31 / 92
2章
思い内あれば色月に現る※
しおりを挟む
豪奢で華美な馬車の中は、居心地が良いとはとても言えなかった。
「楽にしたまえ、丸々2日はかかる道程だ」
「ありがとうございます、殿下。ノア、ほら窓から遠く見てて」
レイはゆっくりと優しく背中を摩ってくれていた。緊張のし過ぎで体調が悪い。王子の前ではしたないが、
「…ゲボ吐きそう」
「ちょっと、その顔でゲボとか言わないの。ダメなら僕が膝枕してあげるよ」
「い、いやいや…殿下の前でそんなこと出来ない」
「構わないよ」
どうして王子と同じ馬車に乗ることになってしまったのか。本来ならば、王子が出たあと、遅れて出発する予定だったのだ。
しかし俺とレイは殿下の従者に呼び出され、向かった先は王子の馬車の前だった。その時点で、緊張で胃の中が込み上げてきそうだった。
「うっ…ぷ」
「あーあー、そういえばノアは旅行も初めてだもんねぇ」
「初めて?」
「僕たちの家は貧乏だったんです。なので旅行などそんな余裕はなかったんですが…僕は討伐などで遠くへ行くこともありますけど、ノアはそれ以前に引きこもりもあるので」
「引きこもり」
「そうなんですよ。僕が連れ出そうとしてもすぐ言い訳やら嘘ついて逃げちゃう悪い弟なんです」
体調は悪いが、全て聞いていることは分かっているのだろうか。
後でレイを叱ることを考えつつも、体調が悪い現実に引き戻される。このいかにも最高級の馬車の揺れは、街道であることも含めて少ない方だと思う。しかし
「というか、こんなくだけて喋ってるけど、大丈夫です?」
「ここには誰も居ないし、構わない。気楽に話してくれ」
「うっ……レイ、助けて……」
限界で、レイの膝に頭を載せた。レイはゆっくりと頭を揺らさないように撫でてくれる。すると少し吐き気が落ち着き始める。暖かい光が見えた。
「僕、回復は苦手だけど、この位はね」
「レイ……ありがとう」
「貴殿らは本当に仲が良いな。喧嘩はしないのか?」
「うーん…喧嘩? 喧嘩ってどこからが喧嘩ですかね…?」
「喧嘩はあまりしないですね。レイが一方的に拗ねるだけです」
過去、グウェンとレイのお茶会に参加したくなかった自分が言い訳を並べ立て、完全拒否し続けた結果レイが拗ねてしまう事が多々あった。
人によったらこれも喧嘩と言うならそうなのかもしれない。しかし2人とも喧嘩という自覚はなかった。
「仲睦まじくて羨ましい限りだ」
兄弟仲を褒められている。なのに俺は、王子の言葉にはどこか哀愁のようなものを感じた。
「引きこもりのノア殿が、どうやって第1騎士団長と婚約できたのか、気になるところではあるな」
「?!」
「そりゃこの色気を見れば分かるんじゃないですか? グウェンはこれにやられたんですよ」
レイは色気も一切ない、吐き気を必死に押えた顔を指差して言う。
「グウェンは、一目惚れだったそうです」
「え?」
初めて知る真実だった。面と向かって、俺のどこを好きになったの?なんて恥ずかしくて今まで聞いてこなかった。そしてレイは何故知っているのか。
「8年前に一目惚れしていたそうです。そしてノアもその時に一目惚れしていたんですから、両思いだった訳です」
「ほぅ、それはそれは」
「れ、レイ。いつその話を……?」
「グウェンと討伐後に酒飲んだらゲロったよ?」
その顔でゲロって言うのやめて欲しい。
そう思いつつ、俺はグウェンが一目惚れだった真実を噛み締めた。噛み締める度に、顔が熱くなっていくのが分かる。こんな所で暴露された事も恥ずかしいのだが、それ以上に
「おお。ノア殿はグウェン殿が関わると毎度リンゴのような顔になるな」
「~~~か、揶揄うのはおやめ下さい」
「ふっふっふー、可愛いでしょ、これ僕の弟です」
「ああ、実に惜しいな。婚約者がいなければ完璧だった」
呼吸を一瞬止めた。
恐らくレイも一瞬止まった。頭の中で理解するのが遅れる。目の前の王子はニコニコとどこまで本気なのか分からない笑顔で言う。
「婚約者がいなければ私が娶りたいものだ」
吐き気なんかどこかに吹っ飛んだ。馬車の中は混沌を極めていた。
王子は未だニコニコと、レイは底意地の悪そうな顔でニヤニヤと、俺はどこまでも広がる海のような真っ青な顔をしていた。
「えー!早くグウェンに言わなきゃ!ぐぇ!」
「は、はははは。殿下は冗談が本当にお上手で…」
「ん?冗談はあまり好きではないのだがな」
レイに腹パンをかましながら、冗談を流そうとする。しかし、俺のフォローを打ち消すような言動を続けてくる。
「まだ婚約ならば破棄も出来るな」
レイはずっとニヤニヤしている。本気で早く俺の事を馬車から降ろして欲しかった。
夜、一旦宿に泊まるため馬車からようやく下りることが出来た。
あの後もずっと2人に揶揄われ続け、精神的にも体力的にも本当に疲れた。王子は本気かどうかもよく分からないことを言ってくるし、レイはレイで楽しんで俺を弄ってくるし。
明日は絶対平和な馬車に乗ろうと誓った。
「グウェンとルークだ!」
レイの声で振り返る。馬に乗ってやってきていたグウェンとルークは厩に寄っていたようだった。グウェンの姿を見てやっとホッとすることが出来た。
疲れ切っていた俺は、人目があるにも関わらず、グウェンの方にフラフラ向かい、グウェンの胸にポスっと自分から収まりに行った。
「の、ノア?どうした?」
グウェンは珍しくオロオロしていた。でもそんなことどうでも良かった。
馬に乗ってきていたグウェンの方が疲れているはずだが、疲弊しきった俺の精神を癒すにはこの方法しかないのだ。
「疲れた…」
俺はボソッとグウェンにしか聞こえないように呟いた
「あ、あちゃー…いじめ過ぎちゃった」
「本当に面白いなノア殿は」
「え、なんでこんな面白いことになってんだ?レイ説明してくれ」
レイは多少反省しているようだったが、王子は反省の色が見られなかった。そんな俺たちの様子を見て、ルークは野次馬のように首を突っ込もうとしている。
でももうそんなことどうでもいい。早く癒されるしか気分は浮上することはない。
「…とりあえず、宿に行こう。歩けるか?」
俺が小さく頷くと、グウェンは安堵している様だった。
「では、疲れているようだから今夜の食事はゆっくり取りたまえ」
「乗せていただいてありがとうございました」
「ああ、ゆっくり休んでくれ。また明日楽しみにしている」
レイがお礼を言っていたが、俺には不穏な内容が聞こえてきた。
部屋はグウェンと一緒になっていた。婚約者ということで同室で取ってくれていたようだった。レイはルークと同室なようだ。他の人たちもだいたい誰かと相部屋となっている。
グウェンは部屋に着くなり、俺にベッドに座るように促し、俺は返事もせず座った。
「疲れただろう。ゆっくり休め」
「……グウェン」
「ん?」
横に一緒に腰掛けているグウェンの胸に目掛けて倒れる。背中に腕を回し、グリグリと頭を押し付けた。
「…癒して」
俺の言葉に一瞬逡巡したようだったが、グウェンは優しく腕を背中に回して抱き合う形になった。そしてゆっくり頭を撫でてくれた。吐き気は完全に落ち着いて、気分が良くなってきた。
「明日は違う馬車がいい」
「……具合が悪いと言って、別の馬車に乗ればいい」
「レイにも沢山からかわれた。意地悪だった」
「それは……愛情の裏返しだろう。まぁ注意しておこう。俺の言うことを聞くとは思えんが」
「……殿下も……」
「殿下?殿下と同じ馬車で緊張したんだろう。頑張ったな」
グウェンはゆっくり頭を撫でて甘やかしてくれる。気持ちよくて少しトロンと惚け始めた。
「結婚を迫ってくるし……変な人だった。ずっと俺の事からかってくるんだ」
ピタリと撫でていた手が止まった。
俺は今何を言ったんだ。疲れすぎて、脳が考えることをやめて口走った気がする。不味い、と思って恐る恐るグウェンを見上げた。
「……ノア?」
「ひっ」
微笑んでいるが、こめかみに青筋が見える。怖くて喉がひくついた。
「お前はまた何を振り撒いたんだ?笑顔か?愛想か?色気か?」
「殿下のはきっと冗談で!」
「冗談で結婚話がなぜ持ち上がるんだ!」
「し、知らない!どうしてそうなったのか自分でも分からない!れ、レイがからかって……!」
俺はこの状況を逃げ切るために、自分の兄に全てを責任転嫁する事に決めた。馬車の中で吐き気を抑えてくれた心優しき兄を売ることになんの躊躇もなかった。
まずは自分が助かることが優先事項だった。
「ほう」
「そ、そう!レイが俺をいじってきたんだ!そしたら殿下が悪ノリしてきて…!」
「……ノア。今日も覚悟しろ」
「ひいいい」
俺の情けない声が、室内に響いた。明日、体調が良いなと思いながら。
「んっんっ、んぅ!」
現在俺は、口布を当てられ、声が出ないようにされていた。
宿の壁は薄くはなさそうだが、厚くもなさそうだった。角部屋だが、隣にはレイとルークの部屋がある。これからの行為がバレるのだけは避けたいので、正直この口布は安心できた。
「んっ、んぅ!んん…!」
グウェンには色んな所を舐められている。首や胸、腹、臍、脇や太ももの付け根、つま先まで舐めてないとこがないんじゃないかと言うほど全身を舐められ、キスされた。
しかし、性器だけは避けられていた。ふーふーと息をしながら俺は身体が熱くて、興奮しているのを自覚する。
「んっ」
「ふ、物欲しそうに立ってるぞ」
下を見ると、ふる…と立ち上がりかけてる自身の屹立が見えた。グウェンは先端に指を当てて、離す。指先と先端からは先走りで糸が引いていた。
「んんっ」
「可愛い声が聞きたいんだがな、取ってもいいか?」
グウェンは口布をずらそうとしてくる。それがずらされたら、声を我慢できるか分からない俺は首を振って嫌がった。
正直、もうこんなに焦らされ続けて身体の熱が昂っている状態で口が開放されるのは恐怖だった。みっともなく声が出てしまうのは容易に想像がついた。
「ん゛ーん゛!」
「声が出そうならキスで塞ぐ。大丈夫だ」
グウェンの大丈夫は、大丈夫ではないことが多いと最近のハイライトが頭を駆け巡る。
だいたいこの男はこんな良い顔をしてむっつりスケベなのだ。精液を出させようとしたり、ドアの前で致したり、放尿させてきたり…どうして普通にさせてくれないのか。アブノーマルに目覚めたらどうしてくれるんだ。
「ほら、ノア」
「ん!ぷは!も、外さないでほんぅっ」
口布が外れて開放感があったが、すぐに口を塞がれた。柔らかい口を塞いでる正体は、ぬるりとした物が口内はいってくることで理解した。
「っん……んん、ふ」
「ノア、悪い。俺が我慢出来ない」
「我慢…?わっ、……ぁ」
この目の前の男は我慢なぞしたことがあっただろうか。いや、ない。こちらが待てと言っても待った覚えは1度たりともない。そう。我慢が出来ない男なのだ。
その割に前戯には異様に時間をかけてくるのだが。グウェンの指が後孔にトントンと当ててくる。香油がどろりと垂らされて、少し冷たかったがすぐに慣れた。
「まだ挿れてないのに、ヒクヒクしてるぞ」
「っ、だって…」
俺は知ってる。この指が良い所を当てたり避けたり、穴を拡張しながら快感を無理矢理引き出すようにぐちゃぐちゃにしてくることを知ってる。そしてそれは、1度精を出すまで止まらないことも知ってる。身体と脳が覚えていて、期待してしまう。
「声が出ないように、ゆっくりやるぞ」
「ん……」
こくり、と頭を傾けると、グウェンは口端を上げて少しだけ不敵な笑みを漏らした。ゆっくりやってくれるなら声が出にくいだろうし安心だ。そう思っていた時期が、俺にもあった。
「ん゛っ!ん゛!ん゛ん゛ん゛!!!」
「声しっかり我慢できて偉いな、ノア」
これは本当に声が出てないと言っていいのだろうか。多分大丈夫ではないやつだ。
かれこれ1時間は前戯をされている。いつもなら1度果てているのに、良い所だけ全て避けてくる。更には良い感じに昂ってきてもピタリと手を止めてくる。ずっと焦らされ続けて頭がおかしくなる。
「っは、も、やだっ」
「嫌じゃないだろう?」
「やだっ、グウェンの、ほしっ」
「……もっとちゃんとオネダリして欲しいものだな」
すると、ぐちゅりと中の指をさっきまで徹底的に避けられていた前立腺に当ててきた。
「んぁ!」
たまらず声が大きくなる。慌てて口を手で塞ぐ。気持ちよくて、腰がガクガクする。この快楽から開放されたい。もう焦らされ続けてセーブが効かなくなっていく。
「っ、ふ、グウェ、ン。こ、ここ、ここに、グウェンのチンポ挿れてっ」
「!」
グウェンの目が思い切り開いた。
「普段だったら絶対にそんな言い方しないのに…よっぽど欲しいか」
「ん。ちょう、だいっ、グウェン、ここ、もうトロトロしてるから、グウェンも気持ちよくなって……」
「……声、我慢しろ」
そう言うと、ギラついた目をしたグウェンは俺に覆いかぶさり、グウェンの立派な陰茎がブルンっと姿を表す。俺はこれを待ってたと言わんばかりに身体が歓喜に震えた。
口を手で抑えながら、入ってくるのを想像する。絶対に気持ちいい。入っただけで1回イク。多分長い絶頂に襲われる。そして絶頂中もグウェンはトントンと中をついてくる。きっと死ぬほど気持ちよくて、
「~~~~~~~っっ!!!!」
「っは、ノア」
期待通りに俺は、グウェンのペニスを下の口で咥えただけで絶頂を迎えた。チカチカと目の前で星が舞っている。
「んっんっ!~~~っ!ん゛!」
イっているのに、グウェンは腰を打ち付けてくる。最初は遠慮気味に動いていたが、徐々に緩急を付けて、前戯で散々避けられた良い所を徹底的に擦るように突く。
「ん゛っ、ん゛っ!ふっう、ん゛!ん゛~~~ぁ!!」
グリっと前立腺が抉られた。俺は声を我慢してまた気をやった。グウェンも唸り声を上げて果てた様だった。
「っは……ノア、気持ちよかった」
「っはぁ、あ、ん……んぅ。んっ」
グウェンの口付けに、酔いしれるように舌を絡ませる。グウェンと繋がっている身体はもう1つになるのではないかと言うくらい蕩けていた。
口付けが離れると、顔や首、肩にちゅ、と吸われる。過ぎた刺激でくたりとしていても、気持ちよさにんっ、と反応してしまう。
「ん……グウェン……」
こんなにしつこくされるのは、グウェンが嫉妬をしてくれているのが理由だと分かっている。だからこそ、今日の行為に恥ずかしさはあれど怒りは沸いてこない。
「ノア。婚約破棄はさせないからな」
「ん。しない、俺は、グウェンだけだよ……」
そう言ったか、言わないか。俺は馬車での疲れもあったからなのか、意識が遠のいていった。
「楽にしたまえ、丸々2日はかかる道程だ」
「ありがとうございます、殿下。ノア、ほら窓から遠く見てて」
レイはゆっくりと優しく背中を摩ってくれていた。緊張のし過ぎで体調が悪い。王子の前ではしたないが、
「…ゲボ吐きそう」
「ちょっと、その顔でゲボとか言わないの。ダメなら僕が膝枕してあげるよ」
「い、いやいや…殿下の前でそんなこと出来ない」
「構わないよ」
どうして王子と同じ馬車に乗ることになってしまったのか。本来ならば、王子が出たあと、遅れて出発する予定だったのだ。
しかし俺とレイは殿下の従者に呼び出され、向かった先は王子の馬車の前だった。その時点で、緊張で胃の中が込み上げてきそうだった。
「うっ…ぷ」
「あーあー、そういえばノアは旅行も初めてだもんねぇ」
「初めて?」
「僕たちの家は貧乏だったんです。なので旅行などそんな余裕はなかったんですが…僕は討伐などで遠くへ行くこともありますけど、ノアはそれ以前に引きこもりもあるので」
「引きこもり」
「そうなんですよ。僕が連れ出そうとしてもすぐ言い訳やら嘘ついて逃げちゃう悪い弟なんです」
体調は悪いが、全て聞いていることは分かっているのだろうか。
後でレイを叱ることを考えつつも、体調が悪い現実に引き戻される。このいかにも最高級の馬車の揺れは、街道であることも含めて少ない方だと思う。しかし
「というか、こんなくだけて喋ってるけど、大丈夫です?」
「ここには誰も居ないし、構わない。気楽に話してくれ」
「うっ……レイ、助けて……」
限界で、レイの膝に頭を載せた。レイはゆっくりと頭を揺らさないように撫でてくれる。すると少し吐き気が落ち着き始める。暖かい光が見えた。
「僕、回復は苦手だけど、この位はね」
「レイ……ありがとう」
「貴殿らは本当に仲が良いな。喧嘩はしないのか?」
「うーん…喧嘩? 喧嘩ってどこからが喧嘩ですかね…?」
「喧嘩はあまりしないですね。レイが一方的に拗ねるだけです」
過去、グウェンとレイのお茶会に参加したくなかった自分が言い訳を並べ立て、完全拒否し続けた結果レイが拗ねてしまう事が多々あった。
人によったらこれも喧嘩と言うならそうなのかもしれない。しかし2人とも喧嘩という自覚はなかった。
「仲睦まじくて羨ましい限りだ」
兄弟仲を褒められている。なのに俺は、王子の言葉にはどこか哀愁のようなものを感じた。
「引きこもりのノア殿が、どうやって第1騎士団長と婚約できたのか、気になるところではあるな」
「?!」
「そりゃこの色気を見れば分かるんじゃないですか? グウェンはこれにやられたんですよ」
レイは色気も一切ない、吐き気を必死に押えた顔を指差して言う。
「グウェンは、一目惚れだったそうです」
「え?」
初めて知る真実だった。面と向かって、俺のどこを好きになったの?なんて恥ずかしくて今まで聞いてこなかった。そしてレイは何故知っているのか。
「8年前に一目惚れしていたそうです。そしてノアもその時に一目惚れしていたんですから、両思いだった訳です」
「ほぅ、それはそれは」
「れ、レイ。いつその話を……?」
「グウェンと討伐後に酒飲んだらゲロったよ?」
その顔でゲロって言うのやめて欲しい。
そう思いつつ、俺はグウェンが一目惚れだった真実を噛み締めた。噛み締める度に、顔が熱くなっていくのが分かる。こんな所で暴露された事も恥ずかしいのだが、それ以上に
「おお。ノア殿はグウェン殿が関わると毎度リンゴのような顔になるな」
「~~~か、揶揄うのはおやめ下さい」
「ふっふっふー、可愛いでしょ、これ僕の弟です」
「ああ、実に惜しいな。婚約者がいなければ完璧だった」
呼吸を一瞬止めた。
恐らくレイも一瞬止まった。頭の中で理解するのが遅れる。目の前の王子はニコニコとどこまで本気なのか分からない笑顔で言う。
「婚約者がいなければ私が娶りたいものだ」
吐き気なんかどこかに吹っ飛んだ。馬車の中は混沌を極めていた。
王子は未だニコニコと、レイは底意地の悪そうな顔でニヤニヤと、俺はどこまでも広がる海のような真っ青な顔をしていた。
「えー!早くグウェンに言わなきゃ!ぐぇ!」
「は、はははは。殿下は冗談が本当にお上手で…」
「ん?冗談はあまり好きではないのだがな」
レイに腹パンをかましながら、冗談を流そうとする。しかし、俺のフォローを打ち消すような言動を続けてくる。
「まだ婚約ならば破棄も出来るな」
レイはずっとニヤニヤしている。本気で早く俺の事を馬車から降ろして欲しかった。
夜、一旦宿に泊まるため馬車からようやく下りることが出来た。
あの後もずっと2人に揶揄われ続け、精神的にも体力的にも本当に疲れた。王子は本気かどうかもよく分からないことを言ってくるし、レイはレイで楽しんで俺を弄ってくるし。
明日は絶対平和な馬車に乗ろうと誓った。
「グウェンとルークだ!」
レイの声で振り返る。馬に乗ってやってきていたグウェンとルークは厩に寄っていたようだった。グウェンの姿を見てやっとホッとすることが出来た。
疲れ切っていた俺は、人目があるにも関わらず、グウェンの方にフラフラ向かい、グウェンの胸にポスっと自分から収まりに行った。
「の、ノア?どうした?」
グウェンは珍しくオロオロしていた。でもそんなことどうでも良かった。
馬に乗ってきていたグウェンの方が疲れているはずだが、疲弊しきった俺の精神を癒すにはこの方法しかないのだ。
「疲れた…」
俺はボソッとグウェンにしか聞こえないように呟いた
「あ、あちゃー…いじめ過ぎちゃった」
「本当に面白いなノア殿は」
「え、なんでこんな面白いことになってんだ?レイ説明してくれ」
レイは多少反省しているようだったが、王子は反省の色が見られなかった。そんな俺たちの様子を見て、ルークは野次馬のように首を突っ込もうとしている。
でももうそんなことどうでもいい。早く癒されるしか気分は浮上することはない。
「…とりあえず、宿に行こう。歩けるか?」
俺が小さく頷くと、グウェンは安堵している様だった。
「では、疲れているようだから今夜の食事はゆっくり取りたまえ」
「乗せていただいてありがとうございました」
「ああ、ゆっくり休んでくれ。また明日楽しみにしている」
レイがお礼を言っていたが、俺には不穏な内容が聞こえてきた。
部屋はグウェンと一緒になっていた。婚約者ということで同室で取ってくれていたようだった。レイはルークと同室なようだ。他の人たちもだいたい誰かと相部屋となっている。
グウェンは部屋に着くなり、俺にベッドに座るように促し、俺は返事もせず座った。
「疲れただろう。ゆっくり休め」
「……グウェン」
「ん?」
横に一緒に腰掛けているグウェンの胸に目掛けて倒れる。背中に腕を回し、グリグリと頭を押し付けた。
「…癒して」
俺の言葉に一瞬逡巡したようだったが、グウェンは優しく腕を背中に回して抱き合う形になった。そしてゆっくり頭を撫でてくれた。吐き気は完全に落ち着いて、気分が良くなってきた。
「明日は違う馬車がいい」
「……具合が悪いと言って、別の馬車に乗ればいい」
「レイにも沢山からかわれた。意地悪だった」
「それは……愛情の裏返しだろう。まぁ注意しておこう。俺の言うことを聞くとは思えんが」
「……殿下も……」
「殿下?殿下と同じ馬車で緊張したんだろう。頑張ったな」
グウェンはゆっくり頭を撫でて甘やかしてくれる。気持ちよくて少しトロンと惚け始めた。
「結婚を迫ってくるし……変な人だった。ずっと俺の事からかってくるんだ」
ピタリと撫でていた手が止まった。
俺は今何を言ったんだ。疲れすぎて、脳が考えることをやめて口走った気がする。不味い、と思って恐る恐るグウェンを見上げた。
「……ノア?」
「ひっ」
微笑んでいるが、こめかみに青筋が見える。怖くて喉がひくついた。
「お前はまた何を振り撒いたんだ?笑顔か?愛想か?色気か?」
「殿下のはきっと冗談で!」
「冗談で結婚話がなぜ持ち上がるんだ!」
「し、知らない!どうしてそうなったのか自分でも分からない!れ、レイがからかって……!」
俺はこの状況を逃げ切るために、自分の兄に全てを責任転嫁する事に決めた。馬車の中で吐き気を抑えてくれた心優しき兄を売ることになんの躊躇もなかった。
まずは自分が助かることが優先事項だった。
「ほう」
「そ、そう!レイが俺をいじってきたんだ!そしたら殿下が悪ノリしてきて…!」
「……ノア。今日も覚悟しろ」
「ひいいい」
俺の情けない声が、室内に響いた。明日、体調が良いなと思いながら。
「んっんっ、んぅ!」
現在俺は、口布を当てられ、声が出ないようにされていた。
宿の壁は薄くはなさそうだが、厚くもなさそうだった。角部屋だが、隣にはレイとルークの部屋がある。これからの行為がバレるのだけは避けたいので、正直この口布は安心できた。
「んっ、んぅ!んん…!」
グウェンには色んな所を舐められている。首や胸、腹、臍、脇や太ももの付け根、つま先まで舐めてないとこがないんじゃないかと言うほど全身を舐められ、キスされた。
しかし、性器だけは避けられていた。ふーふーと息をしながら俺は身体が熱くて、興奮しているのを自覚する。
「んっ」
「ふ、物欲しそうに立ってるぞ」
下を見ると、ふる…と立ち上がりかけてる自身の屹立が見えた。グウェンは先端に指を当てて、離す。指先と先端からは先走りで糸が引いていた。
「んんっ」
「可愛い声が聞きたいんだがな、取ってもいいか?」
グウェンは口布をずらそうとしてくる。それがずらされたら、声を我慢できるか分からない俺は首を振って嫌がった。
正直、もうこんなに焦らされ続けて身体の熱が昂っている状態で口が開放されるのは恐怖だった。みっともなく声が出てしまうのは容易に想像がついた。
「ん゛ーん゛!」
「声が出そうならキスで塞ぐ。大丈夫だ」
グウェンの大丈夫は、大丈夫ではないことが多いと最近のハイライトが頭を駆け巡る。
だいたいこの男はこんな良い顔をしてむっつりスケベなのだ。精液を出させようとしたり、ドアの前で致したり、放尿させてきたり…どうして普通にさせてくれないのか。アブノーマルに目覚めたらどうしてくれるんだ。
「ほら、ノア」
「ん!ぷは!も、外さないでほんぅっ」
口布が外れて開放感があったが、すぐに口を塞がれた。柔らかい口を塞いでる正体は、ぬるりとした物が口内はいってくることで理解した。
「っん……んん、ふ」
「ノア、悪い。俺が我慢出来ない」
「我慢…?わっ、……ぁ」
この目の前の男は我慢なぞしたことがあっただろうか。いや、ない。こちらが待てと言っても待った覚えは1度たりともない。そう。我慢が出来ない男なのだ。
その割に前戯には異様に時間をかけてくるのだが。グウェンの指が後孔にトントンと当ててくる。香油がどろりと垂らされて、少し冷たかったがすぐに慣れた。
「まだ挿れてないのに、ヒクヒクしてるぞ」
「っ、だって…」
俺は知ってる。この指が良い所を当てたり避けたり、穴を拡張しながら快感を無理矢理引き出すようにぐちゃぐちゃにしてくることを知ってる。そしてそれは、1度精を出すまで止まらないことも知ってる。身体と脳が覚えていて、期待してしまう。
「声が出ないように、ゆっくりやるぞ」
「ん……」
こくり、と頭を傾けると、グウェンは口端を上げて少しだけ不敵な笑みを漏らした。ゆっくりやってくれるなら声が出にくいだろうし安心だ。そう思っていた時期が、俺にもあった。
「ん゛っ!ん゛!ん゛ん゛ん゛!!!」
「声しっかり我慢できて偉いな、ノア」
これは本当に声が出てないと言っていいのだろうか。多分大丈夫ではないやつだ。
かれこれ1時間は前戯をされている。いつもなら1度果てているのに、良い所だけ全て避けてくる。更には良い感じに昂ってきてもピタリと手を止めてくる。ずっと焦らされ続けて頭がおかしくなる。
「っは、も、やだっ」
「嫌じゃないだろう?」
「やだっ、グウェンの、ほしっ」
「……もっとちゃんとオネダリして欲しいものだな」
すると、ぐちゅりと中の指をさっきまで徹底的に避けられていた前立腺に当ててきた。
「んぁ!」
たまらず声が大きくなる。慌てて口を手で塞ぐ。気持ちよくて、腰がガクガクする。この快楽から開放されたい。もう焦らされ続けてセーブが効かなくなっていく。
「っ、ふ、グウェ、ン。こ、ここ、ここに、グウェンのチンポ挿れてっ」
「!」
グウェンの目が思い切り開いた。
「普段だったら絶対にそんな言い方しないのに…よっぽど欲しいか」
「ん。ちょう、だいっ、グウェン、ここ、もうトロトロしてるから、グウェンも気持ちよくなって……」
「……声、我慢しろ」
そう言うと、ギラついた目をしたグウェンは俺に覆いかぶさり、グウェンの立派な陰茎がブルンっと姿を表す。俺はこれを待ってたと言わんばかりに身体が歓喜に震えた。
口を手で抑えながら、入ってくるのを想像する。絶対に気持ちいい。入っただけで1回イク。多分長い絶頂に襲われる。そして絶頂中もグウェンはトントンと中をついてくる。きっと死ぬほど気持ちよくて、
「~~~~~~~っっ!!!!」
「っは、ノア」
期待通りに俺は、グウェンのペニスを下の口で咥えただけで絶頂を迎えた。チカチカと目の前で星が舞っている。
「んっんっ!~~~っ!ん゛!」
イっているのに、グウェンは腰を打ち付けてくる。最初は遠慮気味に動いていたが、徐々に緩急を付けて、前戯で散々避けられた良い所を徹底的に擦るように突く。
「ん゛っ、ん゛っ!ふっう、ん゛!ん゛~~~ぁ!!」
グリっと前立腺が抉られた。俺は声を我慢してまた気をやった。グウェンも唸り声を上げて果てた様だった。
「っは……ノア、気持ちよかった」
「っはぁ、あ、ん……んぅ。んっ」
グウェンの口付けに、酔いしれるように舌を絡ませる。グウェンと繋がっている身体はもう1つになるのではないかと言うくらい蕩けていた。
口付けが離れると、顔や首、肩にちゅ、と吸われる。過ぎた刺激でくたりとしていても、気持ちよさにんっ、と反応してしまう。
「ん……グウェン……」
こんなにしつこくされるのは、グウェンが嫉妬をしてくれているのが理由だと分かっている。だからこそ、今日の行為に恥ずかしさはあれど怒りは沸いてこない。
「ノア。婚約破棄はさせないからな」
「ん。しない、俺は、グウェンだけだよ……」
そう言ったか、言わないか。俺は馬車での疲れもあったからなのか、意識が遠のいていった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
826
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる