソファでだらりとくつろいでいる時に、思わず呟いた。
ソーニャはジェドに後ろから抱きしめられながら、すっぽりと足の間に収まっている。むしろここ最近の定位置と言ってもいい。
まだソーニャの服はそんなに置いてないので、ジェドの大きな服を被ってそこに収まっているのがひどく安心する。
ジェドの方を見ると、またふ、と笑っていた。大きく口を開けて笑っているジェドも好きだが、こうやって柔らかく優しく微笑んでくれるジェドを見るたび安心して心があったかくなるのを感じる。
「そうか。なら俺はお節介で良かったって思わないとだな」
「ふふ、ジェドはお節介じゃなくて優しいだけです」
身じろいでジェドの方へ体を捩る。首に腕を回すと嬉しそうにまた柔らかく微笑む。
ジェドはソーニャと同じ黒髪で、綺麗なアレキサンドライトを携えている。昼はエメラルドのように翠の色をしているように見えるのに、夜になるとルビーのように紅く煌めくのがとても好きでずっと見ていたくなる。
そうして見つめていると、ジェドの瞳が大きくなっていく。
吐息が感じる距離になってソーニャは本当は閉じたくない瞼を下ろす。ジェドに『それがマナーだ』と教わったからだ。
「ジェド…ん…」
けどソーニャは知っている。
いつも紳士的でソーニャのために色々してくれているジェドがこの時ばかりはマナーを破っていることを。
かすかに瞼を開ければ、やっぱり煌めくルビーが少しだけ見える。
でも嫌だとは思わなかった。
好きな人ってすごい、なんでも許せてしまう。
ソーニャはまた静かに瞼を閉じて、初めて好きになった恋人のキスに酔いしれていった。
ジェドから誘ってくれる日もあれば、ソーニャから誘う日もあった。
そんな違いはあったが、違いがないこともあった。
「待ったか。悪いな。少し遅れた」
「いえ、僕も終わったばかりです」
ジェドは毎回必ず魔法師団まで迎えにきてくれるのだ。それを面倒だとも思っていないようで最初は少し驚いた。
ジェドが言うには、こういう世話焼きなお節介が積もり積もって今までの恋人と別れることになっていたと言う。どの女性も、最初はお姫様扱いしてくれて嬉しいというが、最後の方はちょっとうざったいと言われるらしい。
ソーニャも少し納得してしまった。それだけ気遣いが多い。
ソーニャが食事する周辺はいつの間にか整頓されているし、荷物は全部ジェドが持ってくれる。食べ方が難しい露店の串焼きを食べた時も落とさないようにジェドが持って、座ってから食べる。みんな歩きながら食べているのにだ。
ちゃんと意識して見れば、とにかく気を遣ってくれていた。
気遣いが多くなればなるほど、ソーニャのドジは相対的に減っていった。
恋人になるまでの間だけやってくれるのかもしれない、とも思った。
実際ターニャも付き合い始めは良い人なのに、時間が経つと人が変わったようになっていく男もいたと話していたことがある。
何ヶ月か経ってジェドからついに告白された。
ジェドがもしかしたら変わってしまうかもしれない、と少し怖かったが、そんなの付き合ってみないと分からないことだ。
ソーニャは告白を受け入れた。
そしてジェドは変わらずずっと紳士的であった。
「今日はターニャもエメもいなかったな」
「ああ、『もう任せることにした』って言ってました!」
「そうか。やっと信頼されたのか」
ジェドは嬉しそうに、ふ、と笑う。その姿がかっこいいと思って少し頬が熱くなるのを感じた。
ターニャもエメも、ディランの手腕を信じていながらもダメ男ばかりを見てきた弊害か、ジェドを最初は信頼しきっていなかった。
ジェドもそれが分かっていたのでターニャとエメの出迎え待ちを文句一つ言わず受け入れていた。
「ターニャに言われました…、私もディランに紹介されたいと」
「へぇ。ディランは喜んでやると思うけどな。まぁそうは言ってもターニャは自分で見つけたいんだろ?」
「そうなんですよね…運命は自分で見つけると微笑んでました」
「いつになるんだ、それは…俺も流石に心配になるレベルでダメなやつしか捕まえてないぞ。むしろよくあんなに見つけられるなと感心するんだが」
そんな話をしながら向かっている先は、ジェドの自宅だった。
ここ最近は自分の家に帰らず、ジェドの家に行くことが多くなった。
まぁ恋人となればそれなりのことも致すわけで。
最初は抵抗があった。男同士だし、どうやるのかもよく分からなかった。
けれどジェドはゆっくりと丁寧に時間をかけて、およそ最初にそう言うことを致し始めてから二ヶ月ほどかけて最後までいったのだ。
ジェドが気持ち良くなっていないことに二ヶ月の間不安を感じていたが、ジェドは『まっさらなソーニャが自分の色に染まっていくのは見ていて最高に楽しい』と言われて何も言うことができなくなった。
いや本当に良い笑顔で言われたのだ。
「僕、自分がドジで間抜けで良かったって、初めて思いました」
夕食後、ソファでだらりとくつろいでいる時に、思わず呟いた。
ソーニャはジェドに後ろから抱きしめられながら、すっぽりと足の間に収まっている。むしろここ最近の定位置と言ってもいい。
まだソーニャの服はそんなに置いてないので、ジェドの大きな服を被ってそこに収まっているのがひどく安心する。
ジェドの方を見ると、またふ、と笑っていた。大きく口を開けて笑っているジェドも好きだが、こうやって柔らかく優しく微笑んでくれるジェドを見るたび安心して心があったかくなるのを感じる。
「そうか。なら俺はお節介で良かったって思わないとだな」
「ふふ、ジェドはお節介じゃなくて優しいだけです」
身じろいでジェドの方へ体を捩る。首に腕を回すと嬉しそうにまた柔らかく微笑む。
ジェドはソーニャと同じ黒髪で、綺麗なアレキサンドライトを携えている。昼はエメラルドのように翠の色をしているように見えるのに、夜になるとルビーのように紅く煌めくのがとても好きでずっと見ていたくなる。
そうして見つめていると、ジェドの瞳が大きくなっていく。
吐息が感じる距離になってソーニャは本当は閉じたくない瞼を下ろす。ジェドに『それがマナーだ』と教わったからだ。
「ジェド…ん…」
けどソーニャは知っている。
いつも紳士的でソーニャのために色々してくれているジェドがこの時ばかりはマナーを破っていることを。
かすかに瞼を開ければ、やっぱり煌めくルビーが少しだけ見える。
でも嫌だとは思わなかった。
好きな人ってすごい、なんでも許せてしまう。
ソーニャはまた静かに瞼を閉じて、初めて好きになった恋人のキスに酔いしれていった。
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