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番外編
知りたい side シルヴァ
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シルヴァ=コールフィールドは辺境にきた新人たちへ挨拶をしていた。
騎士団団長であるエドガーと魔法師団団長シルヴァは新人への案内を行う必要がある。
辺境にくる新人は、本当の意味での新人は少ない。何かしら理由があって辿り着くものが多い。
今回の新人も、何かしら理由があって辿り着いたもの達の集まりだった。
「なんで俺が辺境なんか……」
新人騎士がブツブツと、聞こえる声量で言うのは青い証拠だ。別に咎めたりはしない。エドガーも同じ気持ちのようだった。
というよりか、周りの騎士たちも、『あー、俺にもあんな頃あったなぁ』なんて温い目で見ている。
辺境区域といえど、ずっと魔獣と対峙している訳では無い。大体が訓練の日である。
それでも、王都にいるよりは明らかに危険ではあるのだが。
半年も経てば、新人皆大体丸くなる。
辺境の空気になれるからなのか、思ったより充実した生活を送れるからなのか、多分理由はそんなくらいだろう。
だから今回も、大きな問題なく新人教育は済むと思ったのだ。
「めちゃくちゃ美人の事務員が居るって本当ですか」
あの時、ブツブツと言っていた新人騎士だった。
1ヶ月ほど立って現場にも慣れてきたのだろうか。顔つきは前より若干マシになっているようにみえる。
なんとなく馴れ馴れしい気もするが、シルヴァは気にしないことにした。
「……ああ、居るけど。サシャは人妻だよ。手なんか出したらアーヴィンに殺されるだろうね」
「げっ! アーヴィン先輩のコレっすか……! あーじゃあしょうがないっすねぇ」
サシャは新人誰しもが通る登竜門のようなものだ。 あの美貌を見て、目の色を変える者は少なくないどころか、多すぎるほどだ。
その度にアーヴィンの牽制が入っている。
新人騎士はまたブツブツなにか言いながら、シルヴァのもとを離れた。
翌日、コリンから『人魚の涙、19時』の連絡が入る。
またしても重石のようなものを感じながらいつものバーで待つことにした。
「……遅いな」
コリンは締切破り常習犯で名を通しているが、シルヴァとの約束に遅刻したことはなかった。
時間より既に30分ほど経っていた。
すると、コリンからまたしても連絡が入った。
「……今日は行けない?」
謝罪と共に、そんな連絡が入った。
そんなことはここ4ヶ月で初めての事だった。
締切がいくら過ぎようとも気にしないコリンだが、遅刻や約束を破ることは初めてだったのだ。
そういう日もあるか、と思った。
しかし、なんとなく、本当にただなんとなく思い立って、シルヴァは職場に戻ることに決めた。
もしかしたら、締切が本当に破れないものがあってまだ仕事をしている可能性もある。
夜食でも持って行ってあげようと、道すがら食事を買って向かった。
事務室の近くまで行くと、やはりまだ明かりがついていた。
そして、声が徐々に聞こえてくる。
「……え、お……お……を知ってるんだろ」
「…だから、なに?」
「はは! あのクソ親父、やっぱクソだったか!」
ブツブツといつも言う新人騎士の声のようだった。話している相手はコリンのようだ。
「お前のその怯えよう。俺には分かるぜ? 男の恐怖を知ってる怯え方だろ?」
「……」
「親父が使ってたんだ。俺だって良いだろ? ……お前が拒否ったら、次はもう1人の方を選ぶだけだ」
「クズすぎない? サシャは無理だと思うよ、アーヴィンがあんたを殺すから」
「へぇ。じゃあお前はどうなんだよ」
「……私に手を出すなら傷は付け」
「なんの話をしているんですか!」
話の流れがわかるまで黙ってしまった。
コリンの諦めたような声色に怒りが湧いて、気づいたら声が出ていた。
コリンも新人騎士も驚いてこちらを一斉に見る。
新人騎士はシルヴァの姿を見た瞬間、事務室から逃げ出し、どこかに行ってしまった。
シルヴァはわざわざ追いかけることはしなかった。顔は分かっているし、明日でも対処は可能だと思ったからだ。
それよりも、目の前の問題だった。
「……どういうことですか」
「聞いてた通りじゃない?別に、シルヴァが気にすることじゃないよ」
「君が、無理やり手篭めにされているのを黙って見ていろと?」
桜色の髪が揺れ、青みがかったピンクのモルガナイトが逸らされる。
シルヴァは自分でもどうして怒っているのかよく分からなかった。
「それより、約束、悪かったよ。私から言い出したのに。 また今度連絡するから、今日は帰ろう」
「そんなことはどうでも良いでしょう!」
「どうでも良くないよ。シルヴァ、私のことは良いから、もう帰ろう。明日エドガーには私から言うから」
コリンは俯いたまま、シルヴァの横を通り過ぎようとする。
シルヴァはコリンの腕を掴んだ。
「待ってください。君はどうして僕の相手をするんですか」
「……それ、今聞く?」
「ええ、今だから聞きます。 さっきの新人と僕はやってることに大差なさそうなので」
「あはは、大差あるでしょ。向こうは無理やりで、シルヴァは私が望んでるんだから」
俯いたまま、コリンは話す。つい掴んだ手を強く握ってしまう。
「シルヴァ、私のことは良いんだよ。上手く使ってよ」
「イヴの代わりにですか。 じゃあ君がイヴの代わりをする理由を教えてください。でなければ到底納得できません」
「真面目だなぁー、もう。別に教える義務はないよ」
コリンが顔を上げて、モルガナイトの瞳を揺らす。
ピンクなのに、ほのかな青さに目を奪われていく。
「……ならば、もう終わりにしましょう。君が本心を言わないなら、この関係は終わりです」
「っ、そ、う。分かった。仕方ないねぇ、楽しかったよ」
コリンの腕を離した。掴んだ腕から伝わった熱が、急速に冷えていくのを感じながら、コリンの背中を見えなくなるまで見ていることしか出来なかった。
騎士団団長であるエドガーと魔法師団団長シルヴァは新人への案内を行う必要がある。
辺境にくる新人は、本当の意味での新人は少ない。何かしら理由があって辿り着くものが多い。
今回の新人も、何かしら理由があって辿り着いたもの達の集まりだった。
「なんで俺が辺境なんか……」
新人騎士がブツブツと、聞こえる声量で言うのは青い証拠だ。別に咎めたりはしない。エドガーも同じ気持ちのようだった。
というよりか、周りの騎士たちも、『あー、俺にもあんな頃あったなぁ』なんて温い目で見ている。
辺境区域といえど、ずっと魔獣と対峙している訳では無い。大体が訓練の日である。
それでも、王都にいるよりは明らかに危険ではあるのだが。
半年も経てば、新人皆大体丸くなる。
辺境の空気になれるからなのか、思ったより充実した生活を送れるからなのか、多分理由はそんなくらいだろう。
だから今回も、大きな問題なく新人教育は済むと思ったのだ。
「めちゃくちゃ美人の事務員が居るって本当ですか」
あの時、ブツブツと言っていた新人騎士だった。
1ヶ月ほど立って現場にも慣れてきたのだろうか。顔つきは前より若干マシになっているようにみえる。
なんとなく馴れ馴れしい気もするが、シルヴァは気にしないことにした。
「……ああ、居るけど。サシャは人妻だよ。手なんか出したらアーヴィンに殺されるだろうね」
「げっ! アーヴィン先輩のコレっすか……! あーじゃあしょうがないっすねぇ」
サシャは新人誰しもが通る登竜門のようなものだ。 あの美貌を見て、目の色を変える者は少なくないどころか、多すぎるほどだ。
その度にアーヴィンの牽制が入っている。
新人騎士はまたブツブツなにか言いながら、シルヴァのもとを離れた。
翌日、コリンから『人魚の涙、19時』の連絡が入る。
またしても重石のようなものを感じながらいつものバーで待つことにした。
「……遅いな」
コリンは締切破り常習犯で名を通しているが、シルヴァとの約束に遅刻したことはなかった。
時間より既に30分ほど経っていた。
すると、コリンからまたしても連絡が入った。
「……今日は行けない?」
謝罪と共に、そんな連絡が入った。
そんなことはここ4ヶ月で初めての事だった。
締切がいくら過ぎようとも気にしないコリンだが、遅刻や約束を破ることは初めてだったのだ。
そういう日もあるか、と思った。
しかし、なんとなく、本当にただなんとなく思い立って、シルヴァは職場に戻ることに決めた。
もしかしたら、締切が本当に破れないものがあってまだ仕事をしている可能性もある。
夜食でも持って行ってあげようと、道すがら食事を買って向かった。
事務室の近くまで行くと、やはりまだ明かりがついていた。
そして、声が徐々に聞こえてくる。
「……え、お……お……を知ってるんだろ」
「…だから、なに?」
「はは! あのクソ親父、やっぱクソだったか!」
ブツブツといつも言う新人騎士の声のようだった。話している相手はコリンのようだ。
「お前のその怯えよう。俺には分かるぜ? 男の恐怖を知ってる怯え方だろ?」
「……」
「親父が使ってたんだ。俺だって良いだろ? ……お前が拒否ったら、次はもう1人の方を選ぶだけだ」
「クズすぎない? サシャは無理だと思うよ、アーヴィンがあんたを殺すから」
「へぇ。じゃあお前はどうなんだよ」
「……私に手を出すなら傷は付け」
「なんの話をしているんですか!」
話の流れがわかるまで黙ってしまった。
コリンの諦めたような声色に怒りが湧いて、気づいたら声が出ていた。
コリンも新人騎士も驚いてこちらを一斉に見る。
新人騎士はシルヴァの姿を見た瞬間、事務室から逃げ出し、どこかに行ってしまった。
シルヴァはわざわざ追いかけることはしなかった。顔は分かっているし、明日でも対処は可能だと思ったからだ。
それよりも、目の前の問題だった。
「……どういうことですか」
「聞いてた通りじゃない?別に、シルヴァが気にすることじゃないよ」
「君が、無理やり手篭めにされているのを黙って見ていろと?」
桜色の髪が揺れ、青みがかったピンクのモルガナイトが逸らされる。
シルヴァは自分でもどうして怒っているのかよく分からなかった。
「それより、約束、悪かったよ。私から言い出したのに。 また今度連絡するから、今日は帰ろう」
「そんなことはどうでも良いでしょう!」
「どうでも良くないよ。シルヴァ、私のことは良いから、もう帰ろう。明日エドガーには私から言うから」
コリンは俯いたまま、シルヴァの横を通り過ぎようとする。
シルヴァはコリンの腕を掴んだ。
「待ってください。君はどうして僕の相手をするんですか」
「……それ、今聞く?」
「ええ、今だから聞きます。 さっきの新人と僕はやってることに大差なさそうなので」
「あはは、大差あるでしょ。向こうは無理やりで、シルヴァは私が望んでるんだから」
俯いたまま、コリンは話す。つい掴んだ手を強く握ってしまう。
「シルヴァ、私のことは良いんだよ。上手く使ってよ」
「イヴの代わりにですか。 じゃあ君がイヴの代わりをする理由を教えてください。でなければ到底納得できません」
「真面目だなぁー、もう。別に教える義務はないよ」
コリンが顔を上げて、モルガナイトの瞳を揺らす。
ピンクなのに、ほのかな青さに目を奪われていく。
「……ならば、もう終わりにしましょう。君が本心を言わないなら、この関係は終わりです」
「っ、そ、う。分かった。仕方ないねぇ、楽しかったよ」
コリンの腕を離した。掴んだ腕から伝わった熱が、急速に冷えていくのを感じながら、コリンの背中を見えなくなるまで見ていることしか出来なかった。
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