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それから side コリン

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コリン=イェルリンは後悔していた。

「うわあぁあん! サシャー!悪かったから機嫌直してえぇええ!」
「うるさいです、コリンさん。卑怯者」

一週間の休みを経て、職場に戻ってきたサシャ=イブリックの肌ツヤはテカテカとしてみずみずしくなっていた。
機嫌はまだ悪いが、旦那とは恐ろしいほど楽しんだらしい。結局旅行は行かず、一週間家に引きこもっていたようだ。

「イヴにもクラークにも会ってきたなんて。どういうことですか」
「あ、それだけじゃないよ。サシャの弟にも会ってきた」
「え?!」

一ヶ月の間に何度かエメとやり取りをしていた。すると、エメが紹介してきたのがダリル=シェルヴェンだった。
「サシャの弟なんだぜ? ビックリするほど似てないらしいな!」とエメが言うと、「余計なお世話。兄上は鈍臭いと思うけど、ちゃんと仕事してます?本当に鈍臭いんで」とダリルはツンツンしながらそんなことを言った。

「ど、鈍臭いって…」
「でもお兄ちゃんを心配する弟って感じだったよ。会ってあげれば?」
「え……嫌……」

サシャにダリルと会うことを勧めるが、心底嫌そうな顔をしていた。ちなみにダリルにも同じことを言ったが、同じ顔をして嫌がった。
離れていても兄弟だった。

「イヴは凄い金持ちに嫁いでた。なのに働いてた」
「イヴは真面目だったし、働いててもおかしくないですよ」
「めちゃくちゃ幸せそうだったよ!旦那がイヴ溺愛しててヤバい」

イヴと話していたら、夫カシミールが帰宅してきた。初めは丁寧だけど仏頂面で怖いと思ったが、イヴの隣に座るや否や、突然の甘い空気に息が詰まるかと思った。
コリンの目の前でキスでもしてしまうのではないかと思うほど甘やかで、イヴはさすがに恥ずかしそうにしていた。

「クラークは元気でした?」
「元気だし、めっちゃ良い男だったよ!ちょっと地味だけど優しくて穏やかで誠実そうで……なんでアーヴィンと結婚したの?」
「……それ絶対アーヴィンとシルヴァさんの前で言わないでくださいね」

サシャはため息をついた。
アーヴィンは今だにクラークを目の敵にしているようだった。
クラークにもあんなに可愛くて健気な恋人がいることを知らないのだろうか。

「それで。コリンさんはどうなんですか」
「どう、とは」
「……シルヴァさんと仲直りしたんですよね」

サシャはジト、とコリンを見てくる。

あの帰宅後、コリンは次の日仕事があって良かったと心の底から思った。

まずシルヴァの家に行った時点から歩かせて貰えなくなった。全部シルヴァが抱っこをして運ぶのだ。
そして食事は食べさせてくるし、シャワーであらぬ所まで洗われた。

今までなら自分でやって良いことも全て封殺されて、サシャが休暇明けする二日前にコリンはキレた。


「私はそこまでやっていいとは言ってない!」

コリンがそう叫ぶが、叫ばれた当の本人は全く気にもとめず、むしろいつも通りと言った雰囲気でニコニコとしていた。

「では僕が言う通りにちゃんとやってくれます?」
「そ、そこまでしなくてもいいでしょ……!」

目の前の男が持っている器具の使い道にゾッとしながらも、コリンは抵抗を止めなかった。
抵抗をやめた瞬間、自分に降り掛かってくるのは明白だからだ。

「コリン?約束しましたよね?」
「し、してない!ここまでしていいとは約束してない!」

男は、デルフィニウムの花のような涼やかな色をした腰まである髪をベッドに押し倒されたコリンの身体を覆うようにして、見下ろしながら言う。

「ですが、なんでもしていいと言ったのはコリンですよ」

そんな男に惚れているコリンは既に負けていた。

「~~~っ!シルヴァの馬鹿あああぁあ!」

シルヴァが持っていた器具は排泄管理に使うエトセトラだった。全年齢ではとても口に出せない。
一ヶ月前は完全に拒否できた。しかし、今回コリンは「なんでもしていい」と言ってしまったのだ。

こうしてコリンはまたしても懲りないシルヴァに切れてしまい、喧嘩真っ最中なのだ。

「シルヴァが悪い」
「また…もー、どうせコリンさんがシルヴァさんの顔見て色々許したのに許容範囲を超えてきただけでしょう」
「だけって何、だけって!それが一番良くないんだよ!」
「大体、コリンさんが『昔の男に会いに行く』なんて嘘ついたのが悪いんですよ」

サシャに言われ、うぐ、と喉を詰まらせる。
嘘が嘘じゃなくなったせいでさらにシルヴァを苛立たせたなんてこと言いたくもない。

「いい加減にしてくださいね。コリンさんが負けるんですから。諦めてください」
「嫌だ嫌だ!もっと自由が欲しい!」
「そんなこと言って。どうせもうすぐ拉致されるんですから」

「その通りです、サシャ」

サシャとコリンは一斉に扉の方を見る。開いた扉の先にいたのは話の中心にあったニコニコと微笑むシルヴァ本人の姿だった。
コリンは時計を見上げると退勤時間一分前になっていたことに今更気付いた。

「コリン、帰りますよ」
「待って待って待って!まだサシャと話してから」
「あー私アーヴィンが待ってるので帰ります!お疲れ様でした!また明日元気にきてくださいね、コリンさん!」
「うわあああぁあぁあん!!」

可愛がっている部下であるサシャに見捨てられ、ドナドナされながらコリンは泣き叫んだのだった。
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