30 / 54
相談
しおりを挟む
「なるほどね…」
俺はぶつかった男に、これまでの経緯を説明し、四面楚歌の状況を伝えた。
図書室には今は誰もおらず、静かに俺と彼の声だけが聞こえてくる。
彼は俺の言葉に時々頷きながらも、口を挟むことはせず、ずっと話を聞いてくれていた。
「難しいね。騙されたって言っても、ノエル君の言葉しか証言は無いし、実際何度も危ないところは助けてくれているんだろう?」
「……それは…、分かってる」
理性的に現状を把握されるとつらいものがある。俺はため息をついてガックリと項垂れた。
「ヴィオレット様も少し性急だとは思うけどね。気持ちの伴わない婚約が、貴族には少なからずあるにしても。ただちょっとお友達は君に辛く当たりすぎな面もあると思うな」
苦笑している男は、メガネを持ち上げる。
「だけど、ヴィオレット様がそんなに慌てるのも無理はないよ」
「どうして?」
「君がそれだけ魅力的であるからね」
「…母親譲りなだけだ」
そうそれ、と彼は俺を指して続ける。
「セドリック殿だろ?それに父親はクリス殿。あの二人はどちらも夜会の華と呼ばれているほどだった。どちらの容姿も整ってたから」
「や、夜会の華…」
「それで生まれた君は、白百合の君と呼ばれてるのは?」
「はあ?!」
俺は初めて聞いた自分のあだ名に驚く。可愛いだの天使だの言われては来たが、ここで新しく白百合だと。
日本のときの母と姉に言ったら思いっきり指さして爆笑されるだろうな…と思った。
「ああ、やっぱり知らないのか」
知らなかったら、一人で出歩かないだろうね。と呟く。一人で歩くくらいするのだが。
「…もう授業も再開するし、戻ろうか」
「あ、もうそんな時間か。悪い、ありがとう」
俺がそう言うと、男はにっこりと微笑む。知的な印象から少し愛嬌のある人好きのしそうな微笑みに、優しい言葉遣いと声音。俺はすっかり話すのに夢中になっていたようだった。
「またおいで。解決策は出ないかもしれないけど、話を聞いてあげることくらいはできるよ」
「え、いや悪いからいいよ。今日でだいぶストレス発散できたし」
第三者に話すだけで、俺はだいぶスッキリしていた。
事実、さっきまで友人たちにイライラしていた気持ちは切り替えられていて、早く戻らなくては、と思っていた。
「じゃあ今度は私の話し相手になってもらえるかな」
「…それなら。また来る」
自分ばかり聞いてもらっていて、相手からは聞かないとは恩を仇で返すものだ。流石に俺も心苦しいので了承した。
俺は彼と別れて教室へ戻った。
さっきよりもだいぶ足取りが軽い。やっぱり誰かに話すって大切だな、なんて思った。それもヴィオレット側ではない話し相手。別に完全に俺の味方でないところも、俺に罪悪感を残さなくて助かった。
教室に戻ると、ジナルマーが俺を見て不思議そうな顔をしていた。
「ずいぶん遅かったね。大丈夫?」
腹でも壊したと思われたのかもしれない。けど別に言うまでもないか、と思って俺は大丈夫、と答えた。
「…なんだか、ずいぶん機嫌良さそうだね?」
「え?そうか?」
ジナルマーに指摘され、ライとテーヴもうんうんと頷いている。そんなに俺はわかりやすいのか。
「僕たちも少し言い過ぎちゃったから、ごめんね。怒ったのかと思ってたんだよ」
「あ、あー…いや、まぁ。別にもう気にしてない」
「…なんか気持ち悪いな、お前が下手に素直だと」
テーヴがそう言うと、ライが「もう!テーヴは言い過ぎだよ!」とプンスカし出した。ライに愛想をつかれたら、こいつも少しは優しくなれるんじゃないか?
俺はぶつかった男に、これまでの経緯を説明し、四面楚歌の状況を伝えた。
図書室には今は誰もおらず、静かに俺と彼の声だけが聞こえてくる。
彼は俺の言葉に時々頷きながらも、口を挟むことはせず、ずっと話を聞いてくれていた。
「難しいね。騙されたって言っても、ノエル君の言葉しか証言は無いし、実際何度も危ないところは助けてくれているんだろう?」
「……それは…、分かってる」
理性的に現状を把握されるとつらいものがある。俺はため息をついてガックリと項垂れた。
「ヴィオレット様も少し性急だとは思うけどね。気持ちの伴わない婚約が、貴族には少なからずあるにしても。ただちょっとお友達は君に辛く当たりすぎな面もあると思うな」
苦笑している男は、メガネを持ち上げる。
「だけど、ヴィオレット様がそんなに慌てるのも無理はないよ」
「どうして?」
「君がそれだけ魅力的であるからね」
「…母親譲りなだけだ」
そうそれ、と彼は俺を指して続ける。
「セドリック殿だろ?それに父親はクリス殿。あの二人はどちらも夜会の華と呼ばれているほどだった。どちらの容姿も整ってたから」
「や、夜会の華…」
「それで生まれた君は、白百合の君と呼ばれてるのは?」
「はあ?!」
俺は初めて聞いた自分のあだ名に驚く。可愛いだの天使だの言われては来たが、ここで新しく白百合だと。
日本のときの母と姉に言ったら思いっきり指さして爆笑されるだろうな…と思った。
「ああ、やっぱり知らないのか」
知らなかったら、一人で出歩かないだろうね。と呟く。一人で歩くくらいするのだが。
「…もう授業も再開するし、戻ろうか」
「あ、もうそんな時間か。悪い、ありがとう」
俺がそう言うと、男はにっこりと微笑む。知的な印象から少し愛嬌のある人好きのしそうな微笑みに、優しい言葉遣いと声音。俺はすっかり話すのに夢中になっていたようだった。
「またおいで。解決策は出ないかもしれないけど、話を聞いてあげることくらいはできるよ」
「え、いや悪いからいいよ。今日でだいぶストレス発散できたし」
第三者に話すだけで、俺はだいぶスッキリしていた。
事実、さっきまで友人たちにイライラしていた気持ちは切り替えられていて、早く戻らなくては、と思っていた。
「じゃあ今度は私の話し相手になってもらえるかな」
「…それなら。また来る」
自分ばかり聞いてもらっていて、相手からは聞かないとは恩を仇で返すものだ。流石に俺も心苦しいので了承した。
俺は彼と別れて教室へ戻った。
さっきよりもだいぶ足取りが軽い。やっぱり誰かに話すって大切だな、なんて思った。それもヴィオレット側ではない話し相手。別に完全に俺の味方でないところも、俺に罪悪感を残さなくて助かった。
教室に戻ると、ジナルマーが俺を見て不思議そうな顔をしていた。
「ずいぶん遅かったね。大丈夫?」
腹でも壊したと思われたのかもしれない。けど別に言うまでもないか、と思って俺は大丈夫、と答えた。
「…なんだか、ずいぶん機嫌良さそうだね?」
「え?そうか?」
ジナルマーに指摘され、ライとテーヴもうんうんと頷いている。そんなに俺はわかりやすいのか。
「僕たちも少し言い過ぎちゃったから、ごめんね。怒ったのかと思ってたんだよ」
「あ、あー…いや、まぁ。別にもう気にしてない」
「…なんか気持ち悪いな、お前が下手に素直だと」
テーヴがそう言うと、ライが「もう!テーヴは言い過ぎだよ!」とプンスカし出した。ライに愛想をつかれたら、こいつも少しは優しくなれるんじゃないか?
11
お気に入りに追加
1,873
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる