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番外編
一生 side ジェド
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ジェド=フォルトナーが騎士団に行くと、ディランに先日の食事はどうだったか尋ねられた。
「どうもこうもねぇよ。普通に食事しただけだ」
「でも楽しかったんじゃねぇか?」
「まぁあんだけの美人と食事なんか滅多にねぇからな」
ジェドがそういうと、ディランは肩を竦めて首を横に振った。
「違いますよ。久しぶりに世話が焼けて楽しかったかってことだ」
「…お前な。まあ、確かに。面倒見甲斐があるやつではあったな」
「そんなレベルじゃねぇって聞いてるんですよ。エメが知る限り、呆れ果てて友人も離れていってほとんどいないらしい」
ジェドもそれは感じた。エメやターニャに対し、一緒に居てくれている、と思っている節が所々に見受けられたのだ。
ドジを踏み、友人が離れていって、家族や姉は離れていかないにしても呆れていて、全ての自信が喪失しているに違いない。
「先パイの前ではドジしなかったんじゃないすか?」
「何回かつまづいてはいたがな。帰りに感謝された」
ソーニャは帰り道、何回かつまづきながらも目を輝かせて喜ばれた。忘れ物もなくて水も溢さなくて、転ばなかったのは生まれて初めてだったと。
手を掴まれて「ありがとうございました!」と美人の強烈な笑顔を魅せられて感謝された。
「はーやっぱりなぁ!どうだ?タイプではあるんじゃないですか?」
「タイプっちゃタイプだが。ありゃ男にトラウマ半端ないぞ。俺じゃ難しいな」
ターニャの恋人に迫られ、恋愛に恐怖を感じているソーニャが男のジェドに振り向くとはとても思えなかった。
美人で可愛いところがあって、世話のしがいがあるところはタイプだが、同姓同士に抵抗がある男を無理やり恋人にしたいとは考えていない。
「いやいや、ありゃ押せば落ちる。姉のターニャはかなり惚れっぽいと聞いてるんでね。きっかけさえあればコロッと落ちますよ」
「きっかけなぁ…」
ディランの悪魔の甘言に思わず笑いそうになる。そんなきっかけがあったらとっくに起きているものだ。
それに姉がトラウマを引き起こした原因なのだ。むしろ反面教師で慎重になってしまったから今まで恋愛ができなかったのではないか。
「むしろもうきっかけは与え終わったも同然なんですけどね。きっと向こうも考えてる頃だ。男もアリなのかってな」
「は、その予想が当たったら飯奢ってやるよ。天才だってな」
「言いましたね。言っときますけど、賭けで負けたことはねぇんだ。むしろ結婚するに賭けてやりますよ」
あまりにも強気なディランに、ジェドはたじろいだ。
この男がエリートなのも納得できる。引き際を把握しつつ、勝負する時はこうやって獣のように強気になるのだ。
「とにかく、もう一回会いさえすれば結婚秒読みだ。あー楽しみだ。何奢ってもらうかなー」
「お前な…負けた時は何してくれんだよ」
「もちろん、違うやつを紹介しますよ。まぁ、一番ではなくなりますけどね。それでも好きになったらちゃんと幸せになるような奴を」
ディランにとって、ジェドの恋人に最適なのはソーニャだともう既に確信している。
いや、紹介した時から確信している様子ではあったのだが、今日の話で余計に確信を深めているようだった。
そしてディランはいつも通り、不敵な笑みを浮かべてジェドにこう言った。
「けど、ソーニャを逃したらアンタ多分十年どころか、一生後悔するぜ?」
□■□
次の日、ソーニャから突然魔法で連絡があった。
驚きつつももう一度食事に行きたいという誘いに承諾した。迎えに行くか、と言おうと思ったのだが、迎えには来ないでほしいと言われた。
よく分からなかったが、ソーニャがそういうならば恋人でもないジェドは無理強いできない。
了解して、後日食事することになった。
そして今日がその当日であった。
「…時間間違ったか?」
既に待ち続けて一時間経っている。ジェドは時間と日時をミスったかと思ったが、すぐに思い直す。
ああ、迷子になっているのだと。
真面目なソーニャの性格だ、すっぽかす気は全く考えていないだろう。それは二日関わってよく分かった。
しかし、迷子になってしまう理由も分かっているだけにジェドはソワソワしてしまう。
きっとボーッとして、余所見をして、猫でも見つけたか、キラキラしているものでも見つけたか。とにかく何かしらの理由で辿り着けなくなっている。
どうしたものか、と悩んだ。迎えにここから行ってもジェドとしては一向に構わない。
けれど来ないで欲しい、と頼まれたことが引っかかった。
何か理由があってソーニャはわざとそうしたのだ。
そう考えていると、店にバタバタと入ってくる音が聞こえた。入口の方を見ると、息を切らしたソーニャが立っていた。
ソーニャは店員に誘導されてジェドの席に辿り着くと、すぐに謝罪してきた。
「す、すみません…!あの、遅刻するつもりはなくて、ちゃんと時間通りにくるつもりで、その…!」
「いいから、疲れただろ。座れって」
「あ、う…はい…」
ソーニャは乱れた髪を簡単に直しながらジェドの対面に座った。適当にメニューは頼んでおいたので、あとはソーニャに飲み物だけ頼んでもらうことにした。
ちなみに食事はまだソーニャの前に置かないようにしてあった。絶対にメニュー表をぶつけて食事を落とす気がしたからだ。
ソーニャが飲み物を頼んだところで、今日の目的を訪ねた。
「で?今日はどうして誘ったんだ?しかも迎えもなしで」
「あ…えっと。その…僕がどれだけドジを踏むのか、ちゃんと見てもらおうと思って…」
ジェドは目を剥いてソーニャを見た。
一瞬で全てを理解してしまった。
「ふ、はは!なんだそりゃ!面白いなお前!」
ソーニャは迷子になってしまって遅刻するような人間であって、それをジェドに再確認させたいと思ったのだ。
ジェドにとったら喜ばしい話でしかなかった。
そんなの、もうジェドを意識しているも同然ではないか。
「うう、だって…ターニャに言われたんです…僕のドジを完璧に把握して対応できる人なんか、この先一生現れないって」
一生。ディランもジェドに一生後悔すると言った。
ジェドやソーニャのことを一番理解しているのは、自分自身ではなく、よく見ている他人なのかもしれない。
「だから、もう一度、ドジをしている僕をちゃんと見てもらおうと、思って…」
ジェドはつい綻んでしまった。
なんともいじらしい様子は美人顔と相乗効果でジェドの心をひどくかき乱してくる。
これは、ディランにもう負けたのかも知れない。
「じゃあ俺にちゃんと全部教えてくれよ。ソーニャのこと」
ソーニャの頬に手を伸ばしても、ソーニャはその手を拒否することなく白い肌が赤らんでくる様子に、ディランの言う通りだったと思う。
押せば落ちる、と。
「どうもこうもねぇよ。普通に食事しただけだ」
「でも楽しかったんじゃねぇか?」
「まぁあんだけの美人と食事なんか滅多にねぇからな」
ジェドがそういうと、ディランは肩を竦めて首を横に振った。
「違いますよ。久しぶりに世話が焼けて楽しかったかってことだ」
「…お前な。まあ、確かに。面倒見甲斐があるやつではあったな」
「そんなレベルじゃねぇって聞いてるんですよ。エメが知る限り、呆れ果てて友人も離れていってほとんどいないらしい」
ジェドもそれは感じた。エメやターニャに対し、一緒に居てくれている、と思っている節が所々に見受けられたのだ。
ドジを踏み、友人が離れていって、家族や姉は離れていかないにしても呆れていて、全ての自信が喪失しているに違いない。
「先パイの前ではドジしなかったんじゃないすか?」
「何回かつまづいてはいたがな。帰りに感謝された」
ソーニャは帰り道、何回かつまづきながらも目を輝かせて喜ばれた。忘れ物もなくて水も溢さなくて、転ばなかったのは生まれて初めてだったと。
手を掴まれて「ありがとうございました!」と美人の強烈な笑顔を魅せられて感謝された。
「はーやっぱりなぁ!どうだ?タイプではあるんじゃないですか?」
「タイプっちゃタイプだが。ありゃ男にトラウマ半端ないぞ。俺じゃ難しいな」
ターニャの恋人に迫られ、恋愛に恐怖を感じているソーニャが男のジェドに振り向くとはとても思えなかった。
美人で可愛いところがあって、世話のしがいがあるところはタイプだが、同姓同士に抵抗がある男を無理やり恋人にしたいとは考えていない。
「いやいや、ありゃ押せば落ちる。姉のターニャはかなり惚れっぽいと聞いてるんでね。きっかけさえあればコロッと落ちますよ」
「きっかけなぁ…」
ディランの悪魔の甘言に思わず笑いそうになる。そんなきっかけがあったらとっくに起きているものだ。
それに姉がトラウマを引き起こした原因なのだ。むしろ反面教師で慎重になってしまったから今まで恋愛ができなかったのではないか。
「むしろもうきっかけは与え終わったも同然なんですけどね。きっと向こうも考えてる頃だ。男もアリなのかってな」
「は、その予想が当たったら飯奢ってやるよ。天才だってな」
「言いましたね。言っときますけど、賭けで負けたことはねぇんだ。むしろ結婚するに賭けてやりますよ」
あまりにも強気なディランに、ジェドはたじろいだ。
この男がエリートなのも納得できる。引き際を把握しつつ、勝負する時はこうやって獣のように強気になるのだ。
「とにかく、もう一回会いさえすれば結婚秒読みだ。あー楽しみだ。何奢ってもらうかなー」
「お前な…負けた時は何してくれんだよ」
「もちろん、違うやつを紹介しますよ。まぁ、一番ではなくなりますけどね。それでも好きになったらちゃんと幸せになるような奴を」
ディランにとって、ジェドの恋人に最適なのはソーニャだともう既に確信している。
いや、紹介した時から確信している様子ではあったのだが、今日の話で余計に確信を深めているようだった。
そしてディランはいつも通り、不敵な笑みを浮かべてジェドにこう言った。
「けど、ソーニャを逃したらアンタ多分十年どころか、一生後悔するぜ?」
□■□
次の日、ソーニャから突然魔法で連絡があった。
驚きつつももう一度食事に行きたいという誘いに承諾した。迎えに行くか、と言おうと思ったのだが、迎えには来ないでほしいと言われた。
よく分からなかったが、ソーニャがそういうならば恋人でもないジェドは無理強いできない。
了解して、後日食事することになった。
そして今日がその当日であった。
「…時間間違ったか?」
既に待ち続けて一時間経っている。ジェドは時間と日時をミスったかと思ったが、すぐに思い直す。
ああ、迷子になっているのだと。
真面目なソーニャの性格だ、すっぽかす気は全く考えていないだろう。それは二日関わってよく分かった。
しかし、迷子になってしまう理由も分かっているだけにジェドはソワソワしてしまう。
きっとボーッとして、余所見をして、猫でも見つけたか、キラキラしているものでも見つけたか。とにかく何かしらの理由で辿り着けなくなっている。
どうしたものか、と悩んだ。迎えにここから行ってもジェドとしては一向に構わない。
けれど来ないで欲しい、と頼まれたことが引っかかった。
何か理由があってソーニャはわざとそうしたのだ。
そう考えていると、店にバタバタと入ってくる音が聞こえた。入口の方を見ると、息を切らしたソーニャが立っていた。
ソーニャは店員に誘導されてジェドの席に辿り着くと、すぐに謝罪してきた。
「す、すみません…!あの、遅刻するつもりはなくて、ちゃんと時間通りにくるつもりで、その…!」
「いいから、疲れただろ。座れって」
「あ、う…はい…」
ソーニャは乱れた髪を簡単に直しながらジェドの対面に座った。適当にメニューは頼んでおいたので、あとはソーニャに飲み物だけ頼んでもらうことにした。
ちなみに食事はまだソーニャの前に置かないようにしてあった。絶対にメニュー表をぶつけて食事を落とす気がしたからだ。
ソーニャが飲み物を頼んだところで、今日の目的を訪ねた。
「で?今日はどうして誘ったんだ?しかも迎えもなしで」
「あ…えっと。その…僕がどれだけドジを踏むのか、ちゃんと見てもらおうと思って…」
ジェドは目を剥いてソーニャを見た。
一瞬で全てを理解してしまった。
「ふ、はは!なんだそりゃ!面白いなお前!」
ソーニャは迷子になってしまって遅刻するような人間であって、それをジェドに再確認させたいと思ったのだ。
ジェドにとったら喜ばしい話でしかなかった。
そんなの、もうジェドを意識しているも同然ではないか。
「うう、だって…ターニャに言われたんです…僕のドジを完璧に把握して対応できる人なんか、この先一生現れないって」
一生。ディランもジェドに一生後悔すると言った。
ジェドやソーニャのことを一番理解しているのは、自分自身ではなく、よく見ている他人なのかもしれない。
「だから、もう一度、ドジをしている僕をちゃんと見てもらおうと、思って…」
ジェドはつい綻んでしまった。
なんともいじらしい様子は美人顔と相乗効果でジェドの心をひどくかき乱してくる。
これは、ディランにもう負けたのかも知れない。
「じゃあ俺にちゃんと全部教えてくれよ。ソーニャのこと」
ソーニャの頬に手を伸ばしても、ソーニャはその手を拒否することなく白い肌が赤らんでくる様子に、ディランの言う通りだったと思う。
押せば落ちる、と。
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