【完結】婚約破棄された公爵閣下を幸せにします

七咲陸

文字の大きさ
上 下
13 / 43

13、心の困惑

しおりを挟む

「大変申し訳ありませんでした!!!」


  シュリはホテルの中にある応接室のような場所で、これ以上ないほど頭を下げ続けていた。


「いやいや、気にしてないから頭を上げてくれ」

「そうだよシュリ、カッコよかったよ?」


  責任者であるメアの友人ヴァレリは苦笑して、シュリの婚約者であるメアはニコニコとしている。


「いやしかし、あれが噂の…すげぇな。メアが言った『気にいる』って意味が分かったわ」

「そうだろう?私の婚約者は可愛いのにカッコいいんだ」

「め、メア…もうやめて下さい。僕が悪いのは確かなんですから」


  メアはシュリをどうあっても褒め続けるので、反省しているシュリは居た堪れない気持ちになってくる。
  それでもメアはシュリの肩を抱いてニコニコとしている。


「どうして?悪いのは明らかに伯爵の方だったのは見ていた人たちみんな分かっているし、シュリは何も悪いことしてないよ?」

「…よ、よりにもよってセレット家より上の当主に喧嘩を売ったことが母上と父上にバレたら勘当されます…」

「私の家に嫁ぐんだから問題ないよ」

「いやしっかし、すげぇ勢いだったな。あれがシュリの素なのか?」


  ヴァレリに言われ、シュリは、うぐ、と喉を鳴らして固まる。

  シュリ的にはいつもの穏やかで大人しい方が素のつもりなのだが、ヴァレリにとっては違うようだった。
  おそらく隣でニコニコとしている婚約者もそう思っていそうだった。


「あの…できれば今日あったことは他言無用でお願いします。父と母と兄と…友人のセレサにバレたら…本当に僕の頭に雷どころか竜巻が降ってきます。いえサタンが降ってきます…」

「他言無用って言ってもな…もう他の参加者は帰ってる人たちもいるからな」

「ああああああ…」


  シュリの人生は短かったな、と絶望する。

「ホテル側としてはあの伯爵と一族は出禁にするし、むしろきっかけがあって助かったくらいなんだ。本当に気にしなくていい」

「ああ、やっぱり元々問題起こしてたの?」

「他のホテルでもスタッフにセクハラやら暴力やら結構な。今回の件でもう一族まで出禁にすることが決まったからシュリはむしろ大金星だ」

「僕の頭には隕石が降ってきそうです」


  どれだけヴァレリとメアに慰められようとも、シュリは自宅に帰った後の出来事を思えば浮上することができなかった。
  シュリは本気で帰りたくない。


「じゃあ今日は帰らないでホテルに泊まる?」


  するとメアは突然笑顔を絶やさずに言い出した。シュリは急なことに頭が上手く回らず戸惑った。


「え?え?」

「お、いいぞ。メアには嫌な思いさせたし、シュリには助けられたからスイートでもどこでも好きなところに泊まってくれ」


  ヴァレリはメアの提案に乗っかるように場所の提供をしてくる。

  何の心の準備もないままホテルに泊まるとは、シュリの心中は穏やかでなかったが、さらに感情の津波が起こり始めていた。


「え?でも、え?」

「じゃあ遠慮なく泊まらせてもらおうかな。ヴァレリ、請求は公爵家にしておいて」

「するかよ。今日は良いって」


  シュリが追いつかない感情に流されかかっている間に二人で何か決まってしまったようだった。
  ヴァレリがスタッフを呼ぶとすぐに現れ、メアの手に引かれるまま、スタッフの後を追うように歩いていくのだった。




□■□





  シュリは未だ感情の渦に取り残されていた。

  案内された場所はスイートルームのようで、とにかく広い。ホテルなのに広い。シュリはばかデカい豪華なソファに座ってボケっとしていた。

  ちなみにメアは居ない。なぜかシャワーを浴びに行っている。


「え…?今日、そういう感じあった?」


  別にシュリは初めてではない。五人くらいと付き合ったことがあるし、そういうことも致している。
  貴族は処女性を重んじるというが、男のシュリにとっては処女を重んじる必要はないと思っているし、好きな男がいればそういうことをしたいと思うくらいには性欲も持ち合わせている。

  しかしだ。これが婚約者となれば…メアとなれば話しは変わってくる。


  シュリはメアが好きだ。
  容姿も性格も体格も、全てがシュリの好みでこれ以上ないほどの男だと思っている。
  そんな男と婚約者になれただけで奇跡だと思っている。

  けれどもメアはシュリを本当に好きなのかよく分からない。
  シュリの罵詈雑言姿に惚れた…らしいが。容姿もその辺の男よりは可愛いと言う程度だ。
  それにシュリと結婚してもメアにはなんの特もない。

  そもそもメアはきっとノーマルだ。
  シュリは男の方が良いと思うが、それはシュリにそういう性癖があっただけで、メアはきっと無い。


「…困った」

「何が困るの?」

「うわぁ!」


  いつの間にかシャワーから出てきたメアの声が後ろからかけられて、ソファからピョンと飛び上がる。

  メアの方に慌てて身体を向けると、ガウンを着て髪をタオルドライしているメアの姿があった。
  濡れている髪も、少し蒸気した頬も、ガウンを着こなしている姿も、全部が扇状的でシュリは目線を泳がせた。


「あー…っと、ぼ、僕も入ってきます!」

「ふふ、行ってらっしゃい」


  恥ずかしくて居た堪れない。

  こんなの、今までの恋人とだってここまで恥ずかしいと思ったことはないのに。

  シュリの心はままならなかった。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

歳上公爵さまは、子供っぽい僕には興味がないようです

チョロケロ
BL
《公爵×男爵令息》 歳上の公爵様に求婚されたセルビット。最初はおじさんだから嫌だと思っていたのだが、公爵の優しさに段々心を開いてゆく。無事結婚をして、初夜を迎えることになった。だが、そこで公爵は驚くべき行動にでたのだった。   ほのぼのです。よろしくお願いします。 ※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

夫婦喧嘩したのでダンジョンで生活してみたら思いの外快適だった

ミクリ21 (新)
BL
夫婦喧嘩したアデルは脱走した。 そして、連れ戻されたくないからダンジョン暮らしすることに決めた。 旦那ラグナーと義両親はアデルを探すが当然みつからず、実はアデルが神子という神託があってラグナー達はざまぁされることになる。 アデルはダンジョンで、たまに会う黒いローブ姿の男と惹かれ合う。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

シャルルは死んだ

ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。

処理中です...