BLしたくない伯爵子息は今日も逃げる

七咲陸

文字の大きさ
上 下
11 / 54

BLの話は聞きたくない

しおりを挟む
「聞いてくれよー!」

ライオドア…いつも明るい笑顔のライが眉尻を下げて俺の家まで来た。
メイド達は初めてのお友達訪問でニコニコしている。が、俺は無表情を通している。
テーブルを挟んでお互いソファに座った所でライが嘆くように叫んだ。

「……嫌だ」
「ええー、そんな事言わず! 婚約したノエルなら聞いてくれると思ってここに来たんだぞー!」
「ぐっ、それは手違いで」

なんつー痛いところを抉ってくるんだコイツは。いや、婚約してる限り抉られ続けるのか。やっぱあの契約書燃やすしかない。

そして伯爵家の自分より家格の上な侯爵家のライへの口調は砕けすぎていて、メイドも少しハラハラしているようだった。

「手違いじゃなくてちゃんと契約書読まなかったせいなんだろー? ノエルって抜けてるとこあんのな」
「……今すぐ帰ってくれていいんだぞ」
「ああー! やっぱ無し! 聞いてくれよー!」

俺はツーンとそっぽを向いた。しかしライは挫けず話を進める。

「実はテーヴと婚約するんだよ」
「……おめでとう」
「全然おめでたくないんだよ!!」
「は?」

お祝いしたくないのに友人だからしてやったんだぞ。
ライとテーヴは両思いだろ。

「テーヴは好きな子が居るらしいんだ」
「はい、解散」
「ええー! なんで!」

あれだろ、これ。好きな子が誰なのか探ってる内に、やっぱり俺じゃダメなんだって涙目になってるところを好きなのはお前だよってなるやつな。
分かってんだよ。展開が。

大体明らかにテーヴはライを意識してたし、この言い方するライもテーヴが好きなのは確定だし。

解散以外の選択肢は無い。

「友達だろー!」
「テーヴはライが好きでライもテーヴが好き。はい解散」
「え! テーヴが好きなのは俺じゃないぞ!」

何言ってんだこいつ。
あんな分かりやすいやつなかなか居ないぞ
テーヴがライを見る目は明らかに優しい目をしてた。

「テーヴが好きなのは俺よりも大人しい……ジナルマー様とかのような人で…」
「ジナルマー様は確かに穏やかな人だけど」
「俺は騒がしいし、ガサツだし、口もあんまり良くないしさ」
「明るくて元気で人懐っこいって言うんだよ」
「へ」
「ライがなんでそんなに自分を卑下するのか分からないけど、テーヴがそう言ったのか?」

俺がライに尋ねると、ライは首をブンブンと横に振った。

「ならテーヴに直接聞けよ。ジナルマー様のことが好きなの?ってな」
「えっ、やだよー! 」
「なんでだよ、ダメなら早く聞いて玉砕しろ」

ただでさえ聞きたくない、友人のBL話を聞いてやっているのに。
ライはぷく、とほっぺたをふくらませたと思えば俺の事を羨ましげに見てくる。

「良いなー…ノエルは上手くいってるみたいだし」
「……何を根拠に上手くいってると思っているのか説明してくれ」
「え? 何って……そのブレスレットだよ」

先日の誕生日でヴィオレットから貰ったブレスレットだった。金色のチェーンにエメラルドの宝石のそれは、明らかに婚約者が居ますと示していた。

「……っ!」

外すのを失念していた。
最初は不自然な気がしてつけたり外したりしていた。しかし今やシャワーに当たっても大丈夫な金属を使っていることを知ってからは、外す手間を惜しむようになり、徐々に付けている抵抗は無くなったのだ。

決して! 俺が! 望んで付けているわけではない!

「赤くなってかわいいなー、ノエルは」
「んな! 俺のことはどうでもいいだろ!」
「ヴィオレット様がそんな執着見せてくるなんて信じられないよ。ジナルマー様以外にね」
「早く飽きてくれ!」

俺は女の子と結婚したい!
あんな13歳の割に、頭もよく回り、人を破滅に追い込み、背も体格も顔も恵まれてるようなやつ、地獄に落ちてくれ!

「…ヴィオレット様のことを狙ってる人沢山いたんだよ?」
「俺は狙ってない」
「そうかもだけど、こう……自慢じゃないけどそういう風に思わないの?ノエルって」
「なんの自慢だ、俺は女にモテたい!」
「ノエルの顔じゃ、女の子にモテるのは無理があるよー」

ライの言葉であからさまに落ちこむ。

「そんなことより!テーヴの話だろ!」
「はー……でもどうしようもないだろー? テーヴが好きなのは俺じゃないだろうし」
「はぁ? さっきも言ったけど…」
「何の話だ?」
「ひっ」

俺の背後から耳元で囁くように言うのは、振り向かなくてももう分かる。ゾッとした。

耳を手で押えて、振り返るとそこに立っていたのはヴィオレットだった。
なんで俺の家なのに来たことを誰も教えてくれないんだよ!

「ヴィオレット様! ノエルに会いに来たんですか?」
「ああ、婚約者殿の様子を見に来た」
「来なくていい見なくていい帰れ!」

ニヤニヤと見てくるヴィオレットに俺が帰れと言うと、メイドはライの時以上にハラハラしていた。
そりゃ公爵家だしな。 当たり前よな。

「こら! ヴィオレット様になんて口の利き方をしているの!ノエル!」
「は、母上……っ、これは……!」

気づかなかったがセドがその後ろに居たらしく、叱られてしまった。
俺は滅多に叱られないのに、ヴィオレットのせいで怒られてしまった。奴はニヤニヤし続けている。本気でムカつく。

「言い訳は無用! 謝りなさい!」
「ぐっ…」

セドには逆らえない俺は、ヴィオに謝るしかない。

「ああ、謝らなくてもいいぞ? 謝罪1回につきハグ1回はどうだ?」
「申し訳ありませんでした、以後口調に関しては最大限気をつけさせていただきます」
「は、早口だなー…」
「全くもう!」

ヴィオレットのやつがめちゃくちゃ楽しんでやがる! くっそ!
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

堕とされた悪役令息

SEKISUI
BL
 転生したら恋い焦がれたあの人がいるゲームの世界だった  王子ルートのシナリオを成立させてあの人を確実手に入れる  それまであの人との関係を楽しむ主人公  

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...