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モヤモヤ
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それからしばらく平和な時期は続いた。続いたのだが、俺はずっとモヤモヤしていた。
『当たり前でしょ?公爵家だよ?みんな目を付けられたくないに決まってるんだから。例えヴィオレット様以外の方がノエルのことを気に入ったとしても、今の婚約が破棄されるのが前提なら良くて側室扱い、悪くて愛妾だからね?』
母であるセドリックに言われ、俺はずっとこのことを考えていた。
つまりだ。
ヴィオレットは最初からこのことが分かっていたのではないだろうか。
公爵家の権力はこの国において高いことは俺でも良くわかる。
日本では貴族制度というものはないけれど、城にいる各地の殿様みたいなものだろ?そう考えたら逆らったらヤバいことくらいは何となく分かる。
大抵の貴族はまだ大人にならないヴィオレットにも頭を下げるし、言うことを聞くのが当たり前だ。
ランディはちょっと頭がおかしくなってただけで、本来ならばヴィオレットの婚約者にちょっかいを出したとして家ごと糾弾されてもおかしくない。
この婚約は、十六歳になるまで俺を守ってくれる婚約だと、一応は思っていた。詐欺まがいのことをされてはいたが、約束は守ってくれているし、お互い利があって結ばれているのだと。
けれど、俺にとっての利とは、『十六歳まではヴィオレットに守ってもらって、その後は女性と結婚する』ことである。
それが、婚約破棄された後は次の婚約は難しいと聞けば、その前提はそもそも崩れることになる。
じゃあ一体、この契約に俺の利は何があるのだろうか。
「…いやいやいや。ノエル、言ってること分かってる?兄様も大概なことしたけど、ノエルのやろうとしていることも大概だからね?」
「なんでだよ」
休み時間、いつものメンツ…ライとテーヴ、それにヴィオレットの弟であるジナルマーも一緒になって教室で話していた。
ジナルマーの言葉に二人もうんうんと大きく頷いている。
「俺はずっとノエルはクズだって言ってたがな」
「んな」
「天使の顔してほんと悪魔だねぇ。しかも本人に自覚ゼロ」
「…お前ら、俺は騙されたんだからな」
そういうと、ライは「もちろんそれはヴィオレット様が悪いと思ってるよ?」といい、続けた。
「けど、その後はずっと紳士じゃない。婚約者としてやるべきことはやってくれているし、ノエルは一つだってちゃんと返してあげてるの?」
「え」
「兄様は何にも言わないけど、一方通行なのって辛いと思うな。僕に対して過干渉気味だった時でも、僕はちゃんとお礼をしたりしたよ」
「…別に、ヴィオレットに好かれようとか思ってるわけじゃないし」
すると三人は大きくため息をついた。
「そのエルダーの印のイヤリング。それだってランディには効果なかったけど、他の生徒からはすっごく効果あるでしょ?」
「…う」
そう。これを付けてからと言うものの、学園内でジロジロ見られることはあっても話かけられることはほとんどなくなった。それまでは結構手を握ろうとしてきたり、肩を叩かれて話しかけられたりと、実は裏では色々あったのだ。
しかも馬車での送り迎えが毎日になってからと言うものの、皆遠巻きに俺を見るだけで、一切触れようとはしなくなった。
婚約者がいるのに触れようとしてくるのがおかしいのだが。
「それだけノエルが魔性ってことだけど、そんなノエルにすらそのイヤリングはめちゃくちゃ効果あるんだから。それのお返しだって兄様にしてないでしょ」
「…し、してません…」
「うっわ…ヴィオレット様が健気すぎて俺が泣きそう」
「ほんとノエルはクズだな」
「俺が泣くぞテーヴ!」
こうやって、最近は俺がよく責められることが多い。俺の味方はクリスだけだが、そのクリスですら「送り迎えの時くらいは笑ってやったらどうだ?いっつも仏頂面で…俺がセドに毎日されたらと考えたら辛すぎる」と言い出し始めた。
学園内にいる息子を助けるのは親でも難しいようで、可愛い息子を渡すのは癪だが俺が平穏に学園生活を送れていることには感謝しているようだ。
「い、良いだろもう! 別にお返しを望まれた訳でもないし!」
三人は一斉にヴィオレットが可哀想、的なことを言いながらため息をもう一度ついて俺をジト…と見ていた。
『当たり前でしょ?公爵家だよ?みんな目を付けられたくないに決まってるんだから。例えヴィオレット様以外の方がノエルのことを気に入ったとしても、今の婚約が破棄されるのが前提なら良くて側室扱い、悪くて愛妾だからね?』
母であるセドリックに言われ、俺はずっとこのことを考えていた。
つまりだ。
ヴィオレットは最初からこのことが分かっていたのではないだろうか。
公爵家の権力はこの国において高いことは俺でも良くわかる。
日本では貴族制度というものはないけれど、城にいる各地の殿様みたいなものだろ?そう考えたら逆らったらヤバいことくらいは何となく分かる。
大抵の貴族はまだ大人にならないヴィオレットにも頭を下げるし、言うことを聞くのが当たり前だ。
ランディはちょっと頭がおかしくなってただけで、本来ならばヴィオレットの婚約者にちょっかいを出したとして家ごと糾弾されてもおかしくない。
この婚約は、十六歳になるまで俺を守ってくれる婚約だと、一応は思っていた。詐欺まがいのことをされてはいたが、約束は守ってくれているし、お互い利があって結ばれているのだと。
けれど、俺にとっての利とは、『十六歳まではヴィオレットに守ってもらって、その後は女性と結婚する』ことである。
それが、婚約破棄された後は次の婚約は難しいと聞けば、その前提はそもそも崩れることになる。
じゃあ一体、この契約に俺の利は何があるのだろうか。
「…いやいやいや。ノエル、言ってること分かってる?兄様も大概なことしたけど、ノエルのやろうとしていることも大概だからね?」
「なんでだよ」
休み時間、いつものメンツ…ライとテーヴ、それにヴィオレットの弟であるジナルマーも一緒になって教室で話していた。
ジナルマーの言葉に二人もうんうんと大きく頷いている。
「俺はずっとノエルはクズだって言ってたがな」
「んな」
「天使の顔してほんと悪魔だねぇ。しかも本人に自覚ゼロ」
「…お前ら、俺は騙されたんだからな」
そういうと、ライは「もちろんそれはヴィオレット様が悪いと思ってるよ?」といい、続けた。
「けど、その後はずっと紳士じゃない。婚約者としてやるべきことはやってくれているし、ノエルは一つだってちゃんと返してあげてるの?」
「え」
「兄様は何にも言わないけど、一方通行なのって辛いと思うな。僕に対して過干渉気味だった時でも、僕はちゃんとお礼をしたりしたよ」
「…別に、ヴィオレットに好かれようとか思ってるわけじゃないし」
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「…う」
そう。これを付けてからと言うものの、学園内でジロジロ見られることはあっても話かけられることはほとんどなくなった。それまでは結構手を握ろうとしてきたり、肩を叩かれて話しかけられたりと、実は裏では色々あったのだ。
しかも馬車での送り迎えが毎日になってからと言うものの、皆遠巻きに俺を見るだけで、一切触れようとはしなくなった。
婚約者がいるのに触れようとしてくるのがおかしいのだが。
「それだけノエルが魔性ってことだけど、そんなノエルにすらそのイヤリングはめちゃくちゃ効果あるんだから。それのお返しだって兄様にしてないでしょ」
「…し、してません…」
「うっわ…ヴィオレット様が健気すぎて俺が泣きそう」
「ほんとノエルはクズだな」
「俺が泣くぞテーヴ!」
こうやって、最近は俺がよく責められることが多い。俺の味方はクリスだけだが、そのクリスですら「送り迎えの時くらいは笑ってやったらどうだ?いっつも仏頂面で…俺がセドに毎日されたらと考えたら辛すぎる」と言い出し始めた。
学園内にいる息子を助けるのは親でも難しいようで、可愛い息子を渡すのは癪だが俺が平穏に学園生活を送れていることには感謝しているようだ。
「い、良いだろもう! 別にお返しを望まれた訳でもないし!」
三人は一斉にヴィオレットが可哀想、的なことを言いながらため息をもう一度ついて俺をジト…と見ていた。
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