BLしたくない伯爵子息は今日も逃げる

七咲陸

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メイナード

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  メイナードと殿下に会う約束をしてから丁度一週間が経った。

「じゃ。連れていきますから。ヴィオレット様はいい加減その手をお離しになって頂けませんかね」
「……なんで俺も行かせてくれない」
「今後ノエルの行く先々に全部くっ付いていくおつもりですか。この先ノエルが一人でやらなきゃいけないことも増えてくるのにずっと一緒は無理なんですから」

  ヴィオレットとメイナードがゴゴゴゴゴ、と向かい合っている。うーん。イケメンと美人が喧嘩しそうになってると迫力が凄い。

  ちなみにヴィオレットは俺を後ろから抱きしめていて行かせようとしてくれない。目の前に馬車があるのに乗せてくれないのだ。メイナードはピキピキと青筋を立て始めている。

「ノエルを一人で行かせる訳じゃありません。私が終始一緒に居ます。ヴィオレット様、殿下との約束に遅刻すればノエルの立場が益々悪くなります」
「ヴィオ。俺ちゃんとメイナードの言うこと聞いて殿下とお話してくる!頑張るから!」
「…………はぁ」

  渋々、といった様子でようやくヴィオレットは離してくれた。

「メイナード。よろしく頼む」
「はい。ノエル、行きましょう」
「おう!」
「……ノエル?」
「は、はい!」

  俺が意気込みすぎてメイナードは貴族らしく返事しろとばかりに呼んできた。静かに怒ってる。すみません……

  道中は静かな馬車だった。あんまりソワソワしていると、落ち着きなさい、と窘められてしまった。メイナードは馬車の外を見て何か思っているようだった。美人の黄昏、絵になるなぁ……って思っているとあっという間に着いたのだった。





  この間はどこかの部屋に通されたけれど、今日は天気が良いからか庭園に通された。すっごい量の花が咲き誇っている。公爵家も顔負けしそうなレベルの。メイナードはそれを見ながら少しだけ頬が緩んでいる。メイナード、花好きなんだよなぁ…興味なくとも多少は嗜みなさいと言われて代表的な花は教わった。花の名前間違えるとめちゃくちゃキレる。

「……メイナード。本当に来るとは」
「お久しぶりです、ユリウス殿下。お元気そうで何よりです」

  メイナードによると、メイナードとユリウス殿下とヴィオレット、その他にも何人か居るらしいけれど…この辺は幼い頃から良く一緒にお茶会をしたりと仲が良かったらしい。メイナードはお嫁さん候補として親に連れていかれていたという。
  ユリウス殿下は多少驚いているような、困っているような顔をしているが、メイナードはニコリと微笑み挨拶をした。

  てか俺!俺もいるんだけど!マジでこの王太子俺に興味ないな!

「急なお願いにも関わらずご都合をつけて下さり、感謝申し上げます」
「ああ、いや……うん。まぁ、座ってくれ」

  メイナードが小さく礼をすると、この間とは打って変わって歯切れ悪くユリウス殿下がガーデンテーブルの席を促した。近くにいた侍女さん達がスっと席を引いてくれる。俺も座って良いらしい。
  侍女さん達がお茶を淹れてくれて、準備が整った所で殿下が切り出した。

「所でメイナード、今日君が来た理由は…」
「はい。殿下もお気づきの通りかと思いますが、殿下のご友人であられるヴィオレット様の婚約者、ノエルについてで」
「それは!」

  メイナードが、す、と言いかけた所で殿下はテーブルをダンっと叩きながら席を立った。二人してビクリと肩を震わせる。恐る恐るメイナードをチラ見すると、メイナードもかなり驚いていた。

「私は認めない! ヴィオレットの婚約者はメイナード…君だったはずだ!」
「で、殿下……?」

  多分メイナードは半信半疑だったのかもしれない。俺がそんなに否定されているとは思ってなかったんだろう。びっくりしていつもの貴族然とした表情は崩れて唖然としている。
  だってメイナードはずっと、ユリウス殿下は優しい方だ、って疑ってなかった。俺に粗相があったんだろ、と。教育係として謝罪するつもりでここに来たのだ。

  けど、もう十年も前から正式に俺がヴィオレットの婚約者を名乗っていたのに、なんでユリウス殿下は今更こんなこと言ってくるんだ?

「ヴィオレットは多少性格に難があるが良い男だ。だからまぁ学生時代は遊ぶくらいあっても、自分に相応しい婚約者を選ぶと思っていたのに」
「あそっ……!」

  俺は遊び相手かい!

「黙って様子を見ていれば、いつまでも婚約を破棄しようとしない。ヴィオレットは『俺がノエルに惚れたんだ』と宣った。信じられない!私は、だから……っ」
「ゆ、ユリウス殿下、落ち着いてください」
「落ち着いていられるものか!君もどうして納得してるんだ!君はヴィオレットのことを好きだったはずだ!それなのに!」
「えっ?」

  今のえっ、は俺じゃない。メイナードだ。メイナードはユリウス殿下の言葉に驚いていた。
  その驚きは、どうして知っているのか、という驚きではなく

「……いえ、別に好きではなかったのですが……」

  三人がシーンと静かになる瞬間の出来事であった。
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