BLしたくない伯爵子息は今日も逃げる

七咲陸

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言わなきゃ伝わらないってほんと

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  メイナードは侯爵家の生まれであり、上の兄弟が跡継ぎになることが決まっていた。だから文官になるか騎士になるか、はたまた家のために何処かに嫁ぐかの三択があった。

  けれどその選択は両親が勝手に決めてしまい、メイナードは家と家を繋ぐ政略結婚の為の駒になるように幼い頃から育てられていた。

  そんな中、白羽の矢が立ったのが公爵家であるヴィオレットだった。年齢的にもちょうど良いとされ、周囲にどんどんと期待されていった。

  メイナード的にも、まぁ仕方ないか。くらいにしか考えてなかったという。貴族ってこんなものだろう、と。ヴィオレットの婚約者になるべく、毎日毎日勉強や礼儀作法、ダンスや芸術の稽古漬けだった。

「そんな中にのほほんと過ごすアホがいて、そのアホに突然自分の立場が取られたのかと思ったら死ぬほど頭にきただけで……別にヴィオレット様を好きだった訳では」

  アホ、とは俺のことである。酷い。まぁあの頃はアホだったと思うけども!

「……けど、ヴィオレットを眩しそうに見ていた」
「? あ、あー……あれは、ヴィオレット様くらい体格が良ければ騎士になる道もあったのかもと思ってまして」

  メイナードは華奢である。しかも近視で眼鏡をかけている。だから騎士には向かないと諦めたそうだ。
  俺も筋肉が全然つかないからその悔しさと憧れはよく分かる。

  というか、俺はこの話の流れはいつものパターンのような気がしてならず、不敬だと分かっていても尋ねずにはいられなかった。

「えー……まさかユリウス殿下。メイナードのこと好きなんですか?」
「はっ?!?!」

  わーユリウス殿下顔真っ赤。

「ノエル、馬鹿なこと言わないで下さい。殿下に失礼でしょうが」
「……嘘だろメイナード。人の事は散々言うくせに自分の事になると鈍感てラノベ主人公かよ…!」
「ラノ……? 訳分からないこと言ってる場合じゃないでしょう」

  本があったら角で叩かれてそうだが生憎とここに本はない。ラッキー。

  けどこのままではだめだ。こういう鈍感ラノベ系主人公はちゃんと言葉にしないとマジで伝わらない。モジモジと草葉の陰から見つめるだけでは他の奴と直ぐにフラグが立ってしまう。
  メイナードはよくよくとモテるらしい。美人だし優秀だし、家柄もしっかりとしてる。ヴィオレットにも『俺とノエルが結婚したら即紹介してくれと色んな方面から打診を受けている』と言われたことがある。

  だからモジモジしてる場合じゃねーぞ!ユリウス殿下!

「ほら!ユリウス殿下!」
「なっ……!何するんだ!」
「何するんだじゃねーよ、メイナードはマジで気づいてないぞ!ちゃんと言わなきゃこの手の奴には髪の毛一本すら伝わんねーんだって!」

  グイグイと席から立たせるために腕を引いた。

「馬鹿かノエル!何してる!」
「うっさいメイナード!ただの八つ当たりで俺が結婚できないかもしれないなんて許せねー! ユリウス殿下、良いから早くメイナードに告れよ!」
「はあ?! 気でも狂ったのか!」

  メイナードは信じられないとばかりに顔を真っ青にして叫んでいる。ユリウス殿下は一瞬抵抗する姿を見せたが、俺の叫びにぽかんとしていた。

「で、殿下!申し訳ありません!この馬鹿は私が責任をもってもう一度教育をし直しますので!」
「だー!良いのかよ!メイナードは言っとくけど今絶賛モテ期だぞ!侯爵家生まれで、公爵家に嫁ぐ予定の俺の教育係実績もあって、美人で、ヴィオのとこに毎日毎日紹介してくれって手紙が来てる!ヴィオもいくつか候補を絞り始めて」
「なんだって?」

  俺とメイナードがギャーギャー騒いでいると、突然低い声で殿下は尋ねてきた。ビクッと肩が震えるほど低い声。

「ヴィオレットと婚約しないどころかもう次の嫁ぎ先を決めてる?」
「……い、いや……まだ決めようとしてるだけで決まってはないけど……」
「メイナード、君はそれでいいのか」

  俺がビクビク答えると、殿下はメイナードに聞く。メイナードも初めて知ったようだが、しばらく言葉の意味を理解してからこくり、とうなずいた。

  メイナードとしては早く結婚したいとと俺をせっついていたくらいだし、良いに決まってる。

「なら……そこに私の名前も加えてくれ」

  言葉を静かに零すユリウス殿下は、いつの間にかメイナードが座る椅子の前に膝立ちになってメイナードの手を優しく掴んだ。
  そして何をするのかと思い見ていると、そのメイナードの手の指先にキスを落としたのだ。
  メイナードは何が起きているのか分かってない様子であんぐりと口を開けていた。

「メイナード。どうか……私の妃になって欲しい。必ず幸せにすると誓う」

  王子様って凄い。一瞬で周囲をキラキラと瞬かせ、二人だけの世界を創り出すことが出来るのだから。
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