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番外編
愛の言葉 side アドルフ ③
しおりを挟むスタッフに誘導されながらテーブルにつく。少し奥まった場所で半個室のような場所にギョッとする。スタッフの目があれば浮気の心配もされないし、平気かも、なんてのは甘い考えだった。
カインの方が一枚も二枚も上手で自分の浅はかさに絶句するしかなかった。
とりあえずスタッフが椅子を引いてくれたので座ることにした。
カインは手馴れた様子でワインを頼んだ。そして食事ペースに合わせてコースが次々と運ばれてくる。
「で?なんで俺なんだよ。お貴族様には似合わないツレでみんなビックリしてるじゃねーか」
「そうでもないんじゃないですか? 今のアドルフ先輩、いい所のおぼっちゃまみたいな姿ですし」
「そりゃ、王城で働いてるから多少は…」
「んじゃ良いじゃないですか。てかそれにしては結構良い物着てますよねぇ?身につけてるそのピアスも。センスの良い恋人さんですね」
俺は問われた事を飲み込めず、ナイフとフォークを掴んだままキョトンとカインを見つめてしまう。
この服はいつも家事をしてくれているからとヴァレリが仕立ててくれたもので、ピアスだって付き合って二年目でくれた誕生日プレゼントだ。どちらも恋人からのプレゼントであり、褒められて、なんだかむず痒くなる。
「……うん」
「うっわー……やっぱプレゼントか。この人に物与えちゃうの分かるわー…」
「なんだよ。別にお前から貰ってるわけじゃないし、いいだろ」
「はは。今すぐその服破ってピアス捨てさせたいっすね」
ぶすくれた顔をそのまま凍らせる。さっきまでの陽気な気のいい後輩は一体どちらへ行ってしまわれたのか。
けれど顔を少しだけ振って気を取り直す。
「冗談、だよな?」
「さあ?」
相変わらずニコニコとしている後輩に、何か得体の知れないものを感じて背筋が冷たくなってくる。
童貞狩りしてた時も恐怖の瞬間は少なくともあった。そんな時は逃げるに限った。
「……もうそろそろ終わりだし、かえ」
「先輩。この上に部屋取ってますって言ったら、どうします?」
「ど、どうもしない。恋人いるって言ってるだろ……!」
「へぇ。あんな感じの人?」
どんな感じなのか気になり、カインが指差す方角を見る。
見なければいいものを、つい身体が動いてしまった。
半個室だが囲いだけなので少し身体をずらせばフロアを見渡せた。チラホラと残る客達。その一角、窓際の景色の良いテーブルに見覚えのある姿があった。
「え……? ヴァレリ?」
「ああ、やっぱり?向かいにいる女性は?」
やっぱりとは、と問いたいが、上手く頭が回らないせいで口が回らない。
あそこにいるのはヴァレリだ。出張といって、何日も帰ってきてない。いつもの事だと安心して送り出した。楽しそうに女性と笑って食事している。いや、でも、今回の出張を共にした仕事仲間かもしれない。そもそもヴァレリは自分からゲイだと公言していたし、女性とどうこうなるはずがない。だから、絶対に浮気じゃない。違う。絶対に違う。
だって、そう信じていないと、自分の、今までの。
「あーあ…見ちゃいましたねぇ。浮気じゃないと良いですね?」
「……お前、本当はすげーやな奴だな」
今までの七年間は一体なんだったんだと思ってしまう。
「そうですよ。俺はね」
カインはニッコリと微笑む。貴族らしいその麗しい微笑みに目を逸らせない。
カインは陽気で明るくて、先輩からも上司からも信頼されているムードメーカーのような男だ。人間誰しも裏があるとはいえ、カインには裏も表も変わらない性格をしているのではと勝手に思い込んでいた。多少強引で我儘な所だって、まぁお貴族様だし。平民の扱いはこんなものだろう、なんて甘く見ていた。
この男の根本は、そんな生温いものじゃない。
「欲しいって思ったものは絶対に手に入れるって決めてるんですよ」
アドルフは自分が一体今、どんな顔をしているのか分からなかった。
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