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興味 side コリン
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コリン=イェルリンが王城の総務部に行くと、それはもうめちゃくちゃ怒られた。
コリンは締切破りの常習犯であることは、王都の騎士団、魔法師団、そしてここ王城でも知れ渡っていた。締め切りを破る羽目になっているのは、そもそも人員が足りないからなのだが、そんなことは王都にいる人間には関係ない。
仕方なく、コリンは抵抗することなく聞き流すことに集中した。
小一時間経ってようやくお叱りが済んだところで解放される。今回の出張の要件を済ませるべく、王城と魔法師団と騎士団に回らなくてはならないのだ。
辺境とのやりとりは魔法で行えるとはいえ、色々と擦り合わせがある。今まで避けてきた部分も含めて全て完了するまでコリンは帰さないと言われてしまった。
逃げてきたとはいえ、勢いで王都にやって来たことにようやく後悔し始めた。
とりあえず今日は、魔法師団の方へ行くことにした。また怒られることを想定して総務部に訪ねた。
「あのー…辺境から来ました、コリン=イェルリンですが…」
「あ!やっと来た!今日はもう来ないかと思ったぜ!」
そう声をかけてきたのはコリンより少し小柄で、ほんの少し天然のパーマがある空色の髪を後ろで三つ編みにしている。可愛らしいシトリンの黄色い瞳。そして何かホルモンでも打ったような玉のようなツルツルの肌に少年のような顔立ちをした男だった。
「初めまして、俺はエメ=デュリュイだ。よろしく!」
コリンは歓迎しているようなエメに驚きつつ、握手を交わした。
「クラークとは会った?辺境から来た事務員がサシャじゃなくて驚いてたんじゃないか?」
「え?クラークさん?知り合い?」
「恋人なんだ」
びっくりして目を見開いた。明らかに貴族風だったクラークの恋人は、明らかに平民のような口調だった。失礼とは思っていても、つい顔に出てしまった。
しかし、目の前のエメは全く気分を害している様子もなかった。
「初めてクラークとの関係を言うと大体その反応をされるから慣れてる。それよりも、俺もサシャが来ると思ってたんだが、違うんだな?」
「え゛、そ、それは」
クラークはサシャの元恋人だ。
現在クラークの配偶者であるエメが、サシャに会うつもりだったと聞けばしどろもどろになってしまっても仕方ないと思う。
「クラークがどれだけ面食いだったか知りたかったんだけどな」
「…えええ。元恋人だよ?普通会いたくなくない?」
「だってサシャももう結婚してるんだろ?俺も付き合ってるし。俺はただ単に興味があるだけ。クラークは俺が辺境事務員担当になったってだけで焦ってたけどな」
「そりゃ…焦るだろうね」
なんて豪胆な男なのだろうか。コリンだったら絶対にシルヴァの元恋人に会いたくない。担当を変えてもらうまである。
「サシャはどれだけ美人なんだ?興味があるんだ」
「あ、あー…えっと。本当に興味があるだけ?」
「初対面だと信用できないよな。本当に興味あるだけ。別にそれを聞いてサシャに何かしようと思わないし、貴方に何かしようとも思わない。もちろんクラークとの関係性に何か変化することもないよ」
エメと話をしていると、察する能力が高く、頭も良さそうだった。平民が事務員になれたことにも納得できる。
コリンはエメの陽だまりのような笑顔に癒されつつ、本当に興味があるだけの様子に納得した。
「サシャは辺境で男どもを狂わせてるよ。新人の登竜門みたいなもん」
「げぇ、新人みんな惚れんのかよ。どんだけやばいんだよ…」
「旦那が目を光らせてるからなんの問題も起きてないけどね。だからヘタに出張なんてさせられないの」
「俺は変なメガネかけてる時のサシャしか知らないから、想像するしかないんだよなー」
サシャは元々、自分の煌めくアメジストの瞳を親兄弟に謗られたせいで幼い頃から魔道具である認識阻害メガネをかけて過ごしていた。そのため、誰もサシャの美貌に気づくことなく暮らしていたらしい。
それに唯一気付いたのがクラークだった。魔力が人よりも多かったため、クラークはサシャの本性を知っていたのだ。
そして、アーヴィンはサシャとぶつかってメガネが外れたところに出くわしたらしい。
そんな二人を狂わせるほどの美貌を、サシャは持っている。
「昔のサシャを知ってるってことは、サシャと同期なの?」
「そうそう!地味なサシャに、女にも男にもめちゃくちゃモテてたアーヴィンが追っ掛けてったってだけで俺らの中では大変な騒ぎになったんだぜ?」
「へぇー、サシャってそんなモテなかったの?信じられない」
「地味だし、悪い噂ばっか流れてたからな。みんな腫れ物を触るみたいな感じだったな。俺はクラスが違くて接点なかったけど」
王都と辺境でこうも人物像が違うと、もはや別人の話をしているように感じてしまう。
「ま、サシャの話は良いとして、仕事の話始めようか。イヴから辺境は人手が足りなくて締め切りを破る羽目になってるとは聞いてるから。その辺俺は何も言わないから安心してくれ」
ニカっと笑うエメは神様なのか。そしてイヴに会って拝みたいレベルでコリンは感謝した。
コリンは締切破りの常習犯であることは、王都の騎士団、魔法師団、そしてここ王城でも知れ渡っていた。締め切りを破る羽目になっているのは、そもそも人員が足りないからなのだが、そんなことは王都にいる人間には関係ない。
仕方なく、コリンは抵抗することなく聞き流すことに集中した。
小一時間経ってようやくお叱りが済んだところで解放される。今回の出張の要件を済ませるべく、王城と魔法師団と騎士団に回らなくてはならないのだ。
辺境とのやりとりは魔法で行えるとはいえ、色々と擦り合わせがある。今まで避けてきた部分も含めて全て完了するまでコリンは帰さないと言われてしまった。
逃げてきたとはいえ、勢いで王都にやって来たことにようやく後悔し始めた。
とりあえず今日は、魔法師団の方へ行くことにした。また怒られることを想定して総務部に訪ねた。
「あのー…辺境から来ました、コリン=イェルリンですが…」
「あ!やっと来た!今日はもう来ないかと思ったぜ!」
そう声をかけてきたのはコリンより少し小柄で、ほんの少し天然のパーマがある空色の髪を後ろで三つ編みにしている。可愛らしいシトリンの黄色い瞳。そして何かホルモンでも打ったような玉のようなツルツルの肌に少年のような顔立ちをした男だった。
「初めまして、俺はエメ=デュリュイだ。よろしく!」
コリンは歓迎しているようなエメに驚きつつ、握手を交わした。
「クラークとは会った?辺境から来た事務員がサシャじゃなくて驚いてたんじゃないか?」
「え?クラークさん?知り合い?」
「恋人なんだ」
びっくりして目を見開いた。明らかに貴族風だったクラークの恋人は、明らかに平民のような口調だった。失礼とは思っていても、つい顔に出てしまった。
しかし、目の前のエメは全く気分を害している様子もなかった。
「初めてクラークとの関係を言うと大体その反応をされるから慣れてる。それよりも、俺もサシャが来ると思ってたんだが、違うんだな?」
「え゛、そ、それは」
クラークはサシャの元恋人だ。
現在クラークの配偶者であるエメが、サシャに会うつもりだったと聞けばしどろもどろになってしまっても仕方ないと思う。
「クラークがどれだけ面食いだったか知りたかったんだけどな」
「…えええ。元恋人だよ?普通会いたくなくない?」
「だってサシャももう結婚してるんだろ?俺も付き合ってるし。俺はただ単に興味があるだけ。クラークは俺が辺境事務員担当になったってだけで焦ってたけどな」
「そりゃ…焦るだろうね」
なんて豪胆な男なのだろうか。コリンだったら絶対にシルヴァの元恋人に会いたくない。担当を変えてもらうまである。
「サシャはどれだけ美人なんだ?興味があるんだ」
「あ、あー…えっと。本当に興味があるだけ?」
「初対面だと信用できないよな。本当に興味あるだけ。別にそれを聞いてサシャに何かしようと思わないし、貴方に何かしようとも思わない。もちろんクラークとの関係性に何か変化することもないよ」
エメと話をしていると、察する能力が高く、頭も良さそうだった。平民が事務員になれたことにも納得できる。
コリンはエメの陽だまりのような笑顔に癒されつつ、本当に興味があるだけの様子に納得した。
「サシャは辺境で男どもを狂わせてるよ。新人の登竜門みたいなもん」
「げぇ、新人みんな惚れんのかよ。どんだけやばいんだよ…」
「旦那が目を光らせてるからなんの問題も起きてないけどね。だからヘタに出張なんてさせられないの」
「俺は変なメガネかけてる時のサシャしか知らないから、想像するしかないんだよなー」
サシャは元々、自分の煌めくアメジストの瞳を親兄弟に謗られたせいで幼い頃から魔道具である認識阻害メガネをかけて過ごしていた。そのため、誰もサシャの美貌に気づくことなく暮らしていたらしい。
それに唯一気付いたのがクラークだった。魔力が人よりも多かったため、クラークはサシャの本性を知っていたのだ。
そして、アーヴィンはサシャとぶつかってメガネが外れたところに出くわしたらしい。
そんな二人を狂わせるほどの美貌を、サシャは持っている。
「昔のサシャを知ってるってことは、サシャと同期なの?」
「そうそう!地味なサシャに、女にも男にもめちゃくちゃモテてたアーヴィンが追っ掛けてったってだけで俺らの中では大変な騒ぎになったんだぜ?」
「へぇー、サシャってそんなモテなかったの?信じられない」
「地味だし、悪い噂ばっか流れてたからな。みんな腫れ物を触るみたいな感じだったな。俺はクラスが違くて接点なかったけど」
王都と辺境でこうも人物像が違うと、もはや別人の話をしているように感じてしまう。
「ま、サシャの話は良いとして、仕事の話始めようか。イヴから辺境は人手が足りなくて締め切りを破る羽目になってるとは聞いてるから。その辺俺は何も言わないから安心してくれ」
ニカっと笑うエメは神様なのか。そしてイヴに会って拝みたいレベルでコリンは感謝した。
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