BLしたくない伯爵子息は今日も逃げる

救済措置

「……という訳で助けてくれ！」

放課後、ヴィオレットの家の自室に転がり込んだ。
俺は恐怖を感じて、目の前の男に縋るように助けを乞う。
本当ならばこんなことしたくない。
しかし、新入生代表だったランディの言語の通じなさに恐怖を感じ、この男に頼らざる得なかった。

「ほう。 助けるのは構わないが、何をしてくれるんだ？」

くそ！この男、ヴィオレットは婚約者に対価を求めるのか！
最低だ！

「君が女漁りをしようとしているのは知っているぞ？ 中等部まで話が回ってきた」
「な！ 俺そんなに目立ってんのかよ！」
「俺の婚約者が目立たんわけがない」

グッバイ俺の青春。
まさか全校生徒に知れ渡ってるとかじゃないよな。

「なんでそんなにヴィオ様は有名人なんだよ」
「公爵家で初等中等部首席だっただけだ」

……あとは顔とスタイルか。くっそ。

「対価はそうだな。エルダー制度を知っているか？」
「あ？ なんだそれ」
「一応説明はあったと思うがな。早い話が指導生をつけるということだ」
「まて。それにヴィオ様がなるとかそういうやつか」
「その通りだ」

ヴィオレットが言うには、エルダー制度は下級生に指導生をつけるというものだ。
初等中等高等がエスカレーター式であり、校舎が繋がっているからこそ可能な制度だ。

エルダーとなった者は下級生を呼び出したり、指導することが出来る。

「……まさか。エロいこととかする気じゃないだろうな」
「しても良いならするが。 16迄は手を出さない約束だからな」
「破った時点で婚約破棄だからな！」

ヴィオレットはニヤリと笑う。その笑いに俺は背筋に悪寒が走った。

「現時点で婚約破棄されて困るのはノエルの方だと思うが？」
「うぐっ……」

婚約破棄されれば俺は野放しとなり、その辺のヤツらが一斉に群がって来るかもしれない。
しかし、ランディはそれすら関係ないとばかりに俺に詰め寄ってくる勢いだったが。
婚約破棄すればそういうヤツがもっと増えるだろうことは簡単に予想がつく。

「ヴィオ様がエルダーになったとして、何か良いことあんのか」
「ああ、学校内ではエルダーは絶対だ。下手したら婚約者と言うよりも効果があるんじゃないか？」
「婚約者よりってなんだよ。 意味がわからん」
「とりあえずの抑止力が欲しいんだろう？」

確かに。 とにかくめくるめくのBL展開にならないようにだけはして欲しい。

「……分かった。俺のエルダーになってくれ」
「交渉成立だな」

そういうとヴィオレットはポケットから小さな箱を取り出す。そして一対のイヤリングを取り出したと思ったら、片方を俺に付けようとしてきた。

慌てて耳を塞いで後ずさる。

「おい！ なんだよ！」
「エルダーの下級生という証拠だ。 この学校では一対のイヤリングを片方ずつ付け合う」
「う、嘘じゃないよな。というか準備良くないか？」
「嘘なわけない。こんなこともあろうかと準備しておいただけだ」

詐欺師を信用しろという方が無理がある。

イヤリングはヴィオレットの瞳の色であるゴールドのトパーズが嵌め込まれていた。結構な大きさだし、なんか輝きが異常な程だ。

俺は渋々ヴィオレットにつけてもらった。

「ま、学園版婚約指輪みたいなものだな」

瞬間、耳がちぎれそうな勢いでイヤリングを外した。

「先に言え！」

意地の悪そうな笑みでヴィオレットは俺を見ていた。

ヴィオレットとのBL展開の外堀が徐々に埋められていっているのは気のせいだと思いたい。