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九年後
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「あーあー、アホらし」
「うぐ」
俺は図書館と言うべき規模の図書室で小さな声で話していた。
話していても怒られないのは、目の前の人物のおかげである。
毎度毎度図書室で喋ってても怒られなかったのは、メイナードが人払いしていたせいだったらしい。
そして9年経った今でもこんな感じだ。
「私、めでたしめでたしを聞きに来たんだけど?」
「めでたしだよ! なんか悪いかよ!」
「うるさいなぁ。16にもなってママゴトみたいな触れ合いしかしてないやつがギャーギャー騒がないでよ」
言葉が悪い目の前の男は、耳に指を入れながら俺をジロリと見る。
う、と唸るように押黙ると、目の前の男、メイナードは大きくため息をついた。
「し、仕方ないだろ…!ヴィオが『条件はそのままに』って言うんだから!」
「だからって16になってからも性的な触れ合いは無しって」
「うううう、うるさいうるさい!」
あれから、9年が経った。
高等部に入学して2年目。ヴィオレットは既に成人し、公爵家の後継として領地の運営に奔走していた。
俺はと言うと、相変わらずだ。
グダグダとひたすらに学生生活を送っていた。一応、公爵家夫人としての教育も並行しながらだ。
なんとその教育者としてメイナードが選ばれた訳だ。
メイナードは実は俺よりも2歳程年上で、既に公爵家夫人としての教育はあの9年前にほとんど終わりかけていたと言う。
何もせずぬくぬくと育ち、愚痴愚痴と婚約者の文句を言い続ける俺は、メイナードにとってさぞかし頭に来ただろうに。
メイナードは、『教育係をすれば、良い所に嫁げる確約を貰ったようなものだから』と引き受けたらしい。
そもそもヴィオレットに恋愛感情はなく、親が取り決めた婚約に従っていただけと言う。
「早く結婚してくれない?私の嫁ぎ先も決まらないんだから」
「う、うううう……」
メイナードには、最近会う度に結婚をせっつかれている。
深い深いため息をされながらも、俺はまたブツブツと文句を言うしかない訳だ。
「だって…仕方ないだろ。16までは手を出さないって言われていたし……結婚するってそういうことだろ。俺だってさすがに分かる……!」
こちとら転生を自覚した赤ん坊の頃から見たくもない両親のあれやこれやを見たり聞いたりしていたんだ!
そもそも転生した時点で精神だけは16歳はすぎていた訳で! 結婚とはどういうものかは同年代の誰よりも分かっているつもりだ。
経験は1ミリもないが!
「……はーぁ、めんどくさ。勘弁してよ。私の婚期が遅れるだけなんだけど」
メイナードが机に頬杖をついて、心底ウザそうに顔をゆがめてこちらを見てくる。
結婚してない教育係が先に結婚するのは良くないらしく、メイナードはひたすら待っている。
それにしても本当にコイツの本性酷いな。いい性格してやがる。
「君って本当、顔だけだよね。私だったらその顔利用して上手く立ち回るけどな」
「そういう所がヴィオレットの婚約者になれなかった所だな」
「あ゛?」
余計な一言を言った自覚はあるが、たまには言い返したいので許して欲しい。
だいたい9割くらいはメイナードに言われっぱなしなのだ。
「教育自体はもう終わったんだから、後は閨教育だけだよ。ヴィオレット様の命令で実践のみだけど」
「っぶ! はぁ!?」
つい吹き出してしまうと、「汚な!」と大袈裟に避けられる。
自分の顔が火傷するくらい熱いような気がする。
「な…、な、な」
「ノエルっていつまで経っても初心だね。ヴィオレット様がやられたのってそういう所?」
「な、だって、ねや、って!」
真っ赤になった顔で立ち上がり、顔を真っ赤にする。頭が噴火しそうな程熱い。
そんな俺を見たメイナードはまたため息をつく。
「ほんと、アホらしいったらありゃしないね」
ため息をついた時に浮かんでいるのは、呆れ顔ではなく微笑みだった。なんだか、出来の悪い子供を見るような、そんな感じだ。
「うぐ」
俺は図書館と言うべき規模の図書室で小さな声で話していた。
話していても怒られないのは、目の前の人物のおかげである。
毎度毎度図書室で喋ってても怒られなかったのは、メイナードが人払いしていたせいだったらしい。
そして9年経った今でもこんな感じだ。
「私、めでたしめでたしを聞きに来たんだけど?」
「めでたしだよ! なんか悪いかよ!」
「うるさいなぁ。16にもなってママゴトみたいな触れ合いしかしてないやつがギャーギャー騒がないでよ」
言葉が悪い目の前の男は、耳に指を入れながら俺をジロリと見る。
う、と唸るように押黙ると、目の前の男、メイナードは大きくため息をついた。
「し、仕方ないだろ…!ヴィオが『条件はそのままに』って言うんだから!」
「だからって16になってからも性的な触れ合いは無しって」
「うううう、うるさいうるさい!」
あれから、9年が経った。
高等部に入学して2年目。ヴィオレットは既に成人し、公爵家の後継として領地の運営に奔走していた。
俺はと言うと、相変わらずだ。
グダグダとひたすらに学生生活を送っていた。一応、公爵家夫人としての教育も並行しながらだ。
なんとその教育者としてメイナードが選ばれた訳だ。
メイナードは実は俺よりも2歳程年上で、既に公爵家夫人としての教育はあの9年前にほとんど終わりかけていたと言う。
何もせずぬくぬくと育ち、愚痴愚痴と婚約者の文句を言い続ける俺は、メイナードにとってさぞかし頭に来ただろうに。
メイナードは、『教育係をすれば、良い所に嫁げる確約を貰ったようなものだから』と引き受けたらしい。
そもそもヴィオレットに恋愛感情はなく、親が取り決めた婚約に従っていただけと言う。
「早く結婚してくれない?私の嫁ぎ先も決まらないんだから」
「う、うううう……」
メイナードには、最近会う度に結婚をせっつかれている。
深い深いため息をされながらも、俺はまたブツブツと文句を言うしかない訳だ。
「だって…仕方ないだろ。16までは手を出さないって言われていたし……結婚するってそういうことだろ。俺だってさすがに分かる……!」
こちとら転生を自覚した赤ん坊の頃から見たくもない両親のあれやこれやを見たり聞いたりしていたんだ!
そもそも転生した時点で精神だけは16歳はすぎていた訳で! 結婚とはどういうものかは同年代の誰よりも分かっているつもりだ。
経験は1ミリもないが!
「……はーぁ、めんどくさ。勘弁してよ。私の婚期が遅れるだけなんだけど」
メイナードが机に頬杖をついて、心底ウザそうに顔をゆがめてこちらを見てくる。
結婚してない教育係が先に結婚するのは良くないらしく、メイナードはひたすら待っている。
それにしても本当にコイツの本性酷いな。いい性格してやがる。
「君って本当、顔だけだよね。私だったらその顔利用して上手く立ち回るけどな」
「そういう所がヴィオレットの婚約者になれなかった所だな」
「あ゛?」
余計な一言を言った自覚はあるが、たまには言い返したいので許して欲しい。
だいたい9割くらいはメイナードに言われっぱなしなのだ。
「教育自体はもう終わったんだから、後は閨教育だけだよ。ヴィオレット様の命令で実践のみだけど」
「っぶ! はぁ!?」
つい吹き出してしまうと、「汚な!」と大袈裟に避けられる。
自分の顔が火傷するくらい熱いような気がする。
「な…、な、な」
「ノエルっていつまで経っても初心だね。ヴィオレット様がやられたのってそういう所?」
「な、だって、ねや、って!」
真っ赤になった顔で立ち上がり、顔を真っ赤にする。頭が噴火しそうな程熱い。
そんな俺を見たメイナードはまたため息をつく。
「ほんと、アホらしいったらありゃしないね」
ため息をついた時に浮かんでいるのは、呆れ顔ではなく微笑みだった。なんだか、出来の悪い子供を見るような、そんな感じだ。
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