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番外編
理解する side ジェド
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ジェド=フォルトナーが魔法師団に到着すると、なぜかお供が二人ほどくっついていたことに気がついた。
「いやー、ここまで来てくれてありがとうございます!ジェドさん!」
「ええ本当、有難いわ」
二人ともソーニャに手を置いてニコニコとジェドに言う。エメはわかるのだが、反対にいるソーニャと瓜二つの女性に見覚えはなかった。この女性がエメがこの間言っていた姉であることをすぐに理解した。
「あ、ああ。二人も一緒に行くのか?」
ソーニャだけ誘ったつもりだったが、あまりにもニコニコとしているので誘わないのも悪いと思っていうが、二人共「とんでもない!」と大きく首を振って否定した。
ソーニャを見るとどうするのが正解なのか分からなくてオロオロしていた。
「この子をよろしくお願いします」
「た、ターニャ…そんな子供扱いしないでよ…っ」
ターニャと呼ばれた女性はソーニャの恥ずかしそうにしている事にも気にせずニコニコとジェドに笑い続ける。
明らかにジェドに気がある笑顔ではなく、本当にソーニャを任せたい…いやなんとなくだが押し付けたいという気持ちが混じっているような気がした。
ジェドとしてはただ本当に謝罪の食事のつもりだったのだが、二人の圧が強い。
あからさまにジェドとソーニャが上手くいくことを前提にしている圧だ。
どうしたものか、と思いつつも、とりあえず予約していた店の時間もあるので出発することを提案した。
「まぁとにかく出よう。じゃあ、ソーニャはお預かりします」
「ええ!ジェドさんまで!ひどい!」
ソーニャはジェドも子供扱いしたのかと思って声を大きくするが、二人が「行ってらっしゃい!」と手を振るのでソーニャはもうそれ以上何も言い返せなくなってしまった。
店に辿り着いて、席に座ってジェドの第一の感想をソーニャに伝えた。
「…本当に何も無いところで転ぶんだな」
「うう…」
ジェドはなるべくゆっくり歩いているつもりだった。
騎士と文官では体力も違うし、体格差もあってコンパスも違う。なので歩調をソーニャに合わせたつもりだったのだ。
しかし、それでもソーニャは二、三度つまづいたのだ。本当に、何もないところで。その度ジェドは支えた。
何かの病気を疑うレベルだが、ちょっと一緒に歩いただけなのに本人の不注意がつまづく原因だということはもうよく分かった。
とにかくボーッとしている。
ボーッとしたと思ったらキラキラしたものや目立つ色をしたものに目を盗られ、よそ見をする。
話しかければ応答するが、基本的に穏やかで静かなのかよくボーッとしていた。
隣に初対面と言っても過言ではない男がいてもだ。
これはきっと生来の気質に違いない。
見ていて危なっかしくて仕方なかった。
「…ソーニャはよく見た目と性格が違うって言われないか」
「え!い、言われます…!なんでわかるんですか!?」
ソーニャはかなりの美人だ。美人でしかもどこか色っぽいというか妖艶な雰囲気を醸し出している。
ボーッとしている時なんか特にそうだ。多分本人は何も考えていないんだろうが、物思いに耽っているように見えるその姿に周囲の人間はよくソーニャを二度見していた。
艶やかな黒髪は耳にかかるほどであり、瞳は不思議な色をしていた。先ほどまで青みが強かったのに、今は暗い雰囲気の店だからなのか、レディッシュピンクのような色に変わっている。まるでベキリーブルーガーネットのようで不思議と惹き込まれてしまう瞳をしていた。
おそらく見た目だけなら老若男女惑わされてしまうだろう。
実際、エメからも姉、ターニャの恋人はそっくりなソーニャにも手を出そうとしてくるクズが多かったと話す。
ジェドもその不貞は人として許せないなと思いつつも、ソーニャの姿を見ると男としては分からないでもないと思ってしまう。
「なんでだろうな。まぁ、今日は奢るからなんでも好きなものを食べてくれ」
「う、はい…」
うーんうーんと悩みながら少しずつ決めていくソーニャの姿は見ていて飽きなかった。
普通の人間ならイライラしてしまうかも知れないほど悩み続けている。ジェドもどちらかというと即決派だ。
けどジェドはその時間も別に苦ではない。なんでも真剣に真面目に悩んでいる姿にむしろ好感を覚えるというものだ。
ある程度決まったのか、顔を上げたので店員を呼んで注文をした。
注文を終えるとメニュー表を置こうとしたので受け取ることにした。
「?まだ何か頼むんですか?」
「そうじゃないけど、貸してもらっていいか?」
はい、と素直に渡された。ジェドはそのメニュー表は店員に下げてもらうことにした。
ソーニャは絶対にテーブルにある水をこぼすと踏んだのだ。全く前を気にせずメニュー表を置こうとしたためだ。
ソーニャはちなみに全く気づいていない。
これは姉ターニャは気が気でないだろう。よく転ぶ、前方不注意、よくこぼす。その上忘れ物に迷子。日常的にこれらが起きているのならば、引き取り手を探そうとしている気持ちもわからないでもない。
だからターニャは好意的であんなにニコニコとしていたのだ。
そしてジェドは気づき始めた。
ディランは、世話好きでお節介なところがあるジェドがこのおっちょこちょいなソーニャとなら相性がいいはずと決めて紹介したのだと。
しかしソーニャ自身に大きなお世話だと言われたらおしまいだと思うのだか、その辺はどうするつもりだったのだろうか。
「姉とはよく遊ぶのか?仲良いんだな」
「ターニャは僕の面倒見係みたいなものだったので…親からずっとターニャは頼まれていました」
「なるほどな…まぁ別に嫌そうな感じはなかったがな」
「でもずっと呆れてはいました。僕もこのドジをする所は直そうとしてきたんですか…どうにも出来なくて。ターニャも最近はもう諦めています」
自重気味に話すソーニャはやはり美人だった。そればかりか落ち込んでいる様子は儚げで、その辺の男だったらきっともう落ちている。
「見捨てられなかっただけ有難いです。ターニャも自分のそう言う所がダメ男を捕まえる要因だと落ち込んでましたが」
「ああ…エメの友人たちはダメ男をよく捕まえるんだったな」
「そうなんです。だから僕は自分ももしかしたら変な女性を捕まえるんじゃないかって怖くて、この歳まで誰とも付き合わずに来てしまいました…」
ジェドは含んだ水を吹き出しそうになった。実際、ぐっ、と喉を詰まらせた。
「?ジェドさん?」
「い、いや、なんでもない」
またしてもジェドは驚くことになった。しかし今回はなんとか口に出すことは憚られたので冷静を保った。
「…よく無事だったな」
「?どういう意味ですか?」
まさかこんな美人で儚げで、少し…いや結構抜けているところがある純真な男が、まさか誰のお手つきもついていない童貞処女だとは思ってもなかったのだった。
「いやー、ここまで来てくれてありがとうございます!ジェドさん!」
「ええ本当、有難いわ」
二人ともソーニャに手を置いてニコニコとジェドに言う。エメはわかるのだが、反対にいるソーニャと瓜二つの女性に見覚えはなかった。この女性がエメがこの間言っていた姉であることをすぐに理解した。
「あ、ああ。二人も一緒に行くのか?」
ソーニャだけ誘ったつもりだったが、あまりにもニコニコとしているので誘わないのも悪いと思っていうが、二人共「とんでもない!」と大きく首を振って否定した。
ソーニャを見るとどうするのが正解なのか分からなくてオロオロしていた。
「この子をよろしくお願いします」
「た、ターニャ…そんな子供扱いしないでよ…っ」
ターニャと呼ばれた女性はソーニャの恥ずかしそうにしている事にも気にせずニコニコとジェドに笑い続ける。
明らかにジェドに気がある笑顔ではなく、本当にソーニャを任せたい…いやなんとなくだが押し付けたいという気持ちが混じっているような気がした。
ジェドとしてはただ本当に謝罪の食事のつもりだったのだが、二人の圧が強い。
あからさまにジェドとソーニャが上手くいくことを前提にしている圧だ。
どうしたものか、と思いつつも、とりあえず予約していた店の時間もあるので出発することを提案した。
「まぁとにかく出よう。じゃあ、ソーニャはお預かりします」
「ええ!ジェドさんまで!ひどい!」
ソーニャはジェドも子供扱いしたのかと思って声を大きくするが、二人が「行ってらっしゃい!」と手を振るのでソーニャはもうそれ以上何も言い返せなくなってしまった。
店に辿り着いて、席に座ってジェドの第一の感想をソーニャに伝えた。
「…本当に何も無いところで転ぶんだな」
「うう…」
ジェドはなるべくゆっくり歩いているつもりだった。
騎士と文官では体力も違うし、体格差もあってコンパスも違う。なので歩調をソーニャに合わせたつもりだったのだ。
しかし、それでもソーニャは二、三度つまづいたのだ。本当に、何もないところで。その度ジェドは支えた。
何かの病気を疑うレベルだが、ちょっと一緒に歩いただけなのに本人の不注意がつまづく原因だということはもうよく分かった。
とにかくボーッとしている。
ボーッとしたと思ったらキラキラしたものや目立つ色をしたものに目を盗られ、よそ見をする。
話しかければ応答するが、基本的に穏やかで静かなのかよくボーッとしていた。
隣に初対面と言っても過言ではない男がいてもだ。
これはきっと生来の気質に違いない。
見ていて危なっかしくて仕方なかった。
「…ソーニャはよく見た目と性格が違うって言われないか」
「え!い、言われます…!なんでわかるんですか!?」
ソーニャはかなりの美人だ。美人でしかもどこか色っぽいというか妖艶な雰囲気を醸し出している。
ボーッとしている時なんか特にそうだ。多分本人は何も考えていないんだろうが、物思いに耽っているように見えるその姿に周囲の人間はよくソーニャを二度見していた。
艶やかな黒髪は耳にかかるほどであり、瞳は不思議な色をしていた。先ほどまで青みが強かったのに、今は暗い雰囲気の店だからなのか、レディッシュピンクのような色に変わっている。まるでベキリーブルーガーネットのようで不思議と惹き込まれてしまう瞳をしていた。
おそらく見た目だけなら老若男女惑わされてしまうだろう。
実際、エメからも姉、ターニャの恋人はそっくりなソーニャにも手を出そうとしてくるクズが多かったと話す。
ジェドもその不貞は人として許せないなと思いつつも、ソーニャの姿を見ると男としては分からないでもないと思ってしまう。
「なんでだろうな。まぁ、今日は奢るからなんでも好きなものを食べてくれ」
「う、はい…」
うーんうーんと悩みながら少しずつ決めていくソーニャの姿は見ていて飽きなかった。
普通の人間ならイライラしてしまうかも知れないほど悩み続けている。ジェドもどちらかというと即決派だ。
けどジェドはその時間も別に苦ではない。なんでも真剣に真面目に悩んでいる姿にむしろ好感を覚えるというものだ。
ある程度決まったのか、顔を上げたので店員を呼んで注文をした。
注文を終えるとメニュー表を置こうとしたので受け取ることにした。
「?まだ何か頼むんですか?」
「そうじゃないけど、貸してもらっていいか?」
はい、と素直に渡された。ジェドはそのメニュー表は店員に下げてもらうことにした。
ソーニャは絶対にテーブルにある水をこぼすと踏んだのだ。全く前を気にせずメニュー表を置こうとしたためだ。
ソーニャはちなみに全く気づいていない。
これは姉ターニャは気が気でないだろう。よく転ぶ、前方不注意、よくこぼす。その上忘れ物に迷子。日常的にこれらが起きているのならば、引き取り手を探そうとしている気持ちもわからないでもない。
だからターニャは好意的であんなにニコニコとしていたのだ。
そしてジェドは気づき始めた。
ディランは、世話好きでお節介なところがあるジェドがこのおっちょこちょいなソーニャとなら相性がいいはずと決めて紹介したのだと。
しかしソーニャ自身に大きなお世話だと言われたらおしまいだと思うのだか、その辺はどうするつもりだったのだろうか。
「姉とはよく遊ぶのか?仲良いんだな」
「ターニャは僕の面倒見係みたいなものだったので…親からずっとターニャは頼まれていました」
「なるほどな…まぁ別に嫌そうな感じはなかったがな」
「でもずっと呆れてはいました。僕もこのドジをする所は直そうとしてきたんですか…どうにも出来なくて。ターニャも最近はもう諦めています」
自重気味に話すソーニャはやはり美人だった。そればかりか落ち込んでいる様子は儚げで、その辺の男だったらきっともう落ちている。
「見捨てられなかっただけ有難いです。ターニャも自分のそう言う所がダメ男を捕まえる要因だと落ち込んでましたが」
「ああ…エメの友人たちはダメ男をよく捕まえるんだったな」
「そうなんです。だから僕は自分ももしかしたら変な女性を捕まえるんじゃないかって怖くて、この歳まで誰とも付き合わずに来てしまいました…」
ジェドは含んだ水を吹き出しそうになった。実際、ぐっ、と喉を詰まらせた。
「?ジェドさん?」
「い、いや、なんでもない」
またしてもジェドは驚くことになった。しかし今回はなんとか口に出すことは憚られたので冷静を保った。
「…よく無事だったな」
「?どういう意味ですか?」
まさかこんな美人で儚げで、少し…いや結構抜けているところがある純真な男が、まさか誰のお手つきもついていない童貞処女だとは思ってもなかったのだった。
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