86 / 92
最終章
白のアネモネ【真実】
しおりを挟む
グウェンが作ってくれた白いクライミングローズのアーチの中をくぐっていた。ローズの香りが充満するアーチの中は、とても綺麗で幻想的だ。
自分の為だけに作ってくれた庭園に、グウェンと一緒に歩いている。
今日は、レイとルーク、テオが久しぶりに会ってくれるということで外で待つことに決めた。一緒に歩いて庭園を案内しようという話をグウェンとして、それに同意したのだ。
先触れではもう少しで到着する、とグウェンに届いたので、俺はクライミングローズのアーチの所ならあまり使用人にも見られないだろうと思った。
「ん……ん、んぅ……ふ、ん」
「……っ、ノア、ちょ……」
「んん……」
グウェンの方に向き、自分からグウェンの首に手を回して口付けをした。グウェンの唇を強引にあけ、自らの舌をグウェンの舌に巻き付くように絡ませる。
どうせここに来るまでに、レイたちが歩いてくるなら、もう少し時間がかかることは分かっている。
けれども、なんだかあんまり、グウェンは口付けに乗り気ではないようだった。
俺は最近グウェンの所に戻ってきてからというもの、周囲に誰もいないと確信するとすぐにグウェンにキスをするようになった。
まるで付き合いたての恋人のようになった気分だった。
自分の為に庭園を造ってくれる夫に対して、自分の思いをどんなに伝えても伝え足りないのだ。
グウェンも最初は嬉しそうだった。しかし、あまりにも俺のキスが頻繁だったので、たまにこうやってグウェンから止めに入ろうとされるようになってしまった。
それでもだいたいは、最終的に受け入れてそのまま雪崩込むことも少なくない。
「んー!っ、ノア!っん!」
「ん……んぅ、ん…」
だから、俺の背中をポンポンと叩いてキスを止めようとしているグウェンは無視した。どうせ、いつもの抵抗だろうと、そう思ったのだ。
そう、兄の声を聞くまでは。
「ノーーアーー……!」
「ひぃ!」
地獄の底から這い出でるようなレイの声で、グウェンから離れた。恥ずかしいとかよりも、兄が明らかにキレかけている事実の方が深刻だった。
「ちょっとそこに正座しなさい!!!!」
「は、はいいい!」
俺は、歳の変わらない、数時間早く生まれた大好きな兄の説教を、コンコンと聞く羽目になった。
「あーあ……ノア先生、レイが転移魔法改良できたの知らなかったんだ…」
「うう、知らないよ。教えてくれてないじゃないか…」
俺は、説教の最中に聞こえてきたテオの言葉に情けない声を出すしかなかった。
レイは研究を重ね、何人か一緒に転移することが出来るようになっていたらしい。その為レイは、俺の所にテオやルークと一緒に転移してやってきたようだった。
グウェンはその事を知っていて、俺の愚行を止めようとしていたようだった。
「転移魔法があってもなくても関係ないでしょ! テオが来るって分かってたんだから、外ではやめろっていってんの!」
「ひぃ!」
俺に心優しかった兄はどこへやら、息子同然のテオの方が比重が重くなっている気がして少し悲しかった。いや、自分が悪いのだが。
「……まぁ、ノアだけが悪いわけじゃ…」
「ルーク」
ルークが何か言いかけていたのをグウェンが止めた。上司の圧で、部下のルークはビクリと体を揺らして止めた。
「え?なに?」
俺が疑問に思って聞こうとすると、レイは、ルークが受けた圧など自分には関係ない、とばかりに話し始めた。
「グウェンだって、魔法使えるんだから。隠そうと思えば隠せるって話だよ」
「おいレイ!」
「え、なに、どういうこと?」
今度はグウェンが慌て始めた。俺は防音とかロックとか、そういう魔法があることは知っていた。しかし魔力ゼロの自分にはあまり関係ないと思って、魔法の勉強は全くしていない。
「隠蔽とか、幻覚とか。やろうと思えば魔術師程じゃなくても出来るんだよ」
「……は?」
「お、おいまて……」
俺はレイに言われた言葉を反芻して噛み砕いた。
「そっか、学園も最近出来たし。ノア先生って魔法の知識自体ないんだ」
文官コースのテオですら知っているようだった。つまり、魔法の基礎の基礎もいい所ということに違いない。
「お、おいノア、落ち着け…」
「~~~~っ!!!」
俺は最強漆黒の騎士の足先を、ガンっ、と思い切り踏み潰してやった。グウェンはいつかのパーティーの時のように蹲った。蹲りながら痛みで微かに震えている。
「ノアに言わなかったのは絶対わざとだね」
「あ、それ俺も分かるぞ、レイ。そういうのって見せびらかしたいってやつだな」
まだ子供と呼んでもおかしくないテオに悟られ、俺は恥ずかしさで憤死しそうだった。
「ま、ノアが元気になってよかったよ」
ガーデンテーブルでいつものようにお茶を飲みながらレイが言う。
「うん、テオ君のおかげかな」
「俺? えー、俺大したこと言ってなくない?」
この少年に言葉で背中を押されたのだが、テオは全く気にしていないようだった。
「テオ君は学園に行ってるの?」
「あ!!!その話題出す?!」
「ノア先生!聞いてよ!レイってばまだ行かせてくれないんだ!!」
薮蛇だったようだ。レイとテオはそのまま2人でギャーギャー喧嘩を始めてしまった。
ルークはもう面倒くさそうに見ているだけで止めもしなかった。
「……俺もレイに、もう良いじゃねーかって言うんだけどな……」
「ああ、むしろそう言われると熱が入っちゃうのか」
子爵家でのルークの苦労が伺える。面倒見が良いのに、存外面倒くさがりのルークはため息をついていた。
レイも意外としつこいのだ。それは俺もよく知っている。婚約破棄前のグウェンとレイのお茶会を何度断ってもしつこく誘ってこられたのはいい思い出だ。
「…今日の本題を話していいか?」
グウェンの言葉で、2人の喧嘩はピタリ、と止まる。
今日集まったのは、事件のことだ。子供に聞かせるのは良くないとは思った様で、レイはテオに言わないようにしていたのだが、侯爵家の意向で聞かせておけと言われたらしい。
そのうち、貴族として働くようになるならば、自分に起きた出来事を把握することも大切だ。という侯爵家当主としての言葉には、流石のレイも逆らえなかったようだ。
侯爵家当主も、レイのことを頼りにしているらしい。しかし、レイは今回の件で後ろめたいのか、子供に聞かせるなんて、と逆らったりはしなかったようだ。
そんな訳で、テオも事件について大人と同様に聞くことになった。
「最初に、アランは死刑が決まった」
「……当然だね」
レイは本気で怒っているようだった。テオの自死は相当なトラウマをレイに植え付けている。
「いつ、そうなるの?」
「……わからん。陛下が最終的に決定するが、早くて1ヶ月。遅いと数年だ」
テオの疑問にもグウェンはきちんと答える。生々しい話だが、テオは今後どうなるのか理解しようとしていた。
「魔法の方は僕で調べたよ」
レイはそう言って、説明を始めた。
女子生徒の夢については、本当に小さい効果だったらしい。花の絵が教室にあったが、描いてある花がバラバラなら花言葉もバラバラ。花言葉が一致しないと効果が薄くなるらしい。しかし、絵画は枯れないため、効果が持続させやすかったようだった。本当の花ではないから効果を強めることは出来なかった。
テオについては、タマスダレの【期待】では花言葉の一致としては不十分だった。そのため、すぐに効果が切れ、手首を浅く切っていたらしい。
男子生徒たちについては、あれは本当に桃の花にしか頼っておらず、効果は直ぐに切れるものだったようだ。だからこそ、アランは早く駆けつけてきて未遂という形にしたようだった。
そして、俺にかけた花言葉は完全一致だった。そのため効果が強く、家でも効果を発揮させた。桃の花で誘惑し、ゴボウの花でアラン以外を拒絶させたのだ。
「まぁ、つまり、色んなことでノアを振り回して、最後は完全にノア狙いだったってこと」
「…そっか……」
レイはため息をついて俺を見ている。多分俺が恨み言を吐かないことに呆れているのだ。
「そもそもノアのことは王女の事件の前から知っていたらしい」
ルークにそう言われ、アランと会ったことがあったか考えたが思い出せなかった。
「……レデリート殿下の使節団で展示会をやっただろ?あん時にいたらしい」
「刺繍展示? 使節団以外がいたの?」
「いや、スタッフだ」
あの時、スタッフは大勢いた。その中の一人だと言われたら、全く覚えていないのも頷ける。
あの時アランがいたということは、だいぶ前から自分のことを知っていた。どうして今頃になってこの計画を思いついたのか。
「今回、学園にノアが入ってきたことに運命だと思ったらしい。それで、何度か花を送って、自分の好感度が上がるような花を送ってたんだよ」
「じゃあすぐ花が枯れてたって言うのは……」
「好感度が上がってた証拠だ。全く悪いやつと思ってなかっただろ?」
親切に受け取っていたものに、そんな呪いのような魔法がかかっていたとは。ゾッと背筋が這いずり回る感覚がした。
「中でも一番強力なのはチューベローズだったらしい。アランは残念がってたよ」
「あ、あの日グウェンが来なかったら……!」
「そういうことだ」
あの日グウェンがたまたま授業がある日じゃなかったらと思うと身体が震え出す。グウェンはそんな俺を見て肩を抱いてくれた。
「そ、それで……桃の花を……?」
「ゆっくり落とすことに決めたらしい」
「桃の花の花言葉で虜する方法は、ノアに虜にさせたり、ノアを自分に虜にさせたり、アラン自身に虜にさせたり……まぁ上手いように使ってたみたい」
言葉遊びのように、誰に虜にするか選択していたようだ。花言葉が完全一致とはいえ、あんなに自我を失うほどの魔法をかけられたの。
レイの言葉で更に恐怖が宿る。アランは最初から、自分を壊すつもりだったのだ。自我など関係なく、自分を手に入れることだけに心力を注いだ。
俺は流石に気持ち悪さが勝り、身震いした。
「あとは、王女の侍女に魔法も教えたのも、アランだったようだ」
「……まさか、薔薇の刺繍……?」
グウェンは頷く。まさかこんなに繋がりがあるとは思っていなかった。
「それも含めて重罪となった。王族に関わっているからな」
「ま、これで解決ってこと、胸糞悪いけどね」
レイはそう言うと、口調は悪いがなんとなくスッキリした顔をしていた。
「はぁ……」
「ノア、平気か?」
「グウェン。大丈夫だよ、ちょっと疲れただけ」
全てを理解し、とりあえず自分の中で納得して溜息をついた。
「もう、大丈夫。みんなありがとう」
俺はそう言って微笑むと、4人もようやく笑顔に戻った。
「じゃ、お昼食べよー!」
レイは立ち上がってテオとルークを連れて本邸の中に入っていく。
俺とグウェンはレイの自由さになんとなく嬉しくて顔を見合わせて笑った。
「グウェン、本当にありがとう」
「君の為なら何度でも、一緒に堕ちる」
レイ達が前を歩いていて、見ていないことを確認してから、俺はグウェンに触れるだけのキスをした。
---------
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
その後のお話を、少しですが続けたいと思っています。
もう少しお付き合い頂ければ嬉しいです
七咲陸
自分の為だけに作ってくれた庭園に、グウェンと一緒に歩いている。
今日は、レイとルーク、テオが久しぶりに会ってくれるということで外で待つことに決めた。一緒に歩いて庭園を案内しようという話をグウェンとして、それに同意したのだ。
先触れではもう少しで到着する、とグウェンに届いたので、俺はクライミングローズのアーチの所ならあまり使用人にも見られないだろうと思った。
「ん……ん、んぅ……ふ、ん」
「……っ、ノア、ちょ……」
「んん……」
グウェンの方に向き、自分からグウェンの首に手を回して口付けをした。グウェンの唇を強引にあけ、自らの舌をグウェンの舌に巻き付くように絡ませる。
どうせここに来るまでに、レイたちが歩いてくるなら、もう少し時間がかかることは分かっている。
けれども、なんだかあんまり、グウェンは口付けに乗り気ではないようだった。
俺は最近グウェンの所に戻ってきてからというもの、周囲に誰もいないと確信するとすぐにグウェンにキスをするようになった。
まるで付き合いたての恋人のようになった気分だった。
自分の為に庭園を造ってくれる夫に対して、自分の思いをどんなに伝えても伝え足りないのだ。
グウェンも最初は嬉しそうだった。しかし、あまりにも俺のキスが頻繁だったので、たまにこうやってグウェンから止めに入ろうとされるようになってしまった。
それでもだいたいは、最終的に受け入れてそのまま雪崩込むことも少なくない。
「んー!っ、ノア!っん!」
「ん……んぅ、ん…」
だから、俺の背中をポンポンと叩いてキスを止めようとしているグウェンは無視した。どうせ、いつもの抵抗だろうと、そう思ったのだ。
そう、兄の声を聞くまでは。
「ノーーアーー……!」
「ひぃ!」
地獄の底から這い出でるようなレイの声で、グウェンから離れた。恥ずかしいとかよりも、兄が明らかにキレかけている事実の方が深刻だった。
「ちょっとそこに正座しなさい!!!!」
「は、はいいい!」
俺は、歳の変わらない、数時間早く生まれた大好きな兄の説教を、コンコンと聞く羽目になった。
「あーあ……ノア先生、レイが転移魔法改良できたの知らなかったんだ…」
「うう、知らないよ。教えてくれてないじゃないか…」
俺は、説教の最中に聞こえてきたテオの言葉に情けない声を出すしかなかった。
レイは研究を重ね、何人か一緒に転移することが出来るようになっていたらしい。その為レイは、俺の所にテオやルークと一緒に転移してやってきたようだった。
グウェンはその事を知っていて、俺の愚行を止めようとしていたようだった。
「転移魔法があってもなくても関係ないでしょ! テオが来るって分かってたんだから、外ではやめろっていってんの!」
「ひぃ!」
俺に心優しかった兄はどこへやら、息子同然のテオの方が比重が重くなっている気がして少し悲しかった。いや、自分が悪いのだが。
「……まぁ、ノアだけが悪いわけじゃ…」
「ルーク」
ルークが何か言いかけていたのをグウェンが止めた。上司の圧で、部下のルークはビクリと体を揺らして止めた。
「え?なに?」
俺が疑問に思って聞こうとすると、レイは、ルークが受けた圧など自分には関係ない、とばかりに話し始めた。
「グウェンだって、魔法使えるんだから。隠そうと思えば隠せるって話だよ」
「おいレイ!」
「え、なに、どういうこと?」
今度はグウェンが慌て始めた。俺は防音とかロックとか、そういう魔法があることは知っていた。しかし魔力ゼロの自分にはあまり関係ないと思って、魔法の勉強は全くしていない。
「隠蔽とか、幻覚とか。やろうと思えば魔術師程じゃなくても出来るんだよ」
「……は?」
「お、おいまて……」
俺はレイに言われた言葉を反芻して噛み砕いた。
「そっか、学園も最近出来たし。ノア先生って魔法の知識自体ないんだ」
文官コースのテオですら知っているようだった。つまり、魔法の基礎の基礎もいい所ということに違いない。
「お、おいノア、落ち着け…」
「~~~~っ!!!」
俺は最強漆黒の騎士の足先を、ガンっ、と思い切り踏み潰してやった。グウェンはいつかのパーティーの時のように蹲った。蹲りながら痛みで微かに震えている。
「ノアに言わなかったのは絶対わざとだね」
「あ、それ俺も分かるぞ、レイ。そういうのって見せびらかしたいってやつだな」
まだ子供と呼んでもおかしくないテオに悟られ、俺は恥ずかしさで憤死しそうだった。
「ま、ノアが元気になってよかったよ」
ガーデンテーブルでいつものようにお茶を飲みながらレイが言う。
「うん、テオ君のおかげかな」
「俺? えー、俺大したこと言ってなくない?」
この少年に言葉で背中を押されたのだが、テオは全く気にしていないようだった。
「テオ君は学園に行ってるの?」
「あ!!!その話題出す?!」
「ノア先生!聞いてよ!レイってばまだ行かせてくれないんだ!!」
薮蛇だったようだ。レイとテオはそのまま2人でギャーギャー喧嘩を始めてしまった。
ルークはもう面倒くさそうに見ているだけで止めもしなかった。
「……俺もレイに、もう良いじゃねーかって言うんだけどな……」
「ああ、むしろそう言われると熱が入っちゃうのか」
子爵家でのルークの苦労が伺える。面倒見が良いのに、存外面倒くさがりのルークはため息をついていた。
レイも意外としつこいのだ。それは俺もよく知っている。婚約破棄前のグウェンとレイのお茶会を何度断ってもしつこく誘ってこられたのはいい思い出だ。
「…今日の本題を話していいか?」
グウェンの言葉で、2人の喧嘩はピタリ、と止まる。
今日集まったのは、事件のことだ。子供に聞かせるのは良くないとは思った様で、レイはテオに言わないようにしていたのだが、侯爵家の意向で聞かせておけと言われたらしい。
そのうち、貴族として働くようになるならば、自分に起きた出来事を把握することも大切だ。という侯爵家当主としての言葉には、流石のレイも逆らえなかったようだ。
侯爵家当主も、レイのことを頼りにしているらしい。しかし、レイは今回の件で後ろめたいのか、子供に聞かせるなんて、と逆らったりはしなかったようだ。
そんな訳で、テオも事件について大人と同様に聞くことになった。
「最初に、アランは死刑が決まった」
「……当然だね」
レイは本気で怒っているようだった。テオの自死は相当なトラウマをレイに植え付けている。
「いつ、そうなるの?」
「……わからん。陛下が最終的に決定するが、早くて1ヶ月。遅いと数年だ」
テオの疑問にもグウェンはきちんと答える。生々しい話だが、テオは今後どうなるのか理解しようとしていた。
「魔法の方は僕で調べたよ」
レイはそう言って、説明を始めた。
女子生徒の夢については、本当に小さい効果だったらしい。花の絵が教室にあったが、描いてある花がバラバラなら花言葉もバラバラ。花言葉が一致しないと効果が薄くなるらしい。しかし、絵画は枯れないため、効果が持続させやすかったようだった。本当の花ではないから効果を強めることは出来なかった。
テオについては、タマスダレの【期待】では花言葉の一致としては不十分だった。そのため、すぐに効果が切れ、手首を浅く切っていたらしい。
男子生徒たちについては、あれは本当に桃の花にしか頼っておらず、効果は直ぐに切れるものだったようだ。だからこそ、アランは早く駆けつけてきて未遂という形にしたようだった。
そして、俺にかけた花言葉は完全一致だった。そのため効果が強く、家でも効果を発揮させた。桃の花で誘惑し、ゴボウの花でアラン以外を拒絶させたのだ。
「まぁ、つまり、色んなことでノアを振り回して、最後は完全にノア狙いだったってこと」
「…そっか……」
レイはため息をついて俺を見ている。多分俺が恨み言を吐かないことに呆れているのだ。
「そもそもノアのことは王女の事件の前から知っていたらしい」
ルークにそう言われ、アランと会ったことがあったか考えたが思い出せなかった。
「……レデリート殿下の使節団で展示会をやっただろ?あん時にいたらしい」
「刺繍展示? 使節団以外がいたの?」
「いや、スタッフだ」
あの時、スタッフは大勢いた。その中の一人だと言われたら、全く覚えていないのも頷ける。
あの時アランがいたということは、だいぶ前から自分のことを知っていた。どうして今頃になってこの計画を思いついたのか。
「今回、学園にノアが入ってきたことに運命だと思ったらしい。それで、何度か花を送って、自分の好感度が上がるような花を送ってたんだよ」
「じゃあすぐ花が枯れてたって言うのは……」
「好感度が上がってた証拠だ。全く悪いやつと思ってなかっただろ?」
親切に受け取っていたものに、そんな呪いのような魔法がかかっていたとは。ゾッと背筋が這いずり回る感覚がした。
「中でも一番強力なのはチューベローズだったらしい。アランは残念がってたよ」
「あ、あの日グウェンが来なかったら……!」
「そういうことだ」
あの日グウェンがたまたま授業がある日じゃなかったらと思うと身体が震え出す。グウェンはそんな俺を見て肩を抱いてくれた。
「そ、それで……桃の花を……?」
「ゆっくり落とすことに決めたらしい」
「桃の花の花言葉で虜する方法は、ノアに虜にさせたり、ノアを自分に虜にさせたり、アラン自身に虜にさせたり……まぁ上手いように使ってたみたい」
言葉遊びのように、誰に虜にするか選択していたようだ。花言葉が完全一致とはいえ、あんなに自我を失うほどの魔法をかけられたの。
レイの言葉で更に恐怖が宿る。アランは最初から、自分を壊すつもりだったのだ。自我など関係なく、自分を手に入れることだけに心力を注いだ。
俺は流石に気持ち悪さが勝り、身震いした。
「あとは、王女の侍女に魔法も教えたのも、アランだったようだ」
「……まさか、薔薇の刺繍……?」
グウェンは頷く。まさかこんなに繋がりがあるとは思っていなかった。
「それも含めて重罪となった。王族に関わっているからな」
「ま、これで解決ってこと、胸糞悪いけどね」
レイはそう言うと、口調は悪いがなんとなくスッキリした顔をしていた。
「はぁ……」
「ノア、平気か?」
「グウェン。大丈夫だよ、ちょっと疲れただけ」
全てを理解し、とりあえず自分の中で納得して溜息をついた。
「もう、大丈夫。みんなありがとう」
俺はそう言って微笑むと、4人もようやく笑顔に戻った。
「じゃ、お昼食べよー!」
レイは立ち上がってテオとルークを連れて本邸の中に入っていく。
俺とグウェンはレイの自由さになんとなく嬉しくて顔を見合わせて笑った。
「グウェン、本当にありがとう」
「君の為なら何度でも、一緒に堕ちる」
レイ達が前を歩いていて、見ていないことを確認してから、俺はグウェンに触れるだけのキスをした。
---------
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
その後のお話を、少しですが続けたいと思っています。
もう少しお付き合い頂ければ嬉しいです
七咲陸
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
826
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる