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番外編
アドルフの悲劇・終
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それからアドルフは、付き合っているのか付き合っていないのか分からない日が続いていた。
付き合ってなかったらそれはそれで割り切れるし、付き合っていると言われたら飽きるまでだし、仕方ないと思うことにしようと思った。
アドルフは勇気を出して情交の後のベッドでゴロゴロしている時に聞いてみた。
「…お前、あの時相当酔っ払ってたからなぁ」
「え!?何やらかしたんですか俺!」
「ベラベラと今までの身の上を話した挙句、童貞を食い荒らしてたこととか全部ぶち撒けたんだぞ」
「…マジですか」
ヴァレリが言うには、上司に捨てられたことからシュリに出会ったこと、そしてその上司が原因で手慣れた男が怖くなって童貞を食べるようになったことまで、アドルフの恥部という恥部を洗いざらい全て話していたらしい。
いや、シュリに出会ったことは恥部ではないのだが。
そりゃアドルフが童貞を食ってることを知っているわけだ。そして誰を食っただの名前を明かしてベラベラ話してしまったらしい。最低だった。
「そんで俺が、『じゃあ俺と試してみるか?』って言ったら『絶対嫌ですねぇ』ってケラケラ笑いながら言いやがった」
「ひぇ…」
なんて命知らず。酔っていた自分がいかに馬鹿なのか。
嫌なら嫌で、もっと他に断り方があったはずなのに。
どうやらそれでヴァレリに火が付いたらしい。マスターも『アドルフ、もうやめとけ』と言っても酔っ払っているアドルフの酒は止まらず、オーナーであるヴァレリにマスターも逆らえる訳もなく、ヴァレリに勧められるまま酒を飲み続けて出来上がったのが、あの日のアドルフというわけだ。
「そんで、事が終わって酔いが覚めたあたりで『付き合ってみるか?』って言ったら『あはは、絶対嫌です』って言いやがった」
「ひいいいぃ…」
あの夜、事が終わった後に確かに何か話した覚えがある。すっかり酔いは覚めていたが、記憶はほとんどない。
そして、ヴァレリは思ったらしい。
「俺は欲しいと思ったモノは手に入らないと気が済まないんだよなぁ」
「……いやいやいや、ちょっと、待ってください。手に入ってますよ。もう、もう十分手に入ってますよね」
怖くなってヴァレリに、アドルフ自身はすでに手に入っていることを早口で強調した。
今日だって、しっかりと二度は中に出されている。
付き合ってなければ付き合ってないでいいのだ。こんな関係続けるものでもないし、そもそもヴァレリは商会のトップで跡取りを作る立場だ。アドルフも大手を振って童貞を食いにいける。
「へぇ。じゃあ俺のこと好きなのか?」
「……………そ、そうですね。好きです」
「アドルフ、棒読みすぎるぞ」
目を逸らしてそういえば、演技だと完璧にバレている。ぐ、と言葉に詰まった。
「まぁ分かってるよ。お前が俺みたいなのが信じれない理由もな」
「それは…」
過去のトラウマが蘇る。信じた挙句にあんな風に捨てられるのはもうごめんだ。だったら割り切った関係の方がいいに決まっている。
ヴァレリがそういう軽く関係を持つような男でないのは、なんとなくここ何日かで分かってはいる。
しかしどうしても過去が顔を出してくる。自分が捨てられるくらいなら、本気にならず、ここから逃げ出したい気持ちがアドルフを追いかけてくる。
きっとそれをヴァレリは分かっているのだ。情事に慣れきった、恋愛に慣れきった男はアドルフのトラウマを刺激するだけだと。
「けど俺は諦めが悪いんだよ」
「いや。諦めてもらいたいんですけど」
口が滑る。
「ほー…」
「ひっ!今の無しです!無し!」
なぜ諦めが悪い人間に諦めろと言ってしまうのか。つい本音が出てしまうのはヴァレリのせいだと思いたい。
「でもお前、俺とかなり相性がいいのは分かってんだろ」
「うぐ」
悔しい顔を見せれば、途端に男の顔が嬉しそうに緩む。相性というのは、言わずもがな体の相性だ。
初回は酔っ払っているせいだと思っていたのに、二度、三度と繰り返していく内に「…あれ?」と思うようになっていった。
明らかに中イキする回数が尋常でない。ヴァレリが上手いからか、と最初は思っていた。しかし、肌を重ねることになんの抵抗もなくなるくらいには絆されている。それに、だんだんと潮まで吹くようになってしまっていたのだ。
これを続けていては、きっと童貞では満足できなくなってしまう。
それは非常に困る。
「もう童貞でも、その辺の慣れた奴でも、満足できねぇよ」
「なっ…!」
全てヴァレリの手の内だった。
この男は全て計画していたかのようにアドルフを開発していたのか。
「もう付き合うしかねぇんだよ」
「う…い」
「い?」
「………はい…」
真顔で聞き返されて圧をかけられ、アドルフは観念した。これは脅しだ。
しかし、良い返事が聞けたと思ったのだろうヴァレリの顔が、はにかんだような、少し幼い笑顔になると反抗する気も失せてしまうのだった。
-------------
時系列的には、この後、嘆きのアドルフとなります。
付き合ってなかったらそれはそれで割り切れるし、付き合っていると言われたら飽きるまでだし、仕方ないと思うことにしようと思った。
アドルフは勇気を出して情交の後のベッドでゴロゴロしている時に聞いてみた。
「…お前、あの時相当酔っ払ってたからなぁ」
「え!?何やらかしたんですか俺!」
「ベラベラと今までの身の上を話した挙句、童貞を食い荒らしてたこととか全部ぶち撒けたんだぞ」
「…マジですか」
ヴァレリが言うには、上司に捨てられたことからシュリに出会ったこと、そしてその上司が原因で手慣れた男が怖くなって童貞を食べるようになったことまで、アドルフの恥部という恥部を洗いざらい全て話していたらしい。
いや、シュリに出会ったことは恥部ではないのだが。
そりゃアドルフが童貞を食ってることを知っているわけだ。そして誰を食っただの名前を明かしてベラベラ話してしまったらしい。最低だった。
「そんで俺が、『じゃあ俺と試してみるか?』って言ったら『絶対嫌ですねぇ』ってケラケラ笑いながら言いやがった」
「ひぇ…」
なんて命知らず。酔っていた自分がいかに馬鹿なのか。
嫌なら嫌で、もっと他に断り方があったはずなのに。
どうやらそれでヴァレリに火が付いたらしい。マスターも『アドルフ、もうやめとけ』と言っても酔っ払っているアドルフの酒は止まらず、オーナーであるヴァレリにマスターも逆らえる訳もなく、ヴァレリに勧められるまま酒を飲み続けて出来上がったのが、あの日のアドルフというわけだ。
「そんで、事が終わって酔いが覚めたあたりで『付き合ってみるか?』って言ったら『あはは、絶対嫌です』って言いやがった」
「ひいいいぃ…」
あの夜、事が終わった後に確かに何か話した覚えがある。すっかり酔いは覚めていたが、記憶はほとんどない。
そして、ヴァレリは思ったらしい。
「俺は欲しいと思ったモノは手に入らないと気が済まないんだよなぁ」
「……いやいやいや、ちょっと、待ってください。手に入ってますよ。もう、もう十分手に入ってますよね」
怖くなってヴァレリに、アドルフ自身はすでに手に入っていることを早口で強調した。
今日だって、しっかりと二度は中に出されている。
付き合ってなければ付き合ってないでいいのだ。こんな関係続けるものでもないし、そもそもヴァレリは商会のトップで跡取りを作る立場だ。アドルフも大手を振って童貞を食いにいける。
「へぇ。じゃあ俺のこと好きなのか?」
「……………そ、そうですね。好きです」
「アドルフ、棒読みすぎるぞ」
目を逸らしてそういえば、演技だと完璧にバレている。ぐ、と言葉に詰まった。
「まぁ分かってるよ。お前が俺みたいなのが信じれない理由もな」
「それは…」
過去のトラウマが蘇る。信じた挙句にあんな風に捨てられるのはもうごめんだ。だったら割り切った関係の方がいいに決まっている。
ヴァレリがそういう軽く関係を持つような男でないのは、なんとなくここ何日かで分かってはいる。
しかしどうしても過去が顔を出してくる。自分が捨てられるくらいなら、本気にならず、ここから逃げ出したい気持ちがアドルフを追いかけてくる。
きっとそれをヴァレリは分かっているのだ。情事に慣れきった、恋愛に慣れきった男はアドルフのトラウマを刺激するだけだと。
「けど俺は諦めが悪いんだよ」
「いや。諦めてもらいたいんですけど」
口が滑る。
「ほー…」
「ひっ!今の無しです!無し!」
なぜ諦めが悪い人間に諦めろと言ってしまうのか。つい本音が出てしまうのはヴァレリのせいだと思いたい。
「でもお前、俺とかなり相性がいいのは分かってんだろ」
「うぐ」
悔しい顔を見せれば、途端に男の顔が嬉しそうに緩む。相性というのは、言わずもがな体の相性だ。
初回は酔っ払っているせいだと思っていたのに、二度、三度と繰り返していく内に「…あれ?」と思うようになっていった。
明らかに中イキする回数が尋常でない。ヴァレリが上手いからか、と最初は思っていた。しかし、肌を重ねることになんの抵抗もなくなるくらいには絆されている。それに、だんだんと潮まで吹くようになってしまっていたのだ。
これを続けていては、きっと童貞では満足できなくなってしまう。
それは非常に困る。
「もう童貞でも、その辺の慣れた奴でも、満足できねぇよ」
「なっ…!」
全てヴァレリの手の内だった。
この男は全て計画していたかのようにアドルフを開発していたのか。
「もう付き合うしかねぇんだよ」
「う…い」
「い?」
「………はい…」
真顔で聞き返されて圧をかけられ、アドルフは観念した。これは脅しだ。
しかし、良い返事が聞けたと思ったのだろうヴァレリの顔が、はにかんだような、少し幼い笑顔になると反抗する気も失せてしまうのだった。
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時系列的には、この後、嘆きのアドルフとなります。
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