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煽り

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  そんなこんなでお城に行く日になった。

「では、お預かりします」
「いつもの事ながらありがとうございます、ヴィオレット様。ほら!クリスも!」
「……ありがとうございます」

  母のセドに促されている父のクリスは誰がどう見ても不貞腐れている。こちらは伯爵家で家格もそこまで上ではない。公爵家であるヴィオレットに頭を下げることはなくとも、丁寧に接するのは当たり前のことなのに、俺が連れてかれるのがよっぽど気に食わないらしい。
  昔ならクリスに『もっと頑張れよ!ヴィオを止めてくれ!』とか言ってたと思うとなんだか懐かしく感じる。
  ちなみに今の父はウザイので早く出発したいとしか思わない。

「いってきまーす」
「行ってらっしゃい。粗相のないようにね」
「……やっぱり行く必要ないだっ!」

  もう面倒なので適当に手を振る。クリスが何か言おうと思ったところをセドが肘打ちで止めた。ナイスだ。父がうずくまってる間に俺はヴィオの背中をグイグイと押して馬車に乗り込んだ。
  ふぅ。クリスも早く子離れしてくれ。それかその執着をもう1人の息子であるエリクに向けてくれ。

セドに手を振って馬車は出発した。

「……クリス殿は年々……なんというか、可哀想になるな」

  ヴィオレットは先程のやり取りを思い出して苦笑している。

「なんで。未だに俺の事子供だと思ってるし、俺がヴィオと出かける度にあんな感じだぞ。もういい加減にして欲しい!」
「いくつになっても息子は子供なんだろう。それに」

  それに?と首を傾げた。

  ヴィオレットは不敵に微笑みながら、隣に座る俺の頬を撫ぜる。

「俺に取られるのが余程嫌なんだろう。将来ノエルは俺の嫁になるのだから」

  久しぶりに見た。その意地悪そうな笑み。ドアップで直視してしまい、俺は胸を抑えて蹲った。

「心臓が!もたない!」
「……何言ってるんだ」

  不意打ちはズルい。ズルすぎる。心臓がドキドキと耳鳴りのように鼓動を感じた。カッコよすぎるのが良くない。年々カッコ良さが増してる。ここがベッドだったら枕に顔を埋めて叫んでる。

「……ヴィオ」
「どうした?」

  ヴィオレットの方へ見上げる。やっぱりまだ不遜な笑みを浮かべていた。余裕あります感がズルい!もう直視出来なくてヴィオの胸に額を押し当ててグリグリとする。皺になるだろうなと思いつつも服も掴んでしまう。

「うぅう…早く結婚したいい……」

  小さく小さく呟いた。どうせガラガラと大きな音がする車輪のせいで聞こえないかもと思ってたから言ってみた。多分蚊の鳴く音より小さかったと思う。
  けど呟いた瞬間、ガっと後頭部を掴まれ、サッと顎を上に向けさせられた。え?と思った瞬間にはヴィオの顔が目の前で、ヌルッと口の中に舌が入り込んできた。 

「んっ?! ん、んん……ぅ、ん……」

  ヴィオの厚く、熱い舌が俺の口内を蹂躙するかのように、動き回る。時折唾液の混じる音がイヤらしく耳に響く。最後にちゅ、と音を立てて唇が離れていくが、何となく名残惜しくてついヴィオの唇を追いかけてしまった。ヴィオレットは苦笑し、「これ以上は人前に出せなくなる」と俺の唇に人差し指を当ててチューを遮った。

  ムスッとする。ヴィオはしたい時にちゅーしてくるのに、俺はダメなのかよ。
  というか人前に出せないって、俺そんなに変な顔してる?え、変な顔なんかな。

「殿下に会うんだろう?…煽情的だと目も当てられないからな」
「せんじょう…」

  煽情的の意味を理解し、ボンッと頭が沸騰した。

「お、俺のせいじゃないもん……っ、ヴィオのせいだ!」
「そうだな。俺がノエルをそんな可愛い顔にしてるんだ」
「か…っ!!」

  照れて真っ赤になるのが分かる。ヴィオはまた不敵に笑って肩を抱き寄せてくれた。ヴィオの心音を聴きながらもう1回ちゅーしないかな、と思ってしまう。

「あれ?というか、なんかヴィオ最近余裕ある……」
「所構わず煽ってくる誰かさんに一回キスしたら心に余裕が出来た」

  俺そんなに煽り酷いの?
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