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1章
転生
しおりを挟むここは、どこだ。体が上手く動かせない。そろりと目を開ける。見慣れない天井だった。辺りを見回すと、柵に囲われている。柵を掴もうと手を動かす。
「ぁ……」
なんだこれは。明らかに自分の手ではない。柵にすら届かない。けれど自分の意思で動かしたのだ。手が小さすぎる。身体が縮んだのか。自分の顔の前に手をやると、赤子の手が見えた。
「あんあおえ……!」
なんだこれ、と発言したのか。独り言すら舌足らずで満足に発することが出来ない。
「あら、起きられましたか?坊っちゃま」
メイドの格好をした女性が柵の上から覗き込むようにこちらを見てきた。20代そこそこのように見受けられる。ふわりと笑う顔は花のようだった。
「ノア坊っちゃま、まだ夜です。子守唄でも歌いましょう」
泣く? 泣くより驚いている。メイドは俺の頭を支えながら、身体を持ち上げた。メイドの腕の中に抱かれたまま、ソプラノの歌声を聞いた。徐々に瞼は抗えなくなっていった。
もう一度目を覚ますと、今度は辺りは明るかった。どうやら昼間のようだった。
「目を覚ましたの?ノア」
「レイも目を覚ましてるぞ、お寝坊さんだ」
男女の声が自分の上からする。どうやら自分は男の方に抱えられているようだった。男は俺の頬をツンツンと優しく触れる。
「パパとママだぞー、分かるかなー」
「あなた、まだ乳児ですよ。わからないですよ」
父と母?母は死んだと聞いた。どういうことだ。よく見ると、姿形が全く違う。父もこんな美丈夫ではなかったし、母もここまで可憐な美しさではなかった。じっと父を見上げると、またしてもツンツンと頬を触ってきた。
「可愛いなぁ。君にそっくりだ」
「ふふ、2人とも男の子だもの。大人につれ貴方に少しずつ似てくるわ」
母に似ているのか。またしても自分は、この美しい母に似ているのか。あんな思いをまたするのか?
「ふ、えええええああああああ」
「え! ノアどうした?ミルクか?オムツか?」
俺が突然泣き出すと、父は慌てて背中をトントンと優しく叩く。父に似れば良かったのに。そうすればあんな思いをまたすることなんてないのに。でも、母に似てても、父に似てなくても、今度こそ間違えたりしたくない。しばらく泣いていると、疲れたのか俺は深い眠りについた。
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