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出迎え sideシルヴァ

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シルヴァ=コールフィールドは恋人がようやっと帰ってくると聞いてゾクゾクとした沸き立つ気持ちを隠しきることは出来なかった。

部下の研究員たちはそんなシルヴァを見て明らかに怯えている。

そもそもこの一ヶ月間、シルヴァはずっとイライラしていたものだからすっかり部下たちは怯えきっていたのだ。

「はぁ……長かった。ようやくです」

ゾクゾクと沸き立つものを隠しもせず、まだ見えてこない馬車をエドガーと共に待っていた。

「シルヴァ、最初から飛ばすなよ」
「ふふ、何故抑える必要が?僕はコリンと一緒に帰りますので」
「帰っていいが、程々にしてやれ。ああ、明日から一週間サシャは休みにした。必ずコリンは出勤させるように」
「分かりました。それ以外は好きにさせてもらいます」

シルヴァがニッコリと言うと、エドガーは楽しそうに笑った。これからコリンに巻き起こる出来事を想像しているのだろう。
やはりエドガーはタチが悪い。


ようやっと馬車が到着すると、シルヴァは間髪入れず直ぐに馬車を扉を勢いよく開けた。

すると、まさか到着して直ぐに扉が開くと予想してなかった桜色の髪をした恋人が目を丸くして驚いていた。

エドガーは後ろでクックックとこらえきれず笑っている。

「コリン。おかえりなさい、首を長くして待ってましたよ」
「ひっ……」

恋人に最上級にニッコリと微笑んで見せると、失礼なことに青みがかったピンクのモルガナイトを揺らして怯えていた。
シルヴァが魔王か何かに見えているようだ。

「楽しかったですか?過去の男に会うのは」
「え、あ、エドガー!ま、まさかほんとにあの適当な言葉を!」

コリンはきっと頭に血が上って適当な伝言をエドガーに言っていたのだ。

しかしシルヴァにそんなことは関係ない。

エドガーは笑うばかりでコリンに答えることはしない。いやもう答えているも同然の反応だ。

「コリン?馬車を降りてください。早く」
「ひぇ……」

ニコニコ笑っているというのに怯えて馬車から降りない恋人にほんの少し焦れる。
しかしこの一瞬など、1ヶ月待ち続けたことからすれば可愛いものだ。

もう獲物は目の前にいる。

「コリン」

そうシルヴァが手を差し出すと、コリンはようやくそろりと手を乗せる。
乗せられた手は握らず、馬車を降りるように誘導させた。

「じゃ、俺はコリンが無事に帰ってきたことを確認したし、戻る。コリン、サシャは明日から一週間休みにする。仕事が山積みだそうだ。頑張ってくれ」
「ええ?! う、嘘……!」
「俺は嘘は言わない。シルヴァ、あとはよろしく」
「さ、コリン。帰りますよ」
「ひ……」

コリンは怯えている。
明日からの仕事が一人であること
明日からこなす仕事が山積みであること
なにより、シルヴァの自宅に帰宅することに。

エドガーはヒラヒラと手を振って離れていった。

シルヴァはコリンを抱き抱えて自宅への道を歩く。コリンは怯えていてビクビクしていた。

「で?本当に昔の男に会いました?」
「……た、たまたま、ばったり……」

言わなければいいのに。
シルヴァを前にすると正直に話してしまうのだろう、コリンはしまった、という顔をしていた。

「へぇ。楽しかったですか?」
「う、ぐ……別に……そ、それよりもイヴに会ったよ!」

話を無理矢理逸らそうとする。シルヴァは微笑みながら乗ってあげることにした。

「そうですか。イヴはなんと?」
「……シルヴァが生き生きとして楽しそうだって……あと愛が重いって!」
「褒め言葉ですね」
「ぐぬぬ」

コリンは勝てるわけがないのに必死に抵抗しようとしてくる。

「コリン。私は深く傷つきました。勝手に居なくなるわ昔の男に会いに行こうとするわ更に今も私に対して怯えるわ」
「う、嘘だ、絶対傷なんか」
「コリン?」
「ひぇ……」

血の気が引いている。シルヴァは微笑んでいるというのに、余程怖いのか。

「どうやって慰めてくれますか?」
「……か、監禁はしないで」
「明日も仕事ですから。しませんよ」
「…………なら、なんでも……」

言質はとった。

モルガナイトを潤ませて真っ赤になりながらシルヴァに身を委ね、機嫌をとろうとする姿に愛しさと共に嗜虐心が沸き立つ。

「シル、んっ!」

約一ヶ月ぶりの恋人の唇を奪うように貪る。外だと言うのに年甲斐もなく気持ちを抑え切る事が出来ない。

「んん、ん……っ、ぁ……」

口内に舌をねじ込めば、抑えきれなかったのはコリンも同じだったのか、応えるように舌を絡ませ、卑猥な水音が耳に響く。

さっきまで怯えていた表情は既に無い。とろんとしたピンクの瞳をみてうっとりと見蕩れてしまう。

「好きですよ、コリン」
「…私も、好き……シルヴァ」
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