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嘘 side コリン
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コリン=イェルリンはさすがに辟易としていた。
「私はそこまでやっていいとは言ってない!」
コリンがそう叫ぶが、叫ばれた当の本人は全く気にもとめず、むしろいつも通りと言った雰囲気でニコニコとしていた。
「では僕が言う通りにちゃんとやってくれます?」
「そ、そこまでしなくてもいいでしょ……!」
目の前の男が持っている器具の使い道にゾッとしながらも、コリンは抵抗を止めなかった。
抵抗をやめた瞬間、自分に降り掛かってくるのは明白だからだ。
「コリン?約束しましたよね?」
「し、してない!ここまでしていいとは約束してない!」
男は、デルフィニウムの花のような涼やかな色をした腰まである髪をベッドに押し倒されたコリンの身体を覆うようにして、見下ろしながら言う。
「ですが、なんでもしていいと言ったのはコリンですよ」
そんな男に惚れているコリンは既に負けていた。
「~~~っ!シルヴァの馬鹿あああぁあ!」
事の発端は、一ヶ月前に遡る。
コリン=イェルリンはその日、普通通りに仕事していた。
「サシャ、これ魔法師団まで持ってって」
「……それシルヴァさん宛ですよね。コリンさんが自分で持ってってください」
最近、後輩のサシャはコリンに言い返すようになってしまった。
サシャ=イブリックはここ辺境区域にやってきてもうじき五年になる。サシャはアーヴィン=イブリックと紆余曲折の末結婚をし、およそ三年の月日が経っていた。
サシャはとても美人だ。艶やかな銀の髪に煌めくアメジストの瞳を携えており、その姿はまるで月の精のようである。
美人は三日で飽きるというが、夫アーヴィンはそんなレベルではなく、いまだに新婚かのような頻度で閨を共にしている。仕事の平日は毎日サシャといるが、気だるげな雰囲気は三年経っても変わらないままだ。
サシャに少し前に聞いたのは、アーヴィンの実家はとても子沢山であり、その兄弟たちも子沢山だったという。精力的なのは血筋らしい。サシャが女性だったら何度産休や育休を取られるのだろうか。男で良かったと流石のコリンも胸を撫で下ろした。
そんなサシャも、辺境区域に来た当初は元気がなく可愛らしいものだった。
アーヴィンになじられ落ち込んでいるサシャを元気にしたのはコリンと騎士団長であるエドガーだと言っても過言ではない。
なのにだ。
最近はコリンに言い返してくる。
「…やだ。サシャ行って。上司命令」
それもこれも。原因はたった一つだ。
「あー!もう!シルヴァさんと毎度毎度喧嘩しないでくださいよ!二人の仲を取り持つのももう面倒臭いんです!」
サシャは貴族の生まれとは思えぬ所業で机をバンッと書類で叩いた。
しかしそんなサシャを見てもコリンは意見を曲げたくはなかった。
「だって!仕方ないでしょ!サシャもやられてみなよ!頭のてっぺんから足の先まで全て管理されるんだよ!毎日毎日!」
「二人で話し合ってください!私を巻き込まないでください!」
「いやだ!私のせいじゃないもん!シルヴァが悪い!」
およそサシャより年上のはずのコリンがする言動ではない。
プイと顔をサシャから背けると、サシャは大袈裟にため息をついた。
このやりとりは、シルヴァと付き合うようになってから結構な頻度で行われるのだ。
「…いい加減にしてください。今日は私が持って行ってあげますけど、次からはコリンさんが持って行ってくださいね!じゃないと笑顔でプレッシャーかけられるのは私なんですから!」
そう言ってサシャは立ち上がり、書類をコリンから奪うようにしてとった。怒っている姿すら女神のようなサシャは扉を乱暴に閉めて出て行ってしまった。
「私だって喧嘩なんかしたくない…!でも……!」
コリンはポツリと一人呟いた。
喧嘩の原因は、シルヴァの管理したがる悪癖だ。
ついにシルヴァは、コリンの排泄管理に手を出し始めたのだ。
身体のあらぬところまで洗われるのを拒否したにも関わらず、それ以上の事をしようとしてくるシルヴァにキレてしまった。
そもそもだ。
シルヴァの本性を知る前、そもそもコリンがシルヴァに惚れた。
しかしコリンは想いを直ぐに告げなかった。シルヴァが同性愛を寛容していると思ってなかった。だからコリンは五年程片思いし続けた。
シルヴァが振られて傷付いていた時に心の隙へ入り込んだ。
そしてシルヴァはゆっくりとコリンに心を傾けてくれて、コリンの片想いは成就した。
最初は嬉しくて仕方なかった。
嬉しすぎて舞い上がって、何でも言うことを聞いてしまった。
言うことを聞くというのはパシリや都合のいい恋人になったというわけでない。
始めは、頭を洗いたい、あーんと食事をさせたい、マッサージをしたい、など恋人同士ならやるだろう位のことだった。
コリンは喜んでその恋人らしいことを受け入れた。
五年も片思いし続けていた相手に、恋人らしいことをされて嬉しくないはずがなかった。
けれどシルヴァは、徐々に侵食していった。
ある日突然ソファに座るコリンに跪いたと思ったら、足の爪を切ろうとしてきた。
コリンはビックリして足を引っ込めた。
恋人が足の爪を切るのはないことではないのかもしれない。
けれど、爪切りを持ってうっとりとしたシルヴァの姿に一瞬ゾワリとした。
「な、何してるの?シルヴァ……」そう恐る恐る聞いた。
するとシルヴァは、綺麗な浅葱色のスフェーンをキラキラと輝かせて言った。
「コリンの全てを僕が作り変えたいんです」
そう言ってニッコリと極上の微笑みを見せたのだ。
コリンは恋人なのに一瞬シルヴァが別の何かに見えてしまうほどゾッとしてしまった。
その感じた恐怖は継続した。
足の爪など可愛いものだった。
シルヴァが調理した以外のものを口にしてはならなかったり、ヘアカットもプロ並みにしてきたり、歯磨きをされたり……エトセトラエトセトラ。
これらを自分でやると後でお仕置という名の焦らされセックスをされてしまう。
これが何ヶ月も続いたコリンはもう我慢できなかった。
「エドガー!この間出張の募集してたよねぇ?!」
サシャが魔法師団から帰ってこない内に、コリンは辺境騎士団長であるエドガーの執務室に殴り込んだ。
エドガーはシルヴァと同期であり、シルヴァの性癖を知る唯一の人間だ。
クックックと笑いながらコリンを見ているエドガーが癇に障るが、そんなことは言ってられない。
「遂にシルヴァから逃げ出したくなったのか」
「うるさい!」
「今まで『面倒臭いから絶対出張なんか行かないー!締切破り常習犯の異名で通ってて怒られるのが目に見えてるもん!』なんて言って拒否し続けたお前が行くのか?」
「気持ち悪いモノマネしないで!いいから!いつから行くの?!」
エドガーはまたしても口端を上げて笑いながら答えた。
「今日だ。ちょうど良かった。サシャは面倒なことになりそうだから行かせられないし、コリンが行くのに俺は反対しない」
サシャは美人すぎてアーヴィンが同行しなければ絶対に他に出せない。コリンならば大丈夫というのは、サシャほど美人ではないし、変な誘いもそれなりに上手く躱すことが出来るためだ。
「今すぐ準備する!」
「行くのは王立騎士団だぞ」
「どこでもいいよ!ここから出られれば!」
そして、エドガーはシルヴァに聞かれた時用にコリンに尋ねた。
「シルヴァにはなんて伝えればいいんだ?」
「昔の男に会いに行くとでも適当に言っといて!」
頭に血が登ったコリンがいい加減な嘘をついてしまったことを、後に深く後悔することになるのだった。
「私はそこまでやっていいとは言ってない!」
コリンがそう叫ぶが、叫ばれた当の本人は全く気にもとめず、むしろいつも通りと言った雰囲気でニコニコとしていた。
「では僕が言う通りにちゃんとやってくれます?」
「そ、そこまでしなくてもいいでしょ……!」
目の前の男が持っている器具の使い道にゾッとしながらも、コリンは抵抗を止めなかった。
抵抗をやめた瞬間、自分に降り掛かってくるのは明白だからだ。
「コリン?約束しましたよね?」
「し、してない!ここまでしていいとは約束してない!」
男は、デルフィニウムの花のような涼やかな色をした腰まである髪をベッドに押し倒されたコリンの身体を覆うようにして、見下ろしながら言う。
「ですが、なんでもしていいと言ったのはコリンですよ」
そんな男に惚れているコリンは既に負けていた。
「~~~っ!シルヴァの馬鹿あああぁあ!」
事の発端は、一ヶ月前に遡る。
コリン=イェルリンはその日、普通通りに仕事していた。
「サシャ、これ魔法師団まで持ってって」
「……それシルヴァさん宛ですよね。コリンさんが自分で持ってってください」
最近、後輩のサシャはコリンに言い返すようになってしまった。
サシャ=イブリックはここ辺境区域にやってきてもうじき五年になる。サシャはアーヴィン=イブリックと紆余曲折の末結婚をし、およそ三年の月日が経っていた。
サシャはとても美人だ。艶やかな銀の髪に煌めくアメジストの瞳を携えており、その姿はまるで月の精のようである。
美人は三日で飽きるというが、夫アーヴィンはそんなレベルではなく、いまだに新婚かのような頻度で閨を共にしている。仕事の平日は毎日サシャといるが、気だるげな雰囲気は三年経っても変わらないままだ。
サシャに少し前に聞いたのは、アーヴィンの実家はとても子沢山であり、その兄弟たちも子沢山だったという。精力的なのは血筋らしい。サシャが女性だったら何度産休や育休を取られるのだろうか。男で良かったと流石のコリンも胸を撫で下ろした。
そんなサシャも、辺境区域に来た当初は元気がなく可愛らしいものだった。
アーヴィンになじられ落ち込んでいるサシャを元気にしたのはコリンと騎士団長であるエドガーだと言っても過言ではない。
なのにだ。
最近はコリンに言い返してくる。
「…やだ。サシャ行って。上司命令」
それもこれも。原因はたった一つだ。
「あー!もう!シルヴァさんと毎度毎度喧嘩しないでくださいよ!二人の仲を取り持つのももう面倒臭いんです!」
サシャは貴族の生まれとは思えぬ所業で机をバンッと書類で叩いた。
しかしそんなサシャを見てもコリンは意見を曲げたくはなかった。
「だって!仕方ないでしょ!サシャもやられてみなよ!頭のてっぺんから足の先まで全て管理されるんだよ!毎日毎日!」
「二人で話し合ってください!私を巻き込まないでください!」
「いやだ!私のせいじゃないもん!シルヴァが悪い!」
およそサシャより年上のはずのコリンがする言動ではない。
プイと顔をサシャから背けると、サシャは大袈裟にため息をついた。
このやりとりは、シルヴァと付き合うようになってから結構な頻度で行われるのだ。
「…いい加減にしてください。今日は私が持って行ってあげますけど、次からはコリンさんが持って行ってくださいね!じゃないと笑顔でプレッシャーかけられるのは私なんですから!」
そう言ってサシャは立ち上がり、書類をコリンから奪うようにしてとった。怒っている姿すら女神のようなサシャは扉を乱暴に閉めて出て行ってしまった。
「私だって喧嘩なんかしたくない…!でも……!」
コリンはポツリと一人呟いた。
喧嘩の原因は、シルヴァの管理したがる悪癖だ。
ついにシルヴァは、コリンの排泄管理に手を出し始めたのだ。
身体のあらぬところまで洗われるのを拒否したにも関わらず、それ以上の事をしようとしてくるシルヴァにキレてしまった。
そもそもだ。
シルヴァの本性を知る前、そもそもコリンがシルヴァに惚れた。
しかしコリンは想いを直ぐに告げなかった。シルヴァが同性愛を寛容していると思ってなかった。だからコリンは五年程片思いし続けた。
シルヴァが振られて傷付いていた時に心の隙へ入り込んだ。
そしてシルヴァはゆっくりとコリンに心を傾けてくれて、コリンの片想いは成就した。
最初は嬉しくて仕方なかった。
嬉しすぎて舞い上がって、何でも言うことを聞いてしまった。
言うことを聞くというのはパシリや都合のいい恋人になったというわけでない。
始めは、頭を洗いたい、あーんと食事をさせたい、マッサージをしたい、など恋人同士ならやるだろう位のことだった。
コリンは喜んでその恋人らしいことを受け入れた。
五年も片思いし続けていた相手に、恋人らしいことをされて嬉しくないはずがなかった。
けれどシルヴァは、徐々に侵食していった。
ある日突然ソファに座るコリンに跪いたと思ったら、足の爪を切ろうとしてきた。
コリンはビックリして足を引っ込めた。
恋人が足の爪を切るのはないことではないのかもしれない。
けれど、爪切りを持ってうっとりとしたシルヴァの姿に一瞬ゾワリとした。
「な、何してるの?シルヴァ……」そう恐る恐る聞いた。
するとシルヴァは、綺麗な浅葱色のスフェーンをキラキラと輝かせて言った。
「コリンの全てを僕が作り変えたいんです」
そう言ってニッコリと極上の微笑みを見せたのだ。
コリンは恋人なのに一瞬シルヴァが別の何かに見えてしまうほどゾッとしてしまった。
その感じた恐怖は継続した。
足の爪など可愛いものだった。
シルヴァが調理した以外のものを口にしてはならなかったり、ヘアカットもプロ並みにしてきたり、歯磨きをされたり……エトセトラエトセトラ。
これらを自分でやると後でお仕置という名の焦らされセックスをされてしまう。
これが何ヶ月も続いたコリンはもう我慢できなかった。
「エドガー!この間出張の募集してたよねぇ?!」
サシャが魔法師団から帰ってこない内に、コリンは辺境騎士団長であるエドガーの執務室に殴り込んだ。
エドガーはシルヴァと同期であり、シルヴァの性癖を知る唯一の人間だ。
クックックと笑いながらコリンを見ているエドガーが癇に障るが、そんなことは言ってられない。
「遂にシルヴァから逃げ出したくなったのか」
「うるさい!」
「今まで『面倒臭いから絶対出張なんか行かないー!締切破り常習犯の異名で通ってて怒られるのが目に見えてるもん!』なんて言って拒否し続けたお前が行くのか?」
「気持ち悪いモノマネしないで!いいから!いつから行くの?!」
エドガーはまたしても口端を上げて笑いながら答えた。
「今日だ。ちょうど良かった。サシャは面倒なことになりそうだから行かせられないし、コリンが行くのに俺は反対しない」
サシャは美人すぎてアーヴィンが同行しなければ絶対に他に出せない。コリンならば大丈夫というのは、サシャほど美人ではないし、変な誘いもそれなりに上手く躱すことが出来るためだ。
「今すぐ準備する!」
「行くのは王立騎士団だぞ」
「どこでもいいよ!ここから出られれば!」
そして、エドガーはシルヴァに聞かれた時用にコリンに尋ねた。
「シルヴァにはなんて伝えればいいんだ?」
「昔の男に会いに行くとでも適当に言っといて!」
頭に血が登ったコリンがいい加減な嘘をついてしまったことを、後に深く後悔することになるのだった。
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