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逃げるための策

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あれから、俺は6歳になった。
俺はあの意識を得た瞬間を【覚醒】と呼んでいる。

【覚醒】後、あのセドとクリスが夫婦であることを知った。いや、夫夫でふうふと読むのか。

そしてさすがに俺の目の前では事を致さなかったが、隣の部屋から声が漏れてきて最悪だった。
なにが悲しくて「あん! だめぇ!」って男の喘ぎ声を聞かねばいかんのか。
ちなみにセドが受ける側だった。まぁ見た通り儚げな雰囲気で、綺麗な男だし。クリスは凛々しくてカッコイイ感じだしな。

「ノエルー、遠くまで行っちゃダメだよー」

セドの声が後ろから聞こえてくる。
庭だぞ、自分の家の。庭で遠くってありえないだろって思うじゃん?

いや、広いんだよ。庭が。

おかしいんだよ、日本の一般家庭の庭じゃないんだよ。
皇居周辺の公園かってくらい広いんだよ。
クリスはこの国の王なのか、と思ったがそうではなく、どうやら貴族のようだった。伯爵って位らしい。

「わかった」

とりあえず、俺は良い子を演じることにしている。

なぜならこの世界のことが全く分からなかったし、2人の庇護下に置かれている現状ならば、悪いことにはならないと思ったからだ。

突然俺の事を放り出すとも思えないが、やはり良い子にしておくに限る。怒られたくはないしな。
現に、大きく叱られたことは一度もない。セドもクリスも優秀な子供だと思っている。

そりゃそうだ。17歳の歴史が刻まれた魂が宿っている。それなりに世渡り上手でなくてはならない。

「ノエル、今日は何するの?」
「鬼ごっこ!」

そして俺は体力をつけることにした。

その理由として、この世界には男同士で結婚出来るという法律があることを知ったからだ。

俺はなんと運が悪いことに母親似だった。
セドの儚げな美しい顔、金の髪に碧の瞳…小さい頃のセド瓜二つの俺にクリスはデレデレだった。
あのイケメンのクリスがデレデレであるということは、一定数男を惹き付ける顔である予感がしたのだ。
俺は6歳ながらに身の危険を感じた。

いつか逃げる必要がある時に、体力がなくて逃げられませんでした。そのまま食われました。なんてことにならないようにするために、体力をつける決意をした。

「……オニ?」

鬼が存在しないこの世界では、鬼ごっこというものがないらしい。

「お、追いかけっこ!」

マズいと思い、違う名前に変えるとセドは言い間違えだと思ってくれたらしい。セーフ。

セドは納得すると、俺を追いかけるフリをしてくれた。
俺は日本男児だった時はバスケ部のガードをしていた。脚力と体力は自信がある。
勘を取り戻せば良いだけだ。そして、俺はセドもビックリの走りを見せたのだ。

「え……! ノエル早い!」
「母上! もっと早くー」
「ちょ…、嘘でしょ?」

メイドの皆さんもビックリしていた。ちょこまか走ってはいるなーって思っていただろうけど、全力で走った所は初めて見せたのだ。
バスケ部主将のガードの走りをナメるな。いや、6歳の脚力にしては早いって程度なんですけどね。

「はぁはぁ……ノエル、凄いね…クリスと追いかけっこした方が、ノエルの為になりそう……」
「父上は歩幅が違う。勝てない」
「……母上も一応歩幅違うんだよ?」
「母上は体力がない!」

俺に断言され、セドはめちゃくちゃ落ち込んでしまった。メイドの皆さんも付き合わせてすみません。みんな汗だくだ。
これはこれで、健康に良いんじゃないだろうか。俺は定期的に追いかけっこをみんなとしようと決めた。

その後、セドは追いかけっこをする時に嫌そうな顔をするようになったので、俺はオネダリを覚えた。
セドは息子のお願いは良く聞いてくれる。
良い子にしていたお陰だ。
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