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1章
ルークとレイ
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ルークはモヤモヤとしていた。というのも、パーティー会場に遅刻してきた主役がモテにモテまくっているせいだった。レイは最近、更に綺麗になった。討伐隊で一緒になる連中からも、可愛いよりも綺麗だと言われることが多くなった気がする。グウェンという強力な虫除けが今までいたが、今はフリーということで狙ってくるやつが大勢いる。騎士団ももちろんだが、魔法師団、女性にもモテている。仲介を何度頼まれたか分からない。その度に交わし続けてきた。今もパーティー会場にはレイに群がるハイエナが大勢いた。近づくことも困難で、話しかけることが出来ずにいる。ルークは1度休憩のため、シャンパン片手に壁へ寄りかかることにした。
「ルーク、息災か」
「公爵様! お久しぶりです。こちらは変わりないです」
突然、騎士団トップである公爵に声をかけられ、ルークは慌てて居住まいを正す。公爵当主は楽にしてくれ、とルークに伝えつつニコニコとしていた。仕事中はこのニコニコ姿からは想像もつかないほど、恐ろしい姿へ変貌する事は騎士団員全員が理解している。
「そうかそうか。レイとは最近どうなんだ?」
「あー…実はですね…」
次男のガゼルが婚約者候補に上がっている事を伝えると、公爵当主は首を捻った。
「君も立候補しないのかね?」
「したいにはしたいですが…俺は8男で何も持ち合わせていないというか…」
「ふむ。君にはレイが後ろ盾にしか興味がなさそうに見えるのかい?」
「いや!そんなことは……いや、そうですね、グウェン様は第1騎士団長でしたし…」
元婚約者のグウェンを思い返すと、騎士団ナンバー2で、女性が必ず振り返るような顔をしていて、服に隠れているが体格は男が惚れ惚れするようにがっしりしており、更に公爵家の長男…どうしてもルークのコンプレックスが刺激される。
「レイは、そんなこと気にしていなかったな」
「え?」
「レイは顔合わせ以降はずっとタメ口をきくわ、可愛い顔して言うことは聞かないわ、弟の話を始めると止まらないわでグウェンはいつも困っていた」
レイの破天荒さは家族の中だけではなかったようだった。
「レイは、身分よりもグウェン自身を気に入っているというのが伝わっていた。息子にとっても、それは嬉しいものだったと思う」
「そうかもしれないですが…だからといって、俺を好きになるかって言ったら別じゃないですかね…」
「君、結構面倒臭いんだな」
ぐさりと心に言葉の槍を思いっきり刺された。落ち込むと、公爵は続けた。
「レイは、レイ自身の力で道を切り開く子だよ。ノアとはそこが決定的に違う」
「はぁ」
「まぁだからといって君を選ぶかは分からんがな!」
はっはっはと笑いながら、最後にトドメを刺して公爵は離れていった。公爵当主の様子とは裏腹に、どんよりと雲が掛かったような気持ちになった。
「何やってるの」
横から声がかかる。レイだった。
「あー…己の自信のなさを責められて落ち込んでるんだよ」
「なにそれ、いつもうるさいくせに落ち込むんだ」
「うるさいって何だよ、遊んであげてるんだろ」
うりゃ、とシャンパンを持っていない手でレイの頭をくしゃりとする。
「ちょ、やめてよ。せっかくセットしてもらったのにー」
やめてよと言いつつも、ふわりと笑う姿に愛しさを覚える。今までずっと、婚約者がいたから諦めようとしてきた。チャンスがあるなら藁にも縋りたい。
「…お前、ガゼル兄さんとの婚約、どうして保留にしたんだ」
「どうしてって…あの場でどう返事しても正解がなさそうだったからだよ」
「は?」
「だって、OKしたらまだ立て直してない領地の事を考えるとちょっと大変だし。断ったとしてももっと考えてくれって言われそうだし。どう返事しても僕にとって正解じゃないと思ったんだよ」
レイの言葉を噛み砕くように考える。ガゼルと結婚したいか、したくないかではなく。きちんと当主としてどう振る舞うべきかを考えていたようだった。ルークはその事に気づき、はー、とため息をついた。
「なんだよ、それ…てっきり結婚したいのかと」
「結婚はしたいよ?」
ルークは持っていたシャンパンを落とした。
「うわ!」
「お怪我はございませんか?」
公爵家の使用人が駆け寄り、素早く片付けをしていく。一瞬、何事かと視線が集まったが、直ぐにまたざわつき始めた。幸い、ルークもレイも汚れてはいなかった。
「わ、悪い」
「いいけど。どうしたの、ルークらしくない」
「俺らしいってなんだよ…」
「いつもだったらもっと僕のことからかったりしてるのに、全然しないじゃん」
そういう意味でレイを意識し始めると、からかいにくくなってしまった。いつもの調子で告白でもすれば良いのだが、それも上手く出来そうになかった。
「今日はそういう気分じゃないだけだろ」
「ふぅん…まぁルークはカッコつけたいんでしょ」
「あ?」
レイの言いように少し刺があるのを感じた。
「公爵様と話す前までずっと色んな女性と話してたじゃない。鼻の下伸ばして」
「はぁ?それはお前だろ。女にも男にも囲まれてただろ」
「僕はそういうのじゃなかった! だいたい魔法の家庭教師になって欲しいとか、授業をして欲しいとか!討伐に参加して欲しいとかそんな話ばっかだよ!」
突然のレイのいつもの勢いにたじろぐ。レイは肩で息をしながら顔を真っ赤にしていた。
「そ、そうか……」
ルークは困惑した表情をしながら、生返事をする。けれど家庭教師や討伐やらはただの建前であることはルークには明白だった。
「いい?! 結婚したいの!」
「お、おう」
「~~っ ルークの馬鹿!」
「な」
罵声を浴びせた張本人は、逃げるように会場の人々の波に飲まれていった。
失敗した、失敗した、失敗した。あんな風に言うつもりはなかった。つい勢いに任せて、馬鹿なんて言ってしまった。5分前に戻りたい。はぁ、とため息をつきながら前を向くと、ノアとグウェンが居ることに気がついた。テラスに居る2人は月明かりに照らされていてとても綺麗だった。2人で話をしているのだろうか、落ち着くためにもノアと少し話したい。そう思って声をかけらようとした。
「あ、ノアーーー」
まさか、カーテンで死角になっているとはいえ、こんな大勢がいる中で熱い抱擁と口付けをしているなんて。途中まで上げた手は行き場をなくす。そして、慌ててカーテンに隠れた。声は聞こえないが、ノアが気持ちよさそうに快楽に飲まれている姿はとても扇情的だった。
「お、同じ顔が……あんな蕩けてるなんて……」
見てるだけでこちらが照れてしまう。どうしたものかと考えていると、後ろから肩を叩かれる。
「ひっ!」
振り返ると、先程罵声を浴びせた男が立っていた。ルークはあまりにも驚きすぎている僕に戸惑う。
「な、なんだよ。どうーーー」
自分の頬が熱くなっているし、更に赤みが増してさらに涙を溜めているのも自覚していた。そんな自分の姿に言葉を失くしていたが、はっとして僕が見ていた方を見ると、ノアとグウェンがいた。
「おま、まさか見たのか…」
「うううう……だってあんなことすると思ってなかったんだもん……!」
ルークは状況を察すると、お互いこそこそと内緒話をするように顔を耳に近づけて話す。
「…グウェン様に、まだ気持ちがあるのか?」
「は?」
「いや、泣きそうになってるから…」
「はぁー? 婚約者が居るのに目移りするようなやつにどうして僕がまだ懸想しなきゃいけないのさ」
ズバズバとグウェンの痛いところを刺す僕に恋心は微塵も感じないだろう。後でグウェンが聞いたら本気で落ち込むぞとルークは言った。
「ノアが幸せなら、それでいいの」
いつもはどちらが兄なのか分からないような態度を取っているのに、今僕はきっと弟を思う兄の顔をしているだろう。
「ノアは今までずっと僕に遠慮しててさ。それすら隠して生きてた。だから全部取り返して欲しいんだ」
僕はどこか寂しいけど、誇らしく言った。
「僕がずっと幸せだなーって思ってた分、全部ね」
「……そうだな」
「うん」
「仕方ねーから、お前は俺が幸せにするわ」
「うん……うん!?」
急な告白に自分の目がとび出そうなほど驚く。ルークの方を慌てて見ると、ルークはスッキリしたような笑顔をしていた。
「な、な、」
「おい、戻ってこーい」
「何言ってるか分かってんの……?」
僕は窓を見るとリンゴのように真っ赤にした顔のままわなわなとしていた。ルークを見ると、自分の身体をカーテン越しの窓に追い込み、僕を逃がさないように両腕を顔の横に伸ばす。
「あ、わわ…」
「今度は逃げんなよ」
僕の顎に手を当て、ルークの方へ見上げさせる。力いっぱい目と口を閉じた。ルークが少し屈んで、吐息が感じられるほど近づいていく。互いの唇からちゅ、と音がした。
「……れ、レイ……」
2人同時に声がした横を向いた。さっきまでテラスにいたはずのノアが僕と同じくらい顔を真っ赤にしながら手で目を隠していた。テラスから戻ってきたところで見つかったらしい。
「ご、ごめんね…見るつもりはなかったんだけど…ど、どうぞ…続けてください……」
照れているノアの後ろにはグウェンがウキウキとしていた。ルークは冷静にそういう所はライオット家の血を感じると言っていた。僕の頭からボンッと音がした。
「つ、続けるわけないでしょーー!」
頬に手形があるルークは何故か上機嫌で招待客は不気味に感じていたという…
「ルーク、息災か」
「公爵様! お久しぶりです。こちらは変わりないです」
突然、騎士団トップである公爵に声をかけられ、ルークは慌てて居住まいを正す。公爵当主は楽にしてくれ、とルークに伝えつつニコニコとしていた。仕事中はこのニコニコ姿からは想像もつかないほど、恐ろしい姿へ変貌する事は騎士団員全員が理解している。
「そうかそうか。レイとは最近どうなんだ?」
「あー…実はですね…」
次男のガゼルが婚約者候補に上がっている事を伝えると、公爵当主は首を捻った。
「君も立候補しないのかね?」
「したいにはしたいですが…俺は8男で何も持ち合わせていないというか…」
「ふむ。君にはレイが後ろ盾にしか興味がなさそうに見えるのかい?」
「いや!そんなことは……いや、そうですね、グウェン様は第1騎士団長でしたし…」
元婚約者のグウェンを思い返すと、騎士団ナンバー2で、女性が必ず振り返るような顔をしていて、服に隠れているが体格は男が惚れ惚れするようにがっしりしており、更に公爵家の長男…どうしてもルークのコンプレックスが刺激される。
「レイは、そんなこと気にしていなかったな」
「え?」
「レイは顔合わせ以降はずっとタメ口をきくわ、可愛い顔して言うことは聞かないわ、弟の話を始めると止まらないわでグウェンはいつも困っていた」
レイの破天荒さは家族の中だけではなかったようだった。
「レイは、身分よりもグウェン自身を気に入っているというのが伝わっていた。息子にとっても、それは嬉しいものだったと思う」
「そうかもしれないですが…だからといって、俺を好きになるかって言ったら別じゃないですかね…」
「君、結構面倒臭いんだな」
ぐさりと心に言葉の槍を思いっきり刺された。落ち込むと、公爵は続けた。
「レイは、レイ自身の力で道を切り開く子だよ。ノアとはそこが決定的に違う」
「はぁ」
「まぁだからといって君を選ぶかは分からんがな!」
はっはっはと笑いながら、最後にトドメを刺して公爵は離れていった。公爵当主の様子とは裏腹に、どんよりと雲が掛かったような気持ちになった。
「何やってるの」
横から声がかかる。レイだった。
「あー…己の自信のなさを責められて落ち込んでるんだよ」
「なにそれ、いつもうるさいくせに落ち込むんだ」
「うるさいって何だよ、遊んであげてるんだろ」
うりゃ、とシャンパンを持っていない手でレイの頭をくしゃりとする。
「ちょ、やめてよ。せっかくセットしてもらったのにー」
やめてよと言いつつも、ふわりと笑う姿に愛しさを覚える。今までずっと、婚約者がいたから諦めようとしてきた。チャンスがあるなら藁にも縋りたい。
「…お前、ガゼル兄さんとの婚約、どうして保留にしたんだ」
「どうしてって…あの場でどう返事しても正解がなさそうだったからだよ」
「は?」
「だって、OKしたらまだ立て直してない領地の事を考えるとちょっと大変だし。断ったとしてももっと考えてくれって言われそうだし。どう返事しても僕にとって正解じゃないと思ったんだよ」
レイの言葉を噛み砕くように考える。ガゼルと結婚したいか、したくないかではなく。きちんと当主としてどう振る舞うべきかを考えていたようだった。ルークはその事に気づき、はー、とため息をついた。
「なんだよ、それ…てっきり結婚したいのかと」
「結婚はしたいよ?」
ルークは持っていたシャンパンを落とした。
「うわ!」
「お怪我はございませんか?」
公爵家の使用人が駆け寄り、素早く片付けをしていく。一瞬、何事かと視線が集まったが、直ぐにまたざわつき始めた。幸い、ルークもレイも汚れてはいなかった。
「わ、悪い」
「いいけど。どうしたの、ルークらしくない」
「俺らしいってなんだよ…」
「いつもだったらもっと僕のことからかったりしてるのに、全然しないじゃん」
そういう意味でレイを意識し始めると、からかいにくくなってしまった。いつもの調子で告白でもすれば良いのだが、それも上手く出来そうになかった。
「今日はそういう気分じゃないだけだろ」
「ふぅん…まぁルークはカッコつけたいんでしょ」
「あ?」
レイの言いように少し刺があるのを感じた。
「公爵様と話す前までずっと色んな女性と話してたじゃない。鼻の下伸ばして」
「はぁ?それはお前だろ。女にも男にも囲まれてただろ」
「僕はそういうのじゃなかった! だいたい魔法の家庭教師になって欲しいとか、授業をして欲しいとか!討伐に参加して欲しいとかそんな話ばっかだよ!」
突然のレイのいつもの勢いにたじろぐ。レイは肩で息をしながら顔を真っ赤にしていた。
「そ、そうか……」
ルークは困惑した表情をしながら、生返事をする。けれど家庭教師や討伐やらはただの建前であることはルークには明白だった。
「いい?! 結婚したいの!」
「お、おう」
「~~っ ルークの馬鹿!」
「な」
罵声を浴びせた張本人は、逃げるように会場の人々の波に飲まれていった。
失敗した、失敗した、失敗した。あんな風に言うつもりはなかった。つい勢いに任せて、馬鹿なんて言ってしまった。5分前に戻りたい。はぁ、とため息をつきながら前を向くと、ノアとグウェンが居ることに気がついた。テラスに居る2人は月明かりに照らされていてとても綺麗だった。2人で話をしているのだろうか、落ち着くためにもノアと少し話したい。そう思って声をかけらようとした。
「あ、ノアーーー」
まさか、カーテンで死角になっているとはいえ、こんな大勢がいる中で熱い抱擁と口付けをしているなんて。途中まで上げた手は行き場をなくす。そして、慌ててカーテンに隠れた。声は聞こえないが、ノアが気持ちよさそうに快楽に飲まれている姿はとても扇情的だった。
「お、同じ顔が……あんな蕩けてるなんて……」
見てるだけでこちらが照れてしまう。どうしたものかと考えていると、後ろから肩を叩かれる。
「ひっ!」
振り返ると、先程罵声を浴びせた男が立っていた。ルークはあまりにも驚きすぎている僕に戸惑う。
「な、なんだよ。どうーーー」
自分の頬が熱くなっているし、更に赤みが増してさらに涙を溜めているのも自覚していた。そんな自分の姿に言葉を失くしていたが、はっとして僕が見ていた方を見ると、ノアとグウェンがいた。
「おま、まさか見たのか…」
「うううう……だってあんなことすると思ってなかったんだもん……!」
ルークは状況を察すると、お互いこそこそと内緒話をするように顔を耳に近づけて話す。
「…グウェン様に、まだ気持ちがあるのか?」
「は?」
「いや、泣きそうになってるから…」
「はぁー? 婚約者が居るのに目移りするようなやつにどうして僕がまだ懸想しなきゃいけないのさ」
ズバズバとグウェンの痛いところを刺す僕に恋心は微塵も感じないだろう。後でグウェンが聞いたら本気で落ち込むぞとルークは言った。
「ノアが幸せなら、それでいいの」
いつもはどちらが兄なのか分からないような態度を取っているのに、今僕はきっと弟を思う兄の顔をしているだろう。
「ノアは今までずっと僕に遠慮しててさ。それすら隠して生きてた。だから全部取り返して欲しいんだ」
僕はどこか寂しいけど、誇らしく言った。
「僕がずっと幸せだなーって思ってた分、全部ね」
「……そうだな」
「うん」
「仕方ねーから、お前は俺が幸せにするわ」
「うん……うん!?」
急な告白に自分の目がとび出そうなほど驚く。ルークの方を慌てて見ると、ルークはスッキリしたような笑顔をしていた。
「な、な、」
「おい、戻ってこーい」
「何言ってるか分かってんの……?」
僕は窓を見るとリンゴのように真っ赤にした顔のままわなわなとしていた。ルークを見ると、自分の身体をカーテン越しの窓に追い込み、僕を逃がさないように両腕を顔の横に伸ばす。
「あ、わわ…」
「今度は逃げんなよ」
僕の顎に手を当て、ルークの方へ見上げさせる。力いっぱい目と口を閉じた。ルークが少し屈んで、吐息が感じられるほど近づいていく。互いの唇からちゅ、と音がした。
「……れ、レイ……」
2人同時に声がした横を向いた。さっきまでテラスにいたはずのノアが僕と同じくらい顔を真っ赤にしながら手で目を隠していた。テラスから戻ってきたところで見つかったらしい。
「ご、ごめんね…見るつもりはなかったんだけど…ど、どうぞ…続けてください……」
照れているノアの後ろにはグウェンがウキウキとしていた。ルークは冷静にそういう所はライオット家の血を感じると言っていた。僕の頭からボンッと音がした。
「つ、続けるわけないでしょーー!」
頬に手形があるルークは何故か上機嫌で招待客は不気味に感じていたという…
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