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16、ひとりよがりの夢見心地
しおりを挟む頭を優しく撫ぜる感触がする。
シュリは徐々に意識を覚醒へと近づけ、ゆっくりと瞼を開いた。
開いた先に見えたのは、神々しいまでに輝く、シュリの理想の恋人の顔で頬が緩むのを感じた。
「顔が……イイ……」
「シュリ?起きた? 何か言った?」
小さくボソボソと焼けたような喉で呟いたおかげで目の前の男、メアの耳には届かなかった。
「目を開けたら幸せすぎて天国かと思いました……」
「じゃあシュリは可愛いから天使だね」
「ゴッド……」
ニコ、と神々しいまでに光のオーラを纏って微笑まれ、シュリは手を合わせた。
ベッドの中で涙が流れるほど拝んだ。
「身体はどう? 大丈夫?」
「大丈夫です、こう見えて意外と丈夫なので」
「なら良かった。無理させちゃったから心配だったんだ」
シュリはまたしても拝みたい気分だったが、メアが身体を起こしたので自分も起こすことにした。
「ごめんね。シュリは今日、仕事をお休みにして貰えるように連絡はしといたから。だけど私の方はどうしても休めない仕事があって……帰らないといけないんだ」
「えっ! 今何時ですか?!」
「そろそろお昼かな?」
シュリはサッと顔を青ざめた。
シュリの仕事は代理の利く仕事なので休みで全く構わないが、公爵家次期当主となれば話は違う。
「すすすすみません! か、帰りましょう!」
「シュリはゆっくりしてもいいんだけど…そうだね、帰ってお家で休んだ方が私も安心できるから、送るよ」
「いえ! 僕は自分で馬車でも何でも帰れるから大丈夫です!」
アワアワと急いでシュリは服を着始める。シュリが慌てすぎて着替えに手間取っているとメアは苦笑して助け舟を出した。
そして服から顔を出したら端正な顔立ちがシュリの目の前にあってドキリとする。
「身体が心配だし、送らせて。ね?」
「ひゃい……」
変な声が出てしまうほど、ときめいてしまうのだった。
□■□
「シュリ、ゆっくり休んでね。慌ただしくてごめんね」
「い、いえ…」
帰り道、メアはずっとシュリの心配をしていた。
馬車がシュリの家に近づいてくる。メアは眉を下げてシュリの身体を労り、謝る。
ガタン、と到着したのか馬車の動きが止まった。
「着いた……?っん……んん」
メアがゆっくりとシュリの唇を味わうようにキスをする。
あまりの心地良さにシュリは全身の力が抜けそうなほど蕩けそうだった。
ちゅ、と音がして名残惜しそうに唇が離れていった。
「シュリ。本当に可愛かったよ、また連絡するね」
「ひゃい……」
軽くトリップしながらメアに支えられて馬車を降りる。
地に足がついていないような感覚になりながら馬車が見えなくなるまで見送った。
ポーっとしながら家に行くと、父、母、兄は勢揃いして待ち構えていた。
「しゅーりー! あんたまたやらかしたでしょう!!」
母の怒りは頂点のようだった。父は若干怯えている。
「うん……ごめんなさい……」
「ごめんで済むわけ……シュリ?」
「シュリちゃん? どうしたの?ポヤッとしてるけど…あ、朝帰りってまさか!」
シュリがポヤポヤとトリップしている姿を見てニコラスは何かを察したらしい。
シュリのまだ少しだけ蒸気する頬とトロンとした眼がまるで蕩けた表情になっていた。
「僕、少し休むね……」
「あ、ああ……そうした方が良さそうだ……」
「シュリ、あんたまだ婚約……!」
「母上どうどう。シュリちゃん、後で話そう」
「うん……」
家族はシュリが部屋に入っていくまで呆然と見ていた。
部屋に入ってシュリが1番にしたことは、ベッドにダイブすることだった。
「……夢みたい、凄かった……」
シュリは昨夜のセックスを反芻させていた。
シュリは何度イったのか、数えられなかった。
中で何度もイきすぎて、イくのが止まらなくなった時は本当に死ぬかと思った。
それもこれも、メアの手練によるものだ。
男を抱くのが初めてとは思えなかった。
男を抱き慣れてる人と付き合った時だってシュリはあそこまで狂ったように乱れたことは無かった。
簡単に言えば最高の一夜だった。
手練もさることながら、リップサービスも良かった。
好きだの可愛いだの愛してるだの、メアはシュリの頭を勘違いさせてしまいそうになるほど繰り返し何度も何度も囁いた。
幸せすぎて、チンコを突っ込まれたまま昇天したいと思ったほどだ。
「メア……」
シュリはソファでも、ベッドの中でも、最後別れる時も何度もしてくれたキスを思い返して唇に手を当てる。
キスのし過ぎで少し腫れて、荒れているが、そんなことはどうでもよかった。
男とキスしただけで気持ち悪いだろうに、何度もしてくれる神様のようなメアに感動して身体が震える。
メアの顔も瞳も息遣いも声も舌も手も、メアの雄々しくそそり立つ大きすぎるモノも。
全部が愛おしくて、胸が張り裂けそうだった。
「シュリちゃーん……」
シュリがベッドでトリップしていると、兄ニコラスが、そろりと部屋に入ってきた。
「兄上……」
「うわ、どんだけ凄かったの。トロけすぎだよ」
「……最高の夜でした」
「うわー! シュリちゃん今まで付き合った男にそんなこと言ったことないじゃん!」
ニコラスはシュリの性癖も恋愛遍歴も知っているため、シュリの言動に心から驚いているようだった。
「まー婚約のままなのにちょっとアレだけど、シュリちゃんも男だし、あんまり問題は無いか」
「……婚約?」
「シュリちゃん?」
「婚約は今日で終わりですよ、兄上」
シュリの言葉にニコラスは目を見開いた。
「え?どういうこと……?」
「ノーマルのメアが僕を抱いてくれたんですよ……もう最高すぎて思い残すことはありません……神様みたいでした……」
婚約が終わると言っているのに全く悲嘆している様子もなく、トロンとしたまま手を合わせて拝んでいるシュリの言動が一致しない。ニコラスは頭を抱えて混乱した。
「僕はこの思い出を一生抱えて生きていきます…好きな人に手を握られて洗いたくないという気持ちがやっと分かりました……こんな気持ちなんですね。一生一人で今日のことを思い出して僕は生きていきます……」
「……ええ?」
それはいつも調子のいいニコラスが、珍しく困惑した表情になるには充分な一言だった。
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