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九年後③
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ジナルマーの手を引っ張って、図書室にいるメイナードとは別れた。
『素直になったらなったで、君は案外面倒だね』
と言われたが、無視することにした。
「今日は家に帰るのか?」
気を取り直してジナルマーに聞くと、ジナルマーは首を横に振った。
「ううん。今日はエリクに会いに行くよ」
エリクは俺の弟で、七歳離れている。ジナルマーは『可愛い……!』と毎日言っている。もじもじとジナルマーを気にしている様子は可愛いと言えなくもない。
俺的にはジナルマーは受けだったのだが、間違ったか?と思った。しかし、ジナルマーは
『ここから大人になるまで待つ楽しみがあるとか…これはもう僕の好みに育てるしかない!』
と張り切っていた。
どうやらジナルマーはエリクを完璧なスパダリに育てる方向のようだ。俺の見解はどうやら間違っていなかった。これぞ光源氏計画と言うやつかもしれない。どうでもいいが他人ん家の弟を勝手に改造しないで欲しい。
「あ、ほらノエル。兄様が待ってるよ」
ニコニコと王子様のようなスマイルで馬車を差すジナルマー。指さされた方角を見れば、9年前の姿から可愛くない方向でだいぶ成長した男が立っていた。
腕を組んで凭れ掛かっているその姿は、まるで絵になるほど決まっていてやっぱりちょっとムカつく。
「あはは。ノエル、大丈夫だって」
「は?」
「兄様はノエルしか眼中に無いよ」
「なっ…」
ジナルマーにはお見通しだ。メイナードといいジナルマーといい、俺はそんなに分かりやすいのか?
そう、だって俺はもう自覚したからだ。
今だって、ムカつく理由はヴィオレット本人じゃない。
そうじゃなくて、絵になるほどカッコイイ婚約者に見蕩れている周囲の人間たちにだ。
ムカムカするのはあの9年前から変わらない。俺はこんなに独占欲が強かったのかと思うほど、ヴィオレットに群がる奴らが気に食わない。
ヴィオレットはそんな俺が嬉しくて仕方ないらしく、『だから早めに迎えに行ってる』とまで言ってきた。
このヴィオレットの使えるものは何でも使う精神は昔から変わらない。
俺は俺で素直になれないせいで『迎えはもういい!』とついプイ、と顔を逸らして言った。
けれどもヴィオレットは『……はぁああぁああ…』とため息をついて俯いてしまった。怒らせたかも、と思い心配になって覗き込むと『…っ、ノエル!お前分かっててやってるだろう!』と言われた。
「わー……、頭から湯気出てるよ?大丈夫?」
俺が少し回想していると、ジナルマーに覗き込まれる。
「だ、だだ大丈夫!」
ハッと気づいて回想から帰ってきたら、もうだいぶ馬車の近くにきていた。さすがにヴィオレットも俺の姿に気づき、組んでいた腕を崩して俺の方に歩いてきた。
歩いてくる姿すらカッコイイと思ってしまう。
ずるい、そんなの。
「おかえり、ノエル」
澄んだ声が耳に心地よく響く。
「た、ただいま……」
ふい、と何年経っても恥ずかしくて仕方なくて目を逸らしてしまう。
ヴィオレットがカッコイイのが悪い!
あの時もこんな風に、近づいて、『ノエル、お前の上目遣いは破壊力が突き抜けてることを自覚しろ』と言われて、ぎゅ、と苦しくなるほど抱きしめられた。
抱きしめられて、そのまま首筋にツキンとした痛みを感じて…
「あーあ…ノエル何思い出してるのー?」
「んなっ! う、ううううるさい!うるさいうるさい!あっちに俺の家の迎えの馬車があるんだから早く行けよ!」
顔から全身にかけて火を吹きそうなほど暑いのを感じながらジナルマーに向かってキャンキャン吠えた。
いつか絶対やり返してやる……!
『素直になったらなったで、君は案外面倒だね』
と言われたが、無視することにした。
「今日は家に帰るのか?」
気を取り直してジナルマーに聞くと、ジナルマーは首を横に振った。
「ううん。今日はエリクに会いに行くよ」
エリクは俺の弟で、七歳離れている。ジナルマーは『可愛い……!』と毎日言っている。もじもじとジナルマーを気にしている様子は可愛いと言えなくもない。
俺的にはジナルマーは受けだったのだが、間違ったか?と思った。しかし、ジナルマーは
『ここから大人になるまで待つ楽しみがあるとか…これはもう僕の好みに育てるしかない!』
と張り切っていた。
どうやらジナルマーはエリクを完璧なスパダリに育てる方向のようだ。俺の見解はどうやら間違っていなかった。これぞ光源氏計画と言うやつかもしれない。どうでもいいが他人ん家の弟を勝手に改造しないで欲しい。
「あ、ほらノエル。兄様が待ってるよ」
ニコニコと王子様のようなスマイルで馬車を差すジナルマー。指さされた方角を見れば、9年前の姿から可愛くない方向でだいぶ成長した男が立っていた。
腕を組んで凭れ掛かっているその姿は、まるで絵になるほど決まっていてやっぱりちょっとムカつく。
「あはは。ノエル、大丈夫だって」
「は?」
「兄様はノエルしか眼中に無いよ」
「なっ…」
ジナルマーにはお見通しだ。メイナードといいジナルマーといい、俺はそんなに分かりやすいのか?
そう、だって俺はもう自覚したからだ。
今だって、ムカつく理由はヴィオレット本人じゃない。
そうじゃなくて、絵になるほどカッコイイ婚約者に見蕩れている周囲の人間たちにだ。
ムカムカするのはあの9年前から変わらない。俺はこんなに独占欲が強かったのかと思うほど、ヴィオレットに群がる奴らが気に食わない。
ヴィオレットはそんな俺が嬉しくて仕方ないらしく、『だから早めに迎えに行ってる』とまで言ってきた。
このヴィオレットの使えるものは何でも使う精神は昔から変わらない。
俺は俺で素直になれないせいで『迎えはもういい!』とついプイ、と顔を逸らして言った。
けれどもヴィオレットは『……はぁああぁああ…』とため息をついて俯いてしまった。怒らせたかも、と思い心配になって覗き込むと『…っ、ノエル!お前分かっててやってるだろう!』と言われた。
「わー……、頭から湯気出てるよ?大丈夫?」
俺が少し回想していると、ジナルマーに覗き込まれる。
「だ、だだ大丈夫!」
ハッと気づいて回想から帰ってきたら、もうだいぶ馬車の近くにきていた。さすがにヴィオレットも俺の姿に気づき、組んでいた腕を崩して俺の方に歩いてきた。
歩いてくる姿すらカッコイイと思ってしまう。
ずるい、そんなの。
「おかえり、ノエル」
澄んだ声が耳に心地よく響く。
「た、ただいま……」
ふい、と何年経っても恥ずかしくて仕方なくて目を逸らしてしまう。
ヴィオレットがカッコイイのが悪い!
あの時もこんな風に、近づいて、『ノエル、お前の上目遣いは破壊力が突き抜けてることを自覚しろ』と言われて、ぎゅ、と苦しくなるほど抱きしめられた。
抱きしめられて、そのまま首筋にツキンとした痛みを感じて…
「あーあ…ノエル何思い出してるのー?」
「んなっ! う、ううううるさい!うるさいうるさい!あっちに俺の家の迎えの馬車があるんだから早く行けよ!」
顔から全身にかけて火を吹きそうなほど暑いのを感じながらジナルマーに向かってキャンキャン吠えた。
いつか絶対やり返してやる……!
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