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九年後④
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「……なぁ、やっぱり…迎えはもう、いいよ」
ジナルマーと別れ、ヴィオレットのエスコートで馬車に乗り込んで言う。
対面に座るヴィオレットは、窓に肘を乗せてて頬杖をついていた。ぴくりと反応したかと思えば馬車が揺れているにも関わらず俺の隣にすぐさま移動して座った。
「ほぅ? その話は終わったと思っていたんだが?」
「あ、ああああれは、ヴィオが……!」
近すぎる距離に慣れず、つい後ずさるが馬車の中は公爵家の馬車と言えどそこまで広くない。壁に背がすぐにぶつかり逃げ場を塞がれた。
「ちょ、ヴィオ!近い……!」
「迎えが要らない理由を話したら離れる」
「うぐ……!」
女生徒たちからは、それはそれはたいそう羨ましそうに見られ続けた。
羨ましがられる理由はこの男のせいだ。
ヴィオレットは9年経って更に男前に変化した。いや…進化したと言ってもいい。
背の高さは元々同年代よりも抜きん出ていたが、筋肉がついて体格も良くなった。極めつけはこの顔!どこからどう見てもイケメンで、正直目のやり場に困る。
そして公爵家。地位も金も思うがままのヴィオレットに、死角はない。
そんな優良物件が、伯爵家の俺に取られている事を気に食わないという女は数知れない。
俺の評判は初等部の時から最悪だったし、ヴィオレットの心変わりがあるかもしれないと女たちは必死だ。
「…有り得るんだよなぁ」
「何がだ。俺を見てため息をつくな」
俺はと言うと、天使のようだと評された姿はまるで美少女のように……とはいかなかった。
いや、ジナルマーやデーヴ、ライに言わせれば『綺麗な男の子だよね』との事だ。
つまりどこをどう見ても男であるのは明白なくらいに成長した様だった。
母であるセドに似たと思っていたが、父、クリスからは『俺もそう言えば昔は可愛かったと言われたな……』と言われる。
そう。俺はすっかりクリスに似てしまった。
美少女の時のノエルなら無理だけど、美形ならワンチャン……!と拳を握っている女子たちを見たことがある。ヴィオレットが簡単にフラフラと靡くような男ではないとは分かっていても、実際あんな可愛くて美人の子に迫られたら悩むくらいはするかもしれない。
だからいつまで経っても自信が持てなくなった。
「なぁ。俺もうどこをどう見ても男だし、可愛くないだろ? 」
「……何を言うかと思えば」
はぁ、と大きく深く、ふかーくため息をつかれる。
「それと迎えの因果関係はなんだ。意味がわからんし」
「し?」
「俺にとったらお前は今も昔も変わらず天使だがな」
あ、あまーーーい!はい!百億点!下手に可愛いと言われるより百兆点舞い上がります!
なに、なんなの俺の事ときめかせてどうする気?殺す気?
ライとかテーヴとかメイナードとかぶっちゃけ他のやつの結婚とかそんなの気にしてる場合じゃない!
俺が!1番!結婚したいの!
「うぐ、ぐぐ……」
「なんだその声は」
もう!本当にこいつは何時いかなる時もズルい!ズルいの権化!
「顔が百面相してるぞ」
「誰のせいだと……!」
俺がキッと睨みつけると隣にいる男はフッと笑った。
「9年経ってもお前は全然変わらないな」
「え、なにそれ。成長してないってこと?」
「で?どうして迎えが要らないんだ」
俺の意見はまるっと無視してもう1回聞かれる。
恥ずかしすぎて「うっ」と一瞬引いてしまうが、言わない限り追求され続けるのは分かってるので観念してボソボソと話す。
「……だって」
ヴィオレットの顔が見れなくて逸らしながらモジモジとしてしまう。
「女子がみんな、ヴィオを見てる……」
言ってて何言ってんだ俺、と自らの拳で右ストレートをかましてやりたくなるセリフだ。乙女じゃあるまいし!
「俺はお前しか興味無い」
「うぐ。でもほら、えっと…あの中に高等部一美人の子も居たし!」
「お前のことか」
「えっ? いや、俺はもうそういうのは初等部で終わってて」
ワタワタと否定するとヴィオレットはまた盛大にため息をついた。
「これなら自覚があった初等部の頃の方が幾分かまともだな」
「な、やっぱり成長してないっていいたいんじゃねーか!」
「むしろ退化してる」
「んな!」
ひどい!
婚約者にそこまで言うか!
「ジナルマー達ももう天使じゃないって!」
「天使じゃないな、確かに」
やっぱりヴィオレットもそう思ってたようだ。俺は「う……」と落ち込むように俯いた。
姿形が成長とともに変わっていった。鏡を見て毎日ため息をつく。
あの天使のような姿をしたノエルはもういない。
昨日も母、セドリックには『確かに天使では無くなったねぇ……』と言われトボトボと自室に篭った。
少しだけフニフニとしていた頬も、手も足も、今や華奢になってしまった。いや、頬は今もフニッとしているが。
「勘違いしてるみたいだが」
「ん? なに。もうみんなして慰めようとしてくるのやめろ。俺はちゃんと自覚あるし、痛い子にはならないから」
未だにそんな自分を天使だと言い張るつもりはないぞ!痛い、痛すぎる。
中等部辺りからちゃんと自覚してたのに、ジナルマーには『天使じゃないけど……兄様も心配が尽きないだろうなー……』なんて言われた。だから!自覚してるっつーの!
「今お前がなんて呼ばれているか知ってるか」
「過去の栄光に縋り付く痛いヤツ?」
「アホか」
いくらフニっとしてるからって俺の頬を両側に引っ張るの痛いからやめて!
ジナルマーと別れ、ヴィオレットのエスコートで馬車に乗り込んで言う。
対面に座るヴィオレットは、窓に肘を乗せてて頬杖をついていた。ぴくりと反応したかと思えば馬車が揺れているにも関わらず俺の隣にすぐさま移動して座った。
「ほぅ? その話は終わったと思っていたんだが?」
「あ、ああああれは、ヴィオが……!」
近すぎる距離に慣れず、つい後ずさるが馬車の中は公爵家の馬車と言えどそこまで広くない。壁に背がすぐにぶつかり逃げ場を塞がれた。
「ちょ、ヴィオ!近い……!」
「迎えが要らない理由を話したら離れる」
「うぐ……!」
女生徒たちからは、それはそれはたいそう羨ましそうに見られ続けた。
羨ましがられる理由はこの男のせいだ。
ヴィオレットは9年経って更に男前に変化した。いや…進化したと言ってもいい。
背の高さは元々同年代よりも抜きん出ていたが、筋肉がついて体格も良くなった。極めつけはこの顔!どこからどう見てもイケメンで、正直目のやり場に困る。
そして公爵家。地位も金も思うがままのヴィオレットに、死角はない。
そんな優良物件が、伯爵家の俺に取られている事を気に食わないという女は数知れない。
俺の評判は初等部の時から最悪だったし、ヴィオレットの心変わりがあるかもしれないと女たちは必死だ。
「…有り得るんだよなぁ」
「何がだ。俺を見てため息をつくな」
俺はと言うと、天使のようだと評された姿はまるで美少女のように……とはいかなかった。
いや、ジナルマーやデーヴ、ライに言わせれば『綺麗な男の子だよね』との事だ。
つまりどこをどう見ても男であるのは明白なくらいに成長した様だった。
母であるセドに似たと思っていたが、父、クリスからは『俺もそう言えば昔は可愛かったと言われたな……』と言われる。
そう。俺はすっかりクリスに似てしまった。
美少女の時のノエルなら無理だけど、美形ならワンチャン……!と拳を握っている女子たちを見たことがある。ヴィオレットが簡単にフラフラと靡くような男ではないとは分かっていても、実際あんな可愛くて美人の子に迫られたら悩むくらいはするかもしれない。
だからいつまで経っても自信が持てなくなった。
「なぁ。俺もうどこをどう見ても男だし、可愛くないだろ? 」
「……何を言うかと思えば」
はぁ、と大きく深く、ふかーくため息をつかれる。
「それと迎えの因果関係はなんだ。意味がわからんし」
「し?」
「俺にとったらお前は今も昔も変わらず天使だがな」
あ、あまーーーい!はい!百億点!下手に可愛いと言われるより百兆点舞い上がります!
なに、なんなの俺の事ときめかせてどうする気?殺す気?
ライとかテーヴとかメイナードとかぶっちゃけ他のやつの結婚とかそんなの気にしてる場合じゃない!
俺が!1番!結婚したいの!
「うぐ、ぐぐ……」
「なんだその声は」
もう!本当にこいつは何時いかなる時もズルい!ズルいの権化!
「顔が百面相してるぞ」
「誰のせいだと……!」
俺がキッと睨みつけると隣にいる男はフッと笑った。
「9年経ってもお前は全然変わらないな」
「え、なにそれ。成長してないってこと?」
「で?どうして迎えが要らないんだ」
俺の意見はまるっと無視してもう1回聞かれる。
恥ずかしすぎて「うっ」と一瞬引いてしまうが、言わない限り追求され続けるのは分かってるので観念してボソボソと話す。
「……だって」
ヴィオレットの顔が見れなくて逸らしながらモジモジとしてしまう。
「女子がみんな、ヴィオを見てる……」
言ってて何言ってんだ俺、と自らの拳で右ストレートをかましてやりたくなるセリフだ。乙女じゃあるまいし!
「俺はお前しか興味無い」
「うぐ。でもほら、えっと…あの中に高等部一美人の子も居たし!」
「お前のことか」
「えっ? いや、俺はもうそういうのは初等部で終わってて」
ワタワタと否定するとヴィオレットはまた盛大にため息をついた。
「これなら自覚があった初等部の頃の方が幾分かまともだな」
「な、やっぱり成長してないっていいたいんじゃねーか!」
「むしろ退化してる」
「んな!」
ひどい!
婚約者にそこまで言うか!
「ジナルマー達ももう天使じゃないって!」
「天使じゃないな、確かに」
やっぱりヴィオレットもそう思ってたようだ。俺は「う……」と落ち込むように俯いた。
姿形が成長とともに変わっていった。鏡を見て毎日ため息をつく。
あの天使のような姿をしたノエルはもういない。
昨日も母、セドリックには『確かに天使では無くなったねぇ……』と言われトボトボと自室に篭った。
少しだけフニフニとしていた頬も、手も足も、今や華奢になってしまった。いや、頬は今もフニッとしているが。
「勘違いしてるみたいだが」
「ん? なに。もうみんなして慰めようとしてくるのやめろ。俺はちゃんと自覚あるし、痛い子にはならないから」
未だにそんな自分を天使だと言い張るつもりはないぞ!痛い、痛すぎる。
中等部辺りからちゃんと自覚してたのに、ジナルマーには『天使じゃないけど……兄様も心配が尽きないだろうなー……』なんて言われた。だから!自覚してるっつーの!
「今お前がなんて呼ばれているか知ってるか」
「過去の栄光に縋り付く痛いヤツ?」
「アホか」
いくらフニっとしてるからって俺の頬を両側に引っ張るの痛いからやめて!
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