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疑念
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それからひと月程経っても、彼と俺は図書室で良く話していた。
彼の名前は相変わらず知らないままだが、尽きない話題は面白いし、飽きない。
「ノエル君はその仏頂面をやめた方がいいと思うけど」
彼に突然言われ、俺は全力で首を振った。
「無理無理無理!笑った瞬間にヴィオレット様とランディに目を付けられたんだぞ?」
「ギャップって言葉知ってる?」
「し、知ってるけど…」
「ノエル君はずーっと無表情でしょ?そこで急に君のその容姿で微笑んだら一発でやられるのも無理はないと思うよ」
彼に言われ、ハッと気づく。確かに日本の姉は良く良く「ギャップ萌え」とか言っていた気がする。
まさか俺は今までそれをやり続けていたのか。
「けど今更やっても!」
逆効果で、むしろもっとランディみたいなやつが現れるのでは、と不安になる。
「まだまだこれから先学園生活は長いんだから。むしろ変えるなら今だと思うけどね。まぁ考えてみてよ」
俺はトボトボと図書室から教室へ向かう。
彼に言われたことをしたとして、俺は本当に目立たない学園生活を送れる保証はあるのだろうか。
実際ここ一ヶ月、何も起きていないし、このままでも十分ではないだろうか。
ヴィオレットからもらった腕輪やイヤリングは、ようやく効果を実感してくるほどには平和だ。
なら無理に現状を変える必要はなくないか。
「けど、まぁ…俺も思いっきり笑う時には笑いたいしなぁ…」
ジナルマーもライもテーヴも、俺の事情を知っているからこそ、無表情でいても何も言われずに友人でいてくれている。俺は別に日本の時とは違い、今はもう、たくさん友人を作りたい!というスタンスではないし、ぶっちゃけこの三人がいてさえくれれば学園生活は楽しいし平和だ。
けどやっぱり、笑いたい時に笑えないと言うのはきついものがある。
家ではようやく普通に笑うようになったけど、友人の前で笑えないのは少しずつ心も痛むし、何よりちょっとずつストレスも感じてきていた。
「うー…でもなー!」
わしわしと頭を両手で掻く。やっぱり現状維持が一番であると思った。だって、今平和なのは、自分が無表情を貫いてきたからだ。無理に変える必要はないはず。
そう思いながら歩いていると、いつの間にか教室に到着していた。
「…おかえり、ノエル」
ジナルマーに言われ、「ただいま」と返した。昼休みも終わりになりかけている頃、席について次の授業の支度を始めようとした。
すると、隣にいるジナルマーが俺の顔を覗き込んできた。
「ねぇ。最近昼休みの度にどこかに行ってるみたいだけど、一体どこに行ってるの?」
ジナルマーは、なんとなくムスッとしていた。
いつもの王子様のような微笑みではない表情に、俺は少し戸惑った。
「えっと…図書室だけど」
別に悪いことは何もしていないし、俺は隠さずそう言った。
「その割に、本はいつも借りてこないね。何してるの?」
「…別に、なんでも良いじゃんか」
なんだが、浮気をして問い詰められている夫の気分になってくる。でも本当に何も悪いことはしていない。でも、なんとなくムッとして素直に言いたくなくなってしまった。
「ね、ねぇ。ノエル。ジナルマーは心配してるんだよ?ほら、ノエルはいつも何か問題が起きるし…」
「問題なんか起こしてないし、本当に図書室に行ってるだけだ!」
「ライに当たるな。ライもジナルマーも心配してるだけだ。別に何もしてないならそれで構わない。本当に図書室に行って本を読んでるだけだな?」
テーヴに言われ、俺は無言で返事をしてしまう。
なんとなく言いたくなくて黙っていると、ジナルマーが少しだけため息をついた。
「ねぇ。やっぱり何かあるんでしょ。怒ったりしないから教えてよ。ライもテーヴも言った通り、本当に心配なの。別にこれは、ノエルが兄様の婚約者だからじゃなくて、友人として」
本当に心配した表情をするジナルマーに、俺は俯いてからモゴモゴと口を動かすように話した。
「…仲良くなった人がいて…話してた」
「そう。それは男の人?女の人?」
「お、男だけど」
「名前は?学年は?」
問い詰められるように、けどなるべく口調は優しくしようとしているのが伝わってくる。
「知らない…」
「…嘘でしょ。誰かもわからない人と一緒にいたの?まさか二人きりじゃないよね?」
「そうだけど。でも別に何も俺は」
そういうと、ジナルマーもテーヴも思いっきり深いため息をついた。
ライはそんな二人を見て、「ま、まぁまぁ、ノエルが素直に教えてくれたんだし、責めちゃダメだよ…」とフォローを入れてくる。
「明日から、その人に会うときは僕も行く。いいね?」
「え!なんで!」
「…あのね。仮にも婚約者がいる人間が、男と二人っきりなんてダメに決まってるでしょ?その人もどうしてノエルに言わないのか…はなんとなく理由はわかるけど」
「でも…」
でもじゃない、とジナルマーが諭すように俺の言葉を遮り、説明した。
「さっきも言った通り、僕は兄様の婚約者だからノエルを心配してるんじゃなくて、友人として心配してるの。ノエルは何度も被害に遭ってて、今回も被害に遭わない保証は一体どこにあるの?」
「う…でも、本当に良い人で」
「ランディだって、別に暴走しちゃっただけでとっても良い人だよ」
そこで俺はムッとする。
「会ったこともないのに、どうしてランディとその人を一緒にするんだよ」
「一緒かもしれないでしょ?どうしてもっと危機感持てないのかな…!」
そして俺は、ついにジナルマーの言葉にカチンときてしまった。
ガタッと大きな音をさせて席を立って、拳を震わせる。俺の突然の行動に、三人はびっくりした様子で目を丸くする。
「うるさい!俺だって好きでこんなことになってない!!」
そして、授業が始まるのも忘れて教室を出ていった。
彼の名前は相変わらず知らないままだが、尽きない話題は面白いし、飽きない。
「ノエル君はその仏頂面をやめた方がいいと思うけど」
彼に突然言われ、俺は全力で首を振った。
「無理無理無理!笑った瞬間にヴィオレット様とランディに目を付けられたんだぞ?」
「ギャップって言葉知ってる?」
「し、知ってるけど…」
「ノエル君はずーっと無表情でしょ?そこで急に君のその容姿で微笑んだら一発でやられるのも無理はないと思うよ」
彼に言われ、ハッと気づく。確かに日本の姉は良く良く「ギャップ萌え」とか言っていた気がする。
まさか俺は今までそれをやり続けていたのか。
「けど今更やっても!」
逆効果で、むしろもっとランディみたいなやつが現れるのでは、と不安になる。
「まだまだこれから先学園生活は長いんだから。むしろ変えるなら今だと思うけどね。まぁ考えてみてよ」
俺はトボトボと図書室から教室へ向かう。
彼に言われたことをしたとして、俺は本当に目立たない学園生活を送れる保証はあるのだろうか。
実際ここ一ヶ月、何も起きていないし、このままでも十分ではないだろうか。
ヴィオレットからもらった腕輪やイヤリングは、ようやく効果を実感してくるほどには平和だ。
なら無理に現状を変える必要はなくないか。
「けど、まぁ…俺も思いっきり笑う時には笑いたいしなぁ…」
ジナルマーもライもテーヴも、俺の事情を知っているからこそ、無表情でいても何も言われずに友人でいてくれている。俺は別に日本の時とは違い、今はもう、たくさん友人を作りたい!というスタンスではないし、ぶっちゃけこの三人がいてさえくれれば学園生活は楽しいし平和だ。
けどやっぱり、笑いたい時に笑えないと言うのはきついものがある。
家ではようやく普通に笑うようになったけど、友人の前で笑えないのは少しずつ心も痛むし、何よりちょっとずつストレスも感じてきていた。
「うー…でもなー!」
わしわしと頭を両手で掻く。やっぱり現状維持が一番であると思った。だって、今平和なのは、自分が無表情を貫いてきたからだ。無理に変える必要はないはず。
そう思いながら歩いていると、いつの間にか教室に到着していた。
「…おかえり、ノエル」
ジナルマーに言われ、「ただいま」と返した。昼休みも終わりになりかけている頃、席について次の授業の支度を始めようとした。
すると、隣にいるジナルマーが俺の顔を覗き込んできた。
「ねぇ。最近昼休みの度にどこかに行ってるみたいだけど、一体どこに行ってるの?」
ジナルマーは、なんとなくムスッとしていた。
いつもの王子様のような微笑みではない表情に、俺は少し戸惑った。
「えっと…図書室だけど」
別に悪いことは何もしていないし、俺は隠さずそう言った。
「その割に、本はいつも借りてこないね。何してるの?」
「…別に、なんでも良いじゃんか」
なんだが、浮気をして問い詰められている夫の気分になってくる。でも本当に何も悪いことはしていない。でも、なんとなくムッとして素直に言いたくなくなってしまった。
「ね、ねぇ。ノエル。ジナルマーは心配してるんだよ?ほら、ノエルはいつも何か問題が起きるし…」
「問題なんか起こしてないし、本当に図書室に行ってるだけだ!」
「ライに当たるな。ライもジナルマーも心配してるだけだ。別に何もしてないならそれで構わない。本当に図書室に行って本を読んでるだけだな?」
テーヴに言われ、俺は無言で返事をしてしまう。
なんとなく言いたくなくて黙っていると、ジナルマーが少しだけため息をついた。
「ねぇ。やっぱり何かあるんでしょ。怒ったりしないから教えてよ。ライもテーヴも言った通り、本当に心配なの。別にこれは、ノエルが兄様の婚約者だからじゃなくて、友人として」
本当に心配した表情をするジナルマーに、俺は俯いてからモゴモゴと口を動かすように話した。
「…仲良くなった人がいて…話してた」
「そう。それは男の人?女の人?」
「お、男だけど」
「名前は?学年は?」
問い詰められるように、けどなるべく口調は優しくしようとしているのが伝わってくる。
「知らない…」
「…嘘でしょ。誰かもわからない人と一緒にいたの?まさか二人きりじゃないよね?」
「そうだけど。でも別に何も俺は」
そういうと、ジナルマーもテーヴも思いっきり深いため息をついた。
ライはそんな二人を見て、「ま、まぁまぁ、ノエルが素直に教えてくれたんだし、責めちゃダメだよ…」とフォローを入れてくる。
「明日から、その人に会うときは僕も行く。いいね?」
「え!なんで!」
「…あのね。仮にも婚約者がいる人間が、男と二人っきりなんてダメに決まってるでしょ?その人もどうしてノエルに言わないのか…はなんとなく理由はわかるけど」
「でも…」
でもじゃない、とジナルマーが諭すように俺の言葉を遮り、説明した。
「さっきも言った通り、僕は兄様の婚約者だからノエルを心配してるんじゃなくて、友人として心配してるの。ノエルは何度も被害に遭ってて、今回も被害に遭わない保証は一体どこにあるの?」
「う…でも、本当に良い人で」
「ランディだって、別に暴走しちゃっただけでとっても良い人だよ」
そこで俺はムッとする。
「会ったこともないのに、どうしてランディとその人を一緒にするんだよ」
「一緒かもしれないでしょ?どうしてもっと危機感持てないのかな…!」
そして俺は、ついにジナルマーの言葉にカチンときてしまった。
ガタッと大きな音をさせて席を立って、拳を震わせる。俺の突然の行動に、三人はびっくりした様子で目を丸くする。
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