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今更教えられても困る
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「おかえり、ノエル」
「た、ただいま…」
ニコニコと待ち構えていたのは男だが自分の母親であるセドリックだった。
居た堪れない。凄く居た堪れない。
めちゃくちゃ機嫌が良いセドの様子に俺は挨拶をしながらも目をそらさずには居られなかった。
「お久しぶりです、セドリック殿。相変わらず美しいですね」
「やだ、そんなお世辞を言っても差し出せるのはノエルくらいですよ? ヴィオレット様」
簡単に息子を差し出すな!
昨日、ヴィオレットはセドに連絡をして今後は送り迎えを行うと話してあった。ヴィオレットの仕事が早すぎる。セドはそれを聞いて鼻歌を歌う勢いで喜んでいたが、クリスは「ノエルはやらん!しかし学園内は手出しできない……!ぐぬぬ」と悔しそうにしていた。
「ははは、それはますますセドリック殿に色々とプレゼントでも差し上げなくては」
「いえいえ、うちのノエルが御迷惑をおかけ致しまして…本当に助かっております」
セドがお辞儀をする。
「ほら、ノエルもお礼言ったの?」
「うぐ。あ、ありがとう…、ございます、っい!」
モゴモゴとそっぽを向いて礼をすると、背中をぎゅうううと抓られている痛みに顔を歪ませた。体を捩って背中の方に振り返ると、かろうじてセドの手が俺の背中に手を当てているのがわかる。
「何すんだ…いたたた!」
「ふふふ、申し訳ありません、素直じゃなくて」
「ああいえ。気にしないでください。跳ねっ返りな所も見ていて飽きないので」
セドの顔を涙目で見上げても、ゴゴゴゴゴという背景音が聞こえてきそうなレベルで怒っているのが伝わってくる。
婚約者、しかも公爵家に対する態度がなってない。と言わんばかりだ。
ヴィオレットを見ると、本気で気にしていないようだった。むしろ涙目になった俺を見て楽しそうにしている節すら感じられる微笑みを見せている。
「もし良ければ休まれてはいかがですか?」
「いや、残念ですが今日は帰ります」
「え?帰んのか?っい!」
びっくりして俺が砕けたいつもの口調で話すと、セドはますます背中を抓ってくる。ひどい。いや、俺が悪いんだけども!
だってヴィオレットは別に俺がこんな口調でも全く気にしない。
俺は誰に対してもこの口調だし、今更取り繕っても気持ち悪いとも思ってしまう。
もちろん正式な場ではちゃんとする!
「ああ。明日の朝迎えにくる。ではセドリック殿、失礼します」
「ありがとうございます。お待ちしております。ノエル?」
「うう…お願いします…」
セドに脅されるようにペコリと頭を下げると、ヴィオレットはフッと笑って馬車に乗って帰っていった。
くそ、なんだそのさりげなくカッコよく帰っていく感じ。腹立つな。
「はー…ノエル、もう問題とかあんまり起こさないようにしてよ」
「問題が向こうからやってくるんです」
ランディと目が合い、笑顔を見せたことでこの問題は起こった。大体、ヴィオレットとの婚約だってこの顔が原因なのだ。
そしてその一端はセドリックとクリスのせいでもあると俺は思っている。遺伝なんだから、俺は悪くない!
「仮面は余計に目立つからやめなさい。ノエルはどーしてこう大人しくしてないかな…そんな風に育てた覚えは私もクリスもないんだけどなぁ…」
そりゃ前の人格が宿ってるからです、とは言い難い。
「ま、ヴィオレット様が懐深くてほんと良かったよ。ノエル、言っとくけど」
「な、なに…」
「ヴィオレット様に婚約破棄されたら嫁に貰われるどころか嫁を貰うことすら難しくなるって分かってる?」
「え!?」
セドにため息をつかれながら言われ、俺は心底驚く。
「当たり前でしょ?公爵家だよ?みんな目を付けられたくないに決まってるんだから。例えヴィオレット様以外の方がノエルのことを気に入ったとしても、今の婚約が破棄されるのが前提なら良くて側室扱い、悪くて愛妾だからね?」
俺はその説明を聞いて、がっくりと床に手をついて項垂れた。
「お、俺に未来はないってこと…?」
「未来ならヴィオレット様のお嫁さんってこと」
ないじゃないか!
「た、ただいま…」
ニコニコと待ち構えていたのは男だが自分の母親であるセドリックだった。
居た堪れない。凄く居た堪れない。
めちゃくちゃ機嫌が良いセドの様子に俺は挨拶をしながらも目をそらさずには居られなかった。
「お久しぶりです、セドリック殿。相変わらず美しいですね」
「やだ、そんなお世辞を言っても差し出せるのはノエルくらいですよ? ヴィオレット様」
簡単に息子を差し出すな!
昨日、ヴィオレットはセドに連絡をして今後は送り迎えを行うと話してあった。ヴィオレットの仕事が早すぎる。セドはそれを聞いて鼻歌を歌う勢いで喜んでいたが、クリスは「ノエルはやらん!しかし学園内は手出しできない……!ぐぬぬ」と悔しそうにしていた。
「ははは、それはますますセドリック殿に色々とプレゼントでも差し上げなくては」
「いえいえ、うちのノエルが御迷惑をおかけ致しまして…本当に助かっております」
セドがお辞儀をする。
「ほら、ノエルもお礼言ったの?」
「うぐ。あ、ありがとう…、ございます、っい!」
モゴモゴとそっぽを向いて礼をすると、背中をぎゅうううと抓られている痛みに顔を歪ませた。体を捩って背中の方に振り返ると、かろうじてセドの手が俺の背中に手を当てているのがわかる。
「何すんだ…いたたた!」
「ふふふ、申し訳ありません、素直じゃなくて」
「ああいえ。気にしないでください。跳ねっ返りな所も見ていて飽きないので」
セドの顔を涙目で見上げても、ゴゴゴゴゴという背景音が聞こえてきそうなレベルで怒っているのが伝わってくる。
婚約者、しかも公爵家に対する態度がなってない。と言わんばかりだ。
ヴィオレットを見ると、本気で気にしていないようだった。むしろ涙目になった俺を見て楽しそうにしている節すら感じられる微笑みを見せている。
「もし良ければ休まれてはいかがですか?」
「いや、残念ですが今日は帰ります」
「え?帰んのか?っい!」
びっくりして俺が砕けたいつもの口調で話すと、セドはますます背中を抓ってくる。ひどい。いや、俺が悪いんだけども!
だってヴィオレットは別に俺がこんな口調でも全く気にしない。
俺は誰に対してもこの口調だし、今更取り繕っても気持ち悪いとも思ってしまう。
もちろん正式な場ではちゃんとする!
「ああ。明日の朝迎えにくる。ではセドリック殿、失礼します」
「ありがとうございます。お待ちしております。ノエル?」
「うう…お願いします…」
セドに脅されるようにペコリと頭を下げると、ヴィオレットはフッと笑って馬車に乗って帰っていった。
くそ、なんだそのさりげなくカッコよく帰っていく感じ。腹立つな。
「はー…ノエル、もう問題とかあんまり起こさないようにしてよ」
「問題が向こうからやってくるんです」
ランディと目が合い、笑顔を見せたことでこの問題は起こった。大体、ヴィオレットとの婚約だってこの顔が原因なのだ。
そしてその一端はセドリックとクリスのせいでもあると俺は思っている。遺伝なんだから、俺は悪くない!
「仮面は余計に目立つからやめなさい。ノエルはどーしてこう大人しくしてないかな…そんな風に育てた覚えは私もクリスもないんだけどなぁ…」
そりゃ前の人格が宿ってるからです、とは言い難い。
「ま、ヴィオレット様が懐深くてほんと良かったよ。ノエル、言っとくけど」
「な、なに…」
「ヴィオレット様に婚約破棄されたら嫁に貰われるどころか嫁を貰うことすら難しくなるって分かってる?」
「え!?」
セドにため息をつかれながら言われ、俺は心底驚く。
「当たり前でしょ?公爵家だよ?みんな目を付けられたくないに決まってるんだから。例えヴィオレット様以外の方がノエルのことを気に入ったとしても、今の婚約が破棄されるのが前提なら良くて側室扱い、悪くて愛妾だからね?」
俺はその説明を聞いて、がっくりと床に手をついて項垂れた。
「お、俺に未来はないってこと…?」
「未来ならヴィオレット様のお嫁さんってこと」
ないじゃないか!
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