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契約の話
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次の日、俺は気持ちを上手く切り替える事は出来なかったが、謝罪すると決めたら立ち上がることが出来た。
やらなきゃいけない事があると、足は動く。
セドは俺の弟であるエリクを抱っこしながら、声をかけてきた。
「大丈夫? ノエル。今日は学園休んだら?」
心配そうに眉を下げて声をかけられる。俺は首を振った。
「平気。朝食も食べてく」
俺はセドそっくりの笑顔を作って答えた。セドはまだ心配そうにしているが、あまり深くは聞いてこなかった。
セドとクリスに今までの自分の態度を謝ろうと思ったが、止めた。
最初にすべき相手は決まっている。
朝食が終わって学園に向かう準備が出来てから迎えがやってきた。昨日のうちに学園には登校すると、ヴィオレットに連絡をしておいた。
公爵家の馬車がいつものようにやってくると、ヴィオレットは慣れた手つきで俺をエスコートして乗せてくれた。
俺はいつもの定位置に座って、向かいに座るヴィオレットの方をなんとか見た。
一度、目をギュッと閉じて、なんとか絞り出す。
「あの……!」
「ノエル」
同時だった。 俺の名前を呼ぶ声は穏やかだったが、遮ったせいかヴィオレットは話すのをやめてしまう。
「な、なに?」
「ノエルからでいい」
「え、あ……えっと……」
出鼻をくじかれてしまった。でもなんとかまだ言うぞっていう勇気は持てたままだ。
「……悪かった。その、今まで、ずっと」
声は小さくとも二人しかいない空間で、馬車の揺れがあっても防音が優れている公爵家の馬車なら、ヴィオレットの耳にきっと届いている。
俯いているせいで、ヴィオレットがどんな表情をしているか分からないが、見る勇気もない。けど、待てど暮らせど反応らしい反応がない。
なんとかチラリと瞼を開けて前を見ると、ヴィオレットは目を見開いて驚いていた。
「あの、えっと……悪かったっていうのは、その」
謝罪の中身を説明しようとするが、どこからどう言えばいいか分からなくてあたふたしてしまう。
謝ろうと決めた時に色んなシュミレーションはしてきたのに、全てどこかに吹っ飛んでしまった。
「えっと……」
頭が真っ白になって、上手く言葉が見つからない。心做しか唇も震えてきている。
「……ノエル」
「いや、俺ちゃんと、その」
「ノエル」
やっぱり穏やかだった。俺を呼ぶ声がこんなに穏やかだったのを、今更知った。
「ノエルの謝罪の気持ちは伝わってる」
「ま、待って!違う!俺がちゃんと言わなくちゃダメだ!」
いつものように俺を甘やかそうとしてくるヴィオレットを遮る。制服の裾をギュッと強く握りしめる。
「今まで色々と、その、やってくれたのに…お礼も何もしなくてごめん」
ヴィオレットを、相手の顔を見ながらちゃんと謝る!と決めてきたのに、実際はそんなこと出来ずに俯いてしまう。
「えっと、ジナルマーとも喧嘩して、ごめん。大切な弟なのに」
ヴィオレットは黙って聞いてくれている様で、返答はない。
「それに、いつも助けてくれてるのに、愚痴ってごめん…しかも元婚約者候補の人に」
自分の最低な行いに心が潰されそうになってどんどん声が小さくなってしまう。
言いたいことは言えた。自己満足かもしれないけど、気持ちは伝えられたはず。勇気を出して少しずつ顔を上げてみると、いつもの不敵な笑みではない、穏やかなヴィオレットがそこにいた。
なんでそんな顔…
「ヴィオ、様?」
「ノエルが反省してるのは顔を見たらよく分かる。ノエルは無表情のつもりだろうが、俺にとっては全部顔に出ているように見えたからな」
「う…」
「お礼の件だが、別に構わない。俺が勝手にやってる事だ、見返りを求めているわけじゃない」
まぁ、もう貰ってるも同然だったしな、と付け加えられる。
一体なんのことなのか分からなかったが、「婚約者になっているだろう」と言われた。婚約者ってそんな無条件で許されるものなのか……?
「ジナルマーに関しては、俺ではなくジナルマーに言ってやれ。今頃ノエルと話したくてソワソワしてるだろうから」
「うん……」
「それと、メイナードの件は…俺の中では解決したつもりだったんだ。まさか接触するとは思わなかった。悪いのは俺の方だ、ノエルは悪くない」
「そんな」
ヴィオレットにとったら俺の罪悪感を消すために言ってくれた言葉かもしれないけど、俺はどんどん罪悪感に引き込まれていく。
俺の言いたいことは終わってしまって、馬車にガタゴトと走る音以外静寂が訪れる。
それを破ったのはヴィオレットだった。
「俺が話したいのは契約のことだ」
「あ…」
昨日、帰りがけに言われた事だ。
俺が思いの外元気そうだから話すことに決めたのだろう。
「ノエルにこれを返す」
そうして、渡されたのは全ての元凶である紙切れ1枚だった。
やらなきゃいけない事があると、足は動く。
セドは俺の弟であるエリクを抱っこしながら、声をかけてきた。
「大丈夫? ノエル。今日は学園休んだら?」
心配そうに眉を下げて声をかけられる。俺は首を振った。
「平気。朝食も食べてく」
俺はセドそっくりの笑顔を作って答えた。セドはまだ心配そうにしているが、あまり深くは聞いてこなかった。
セドとクリスに今までの自分の態度を謝ろうと思ったが、止めた。
最初にすべき相手は決まっている。
朝食が終わって学園に向かう準備が出来てから迎えがやってきた。昨日のうちに学園には登校すると、ヴィオレットに連絡をしておいた。
公爵家の馬車がいつものようにやってくると、ヴィオレットは慣れた手つきで俺をエスコートして乗せてくれた。
俺はいつもの定位置に座って、向かいに座るヴィオレットの方をなんとか見た。
一度、目をギュッと閉じて、なんとか絞り出す。
「あの……!」
「ノエル」
同時だった。 俺の名前を呼ぶ声は穏やかだったが、遮ったせいかヴィオレットは話すのをやめてしまう。
「な、なに?」
「ノエルからでいい」
「え、あ……えっと……」
出鼻をくじかれてしまった。でもなんとかまだ言うぞっていう勇気は持てたままだ。
「……悪かった。その、今まで、ずっと」
声は小さくとも二人しかいない空間で、馬車の揺れがあっても防音が優れている公爵家の馬車なら、ヴィオレットの耳にきっと届いている。
俯いているせいで、ヴィオレットがどんな表情をしているか分からないが、見る勇気もない。けど、待てど暮らせど反応らしい反応がない。
なんとかチラリと瞼を開けて前を見ると、ヴィオレットは目を見開いて驚いていた。
「あの、えっと……悪かったっていうのは、その」
謝罪の中身を説明しようとするが、どこからどう言えばいいか分からなくてあたふたしてしまう。
謝ろうと決めた時に色んなシュミレーションはしてきたのに、全てどこかに吹っ飛んでしまった。
「えっと……」
頭が真っ白になって、上手く言葉が見つからない。心做しか唇も震えてきている。
「……ノエル」
「いや、俺ちゃんと、その」
「ノエル」
やっぱり穏やかだった。俺を呼ぶ声がこんなに穏やかだったのを、今更知った。
「ノエルの謝罪の気持ちは伝わってる」
「ま、待って!違う!俺がちゃんと言わなくちゃダメだ!」
いつものように俺を甘やかそうとしてくるヴィオレットを遮る。制服の裾をギュッと強く握りしめる。
「今まで色々と、その、やってくれたのに…お礼も何もしなくてごめん」
ヴィオレットを、相手の顔を見ながらちゃんと謝る!と決めてきたのに、実際はそんなこと出来ずに俯いてしまう。
「えっと、ジナルマーとも喧嘩して、ごめん。大切な弟なのに」
ヴィオレットは黙って聞いてくれている様で、返答はない。
「それに、いつも助けてくれてるのに、愚痴ってごめん…しかも元婚約者候補の人に」
自分の最低な行いに心が潰されそうになってどんどん声が小さくなってしまう。
言いたいことは言えた。自己満足かもしれないけど、気持ちは伝えられたはず。勇気を出して少しずつ顔を上げてみると、いつもの不敵な笑みではない、穏やかなヴィオレットがそこにいた。
なんでそんな顔…
「ヴィオ、様?」
「ノエルが反省してるのは顔を見たらよく分かる。ノエルは無表情のつもりだろうが、俺にとっては全部顔に出ているように見えたからな」
「う…」
「お礼の件だが、別に構わない。俺が勝手にやってる事だ、見返りを求めているわけじゃない」
まぁ、もう貰ってるも同然だったしな、と付け加えられる。
一体なんのことなのか分からなかったが、「婚約者になっているだろう」と言われた。婚約者ってそんな無条件で許されるものなのか……?
「ジナルマーに関しては、俺ではなくジナルマーに言ってやれ。今頃ノエルと話したくてソワソワしてるだろうから」
「うん……」
「それと、メイナードの件は…俺の中では解決したつもりだったんだ。まさか接触するとは思わなかった。悪いのは俺の方だ、ノエルは悪くない」
「そんな」
ヴィオレットにとったら俺の罪悪感を消すために言ってくれた言葉かもしれないけど、俺はどんどん罪悪感に引き込まれていく。
俺の言いたいことは終わってしまって、馬車にガタゴトと走る音以外静寂が訪れる。
それを破ったのはヴィオレットだった。
「俺が話したいのは契約のことだ」
「あ…」
昨日、帰りがけに言われた事だ。
俺が思いの外元気そうだから話すことに決めたのだろう。
「ノエルにこれを返す」
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