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チョコが溶けて、魔法がかかる

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「ジナルマー、そろそろお開きにしよう」

あれからしばらく歓談して、ベネテッド公爵夫人が来て、ジナルマーに伝える。
すぐに了承したジナルマーは、解散を伝えた。

ライとテーヴはやっぱり少し漫才のような言い合いをしながらお互いの母親の所へ向かっていた。
ジナルマーもベネテッド公爵夫人と話している。

俺も、セドの所へ向かおうとした。椅子を降りていると、俺の身体に一回り大きな影が差したので見上げた。
影の原因はヴィオレットだった。

近くで見ると、やはり体格も13歳だと6歳の俺とは違い、肩幅も大きく背も高い。それに、クリスのような凛々しさも見られる。
多分、もう少し歳をとったら精悍さも相まってテレビでよく見る俳優並みのイケメンになるだろう。

そんな男もジナルマー過激勢なせいで、幾分か損している気がする。

「……これを食べてみるといい」
「え?」

ヴィオレットに差し出されたのは、お茶会中には無かったチョコレートのようだった。
アーモンドが上に乗った、小さなチョコだ。
立って食べるのは行儀を気にする貴族では少し気が引けたが、目の前にいる男からは食べろ、という圧を感じる。

「あ、ありがとうございます……」

仕方なしに、口に頬張ることにした。

アーモンドの香りがぶわりと広がる。
それと同時に、口内の温かさでとろけるチョコはミルクが多めなのかかなり甘めの味がする。
際立つのはミルクの味だけではない。
カカオの風味も負けじと口内に残り続け、溶けてなくなってしまったにも関わらず、ミルクとカカオの最高の融合がジン、と染み渡るようだった。

「美味しい……!」

素直な感想だった。 
久しぶりに、日本にいた時のその辺のスーパーで売っていそうな、それでいてどの高級チョコにも負けないような味に感動した。

そう、俺はこういう味を求めていた。

「……そんな、顔をするんだな」

は。

「ありがとうございました。ご馳走様です。それでは」

やばいやばいやばい。
絶対、一瞬、頬が上がった気がした。
ジナルマー過激勢がどうして俺に興味を持ったのか知らないが、今すぐその興味を消してくれ。

スっと無表情に戻して、内心冷や汗をかいている俺は、すぐにセドの所へ早足で向かった。



「どうしたの?兄様」
「本当に美味しいものを食べたらどうなるのかと見たくなって…」
「あ、あのチョコ? あれ美味しいけど、あんまり手に入らないのに。兄様どこから……」
「見たか? あの顔」
「顔? 誰の?あ、まさかノエルに食べさせてたから、ノエルの笑った顔でも見たの?」
「……天使がいた」
「……ええ?! 兄様どうしたの!」
「天使だ」
「えええ……! 母様! 兄様が壊れました!」
「ほ、本当だね。 ヴィオレットがそんなことを言うなんて…」
「天使……」

俺はこんな会話が繰り広げられていたなんて知らない。

知らないったら知らない!
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