BLしたくない伯爵子息は今日も逃げる

七咲陸

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お城に着きました

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  結局あの後、ヴィオレットは意地悪く俺を躱して王城へと到着した。これから殿下に会うというのに俺の機嫌は真っ逆さまである。

  だって本当にチューしなかった!もう1回と強請ってもニヤニヤと意地悪く笑いながら、『ノエルも少しは我慢を覚えるんだな』と言ってきた。ムキー!

「ようこそいらっしゃいました。殿下の所へご案内致します」

  侍従に先導され、なるべくキョロキョロしないようにヴィオの後を着いていく。それでも真新しい豪華な彫像が見えるとどうしても目を奪われる。主に、下半身に。少し離れた俺を見兼ねたヴィオは、腰に手を回して歩くスピードを同じにされた。
  だって美術の教科書に乗ってたような彫像なんだもん、立派なのついてんのかなって見たくなるじゃん!やっぱりさぁ!いや、彫像は大抵ズボン履いてるようなんですけどね。もっこりしてると気になるじゃん。
  こんなのメイナードにバレたらゲンコツされそう。あいつ容赦なく教科書の角で俺の頭叩くんだぞ。

「ノエル」
「な、なに…?!」

  やべえ、俺が余計なこと考えてるってバレたか……?

  グイッと腰を強く引き寄せられて、ヴィオに密着する。いきなりのヴィオのキラキラした顔面を食らって息を飲んだ。

「…っ!」
「あまり他の男を見るな。ノエルは俺だけ見てればいい」
「……っ!、っ……!」

  ギュン!と胸が締め付けられ、ハクハクと言葉にならない叫びと共に、ヴィオの言葉に顔が真っ赤になるのが分かる。赤い薔薇に負けんばかりの真っ赤な顔だ。ヴィオの瞳に映る俺が見えるから間違いない。

  そして侍従やらたまたま通行していた王城務めの方々が居るにも関わらず、ヴィオは俺の額で何かちゅ、と音を立てた。

「分かったか?」
「……え?」
「ノエル?」
「……は、は……ぃ……」

  通行人の方々!! 見ないでください!見ないでください!あー!あー!! 

  恥ずかしくて恥ずかしくて、俺はもう真っ赤になりながら、こくりと小さく頷いて返事をするしか出来ない。

  通行人達は口元を抑えて、あらあらと言った様子だ。侍従は気配を消している。さすが殿下に仕えてるだけある、のか?

  ってかさっき散々頼んだのにしてくれなかったと思ったら、おでこチューはいいのかよ! あーもー!

「ヴィオのばか。ばかばかばか……!」

  ボスボスと胸を叩きながらも器用に歩く。侍従に聞こえないように小さく囁いて罵声を浴びせた。ヴィオはフッと微笑む。あの余裕綽々の笑みだ。

「到着しました」

  ピタリと侍従が止まった扉の先に、どうやら殿下がいるようだ。この国の時期国王になる人…うわ。今やっと緊張してきた。
  一応礼儀作法はメイナードに叩き込まれてきた。だからきっと、大丈夫なはず。口の悪さもカバーすれば大丈夫。俺の不安そうにしている姿が分かったのか、ヴィオが俺の指先を優しく持ち上げてキスをする。

「なっ……!」

  なんで今、ここで。緊張と羞恥心で頭がぐちゃぐちゃになる。

「ちゃんと練習も勉強もこなしてきただろう。大丈夫だ」
「……うん」

  安心させるようにしてくれた指先へのキスは、とても暖かくて優しかった。この優しさと誠実さと、ほんの少しの意地悪さ。何年経っても変わらず俺の隣にいてくれる。

  侍従に向き直り、こくりと頷いて合図を送る。侍従がノックをして扉の向こうに聞こえるように声をかけた。

「ヴィオレット様とノエル様が到着致しました」
「入れ」

  中から聞こえた声で侍従は扉を開けた。中は広く、大きな丸テーブルの向こうにいるヴィオレットに少し似ているイケメンが座っていた。

「やっと来たか」
「時間通りだろう」

  気安いやり取りをする殿下らしき人とヴィオ。俺はまだ紹介もされてないし、紹介を頼まれてもないので挨拶もさせて貰えない。ニコニコと愛想良く笑うだけだ。あ、天使じゃなくなったので笑顔は解禁した。解禁した瞬間、怪文書が時たま送られてくるようになったけど。

「ノエル。この方がこの国の第一王子であるユリウス殿下だ」
「……ユリウスだ。よろしく」

  ようやっと口を開くことが出来る。ヴィオから少し離れて俺は最上級の礼をもって挨拶した。

「ノエルと言います。お初にお目にかかります」
「……へぇ」
「ユリウス殿下。お茶が冷めます」

  あるぇ。なんか、思ってた反応じゃない…へぇ?へぇってなに?どういう反応?
  ヴィオもなんか引っかかるのか、俺から少し遠ざけようと席に座るように促している。

「なんか、思ったより全然だね」
「……殿下。何がでしょうか」
「だから。君の噂の婚約者様だよ」

  ぴり、と静電気が走るような険悪な雰囲気が漂う。

「全然大したことないじゃないか。天使?美男子?噂は全然当てにならないよ」
「……殿下。それ以上の侮辱はいくら殿下と言えども」
「侮辱?侮辱じゃない。僕は当たり前のことを言ってるだけだ。ねぇ?ノエル殿?」

  冷たい。冷たい青の瞳で心臓を貫くような言葉に血の気が落ちる。俺はさっきまで、ヴィオに自信を貰ったはずなのに全部がどん底に落ちていく感覚に襲われた。

「君のどこが良かったの?ヴィオレット。こんな子にするくらいならメイナードの方がよっぽど良かったよ?」

  悪意の無い微笑みに、俺は固まることしか出来なかった。
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