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番外編
重い鎖 side コリン
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コリン=イェルリンはサシャ=イブリックを宥めた。
「コリンさん! 勝手に締切が伸びるって言わないでください! 一体どれだけ伸ばしてると思ってるんですか!」
「まぁまぁ、サシャは今日の分の事務手続きをやっといてよ。ちょっと連絡してくるからさ」
「コリンさん!」
サシャがこんな締切の鬼になったのは、コリンのせいだという自覚はある。
今まで1人で事務をやっていた弊害で、締切は破るものという感覚が抜けないのだ。
そんなコリンの反面教師として、サシャは育ってしまったようだった。
サシャの夫であるアーヴィン=イブリックにも愚痴っているようだが、アーヴィンはサシャを上手に宥めているらしい。
連絡するのは簡単だ。
魔法で連絡を取り合うだけである。
ただし、向こうはコリンが締切破りの常習犯であることは良く良く理解しており、小一時間説教を食らうのは間違いなかった。
それでも最後はなんとか締切を伸ばす交渉をさせてもらえるので、説教くらいなんでもないのだ。
そうして、今日も締切破りのコリンは、締切を伸ばすことに成功する。
「サシャ、あと2週間伸びたから伝えといてー」
「え!? 2週間?! 私の時は1日とか2日とかしか言わないのに!」
「あはは、修行が足りんよー」
「うぐぐ……!」
本気でサシャは悔しそうだった。
伊達に8年以上事務経験がある訳では無い。サシャなんかコリンに比べたらまだペーペーだ。
「いつも通り、伝えてねー」
「……私は構いませんけど、コリンさんの手柄なんですから、コリンさんが伝えた方が」
「あーそういうの、別に要らないから。 サシャ、私帰っちゃうよー?」
「ちょっと! 帰らないでください!」
サシャは慌てて魔法師団の方へ駆けていく。
コリンに決済して欲しいものがいくつかあるのだろう。コリンとしてはサシャを虐めたい気持ちが芽生えてくるが、あまり虐めすぎるとサシャはアメジストの瞳を潤ませてしまうのだ。
それに、サシャが伝えた方が魔法師団の連中も良く言うことを聞く。
いい加減なコリンより信用のあるサシャの方が良いのは当たり前のことだ。
きっとサシャは、「今度こそ締切破らないで下さいね!」と迫力のある綺麗な顔をさせて言っているに違いない。
仕事が終わり、たまたまエドガーと廊下でばったり出くわした。
騎士は苦手だし、団長室の思い出も良くないが、エドガーとは普通に会話できるようにまでなっている。
「久しぶりだねぇ、元気?」
「同じ職場にいるのに変な挨拶だな」
「あはは、君のところはサシャが甲斐甲斐しくお世話しに行ってるから、行く必要がないしねぇ」
サシャは、エドガーに「よくここまで来てくれた」とアーヴィンに傷つけられて辺境に来た時に言われ、それからは父親のように思っているらしい。
まだサシャのような年齢の子供を持つには早い年齢なのに、難儀な事だ。
「事務の方はなんとかなってるのか」
「まぁサシャがだいぶ育ったからね、私が居なくなってももう平気なくらいだよ」
「それは困るな。コリンが居なくなったら、誰が締切の延長をするんだ?」
「私の価値そこだけー?」
「それ以外は不真面目だと聞いてるが?」
「あはは。 真面目にやっても仕方ないしねぇ」
そういうと、エドガーはほんの少しだけ険しい顔つきになる。
「……お前の過去は、こびり付いて剥がれていかないな」
「なかなかね。 こればっかりはどうしようもないって諦めてる」
「コリン、俺はお前をちゃんと尊敬している」
真っ直ぐみてくる瞳に、コリンの姿が映る。
エドガーの人たらしのような言葉に、コリンは居心地が悪くなる。
「だから、まだ諦めるな。お前は腐らず頑張ってきたことを俺は知ってる。今は……ただ休んでるだけだ」
「そりゃ……どうも。」
「いつか、お前の過去を引きずる鎖が外れる瞬間が来るだろう。その役目が、誰なのかは分からないけどな」
「……きっと、それは……だいぶ先のことだよ」
「そうか。 ここには、居ないのか」
「そうだね。 居ないよ。 だからあんまり期待しないでねぇ」
エドガーはため息をつく。 苦笑のような顔に、コリンはそれ以上何も言えなかった。
「……俺は、期待してたんだがな。なかなか上手くいかないもんだ」
そう言って、エドガーはコリンの横を通って騎士団を後にした。
「コリンさん! 勝手に締切が伸びるって言わないでください! 一体どれだけ伸ばしてると思ってるんですか!」
「まぁまぁ、サシャは今日の分の事務手続きをやっといてよ。ちょっと連絡してくるからさ」
「コリンさん!」
サシャがこんな締切の鬼になったのは、コリンのせいだという自覚はある。
今まで1人で事務をやっていた弊害で、締切は破るものという感覚が抜けないのだ。
そんなコリンの反面教師として、サシャは育ってしまったようだった。
サシャの夫であるアーヴィン=イブリックにも愚痴っているようだが、アーヴィンはサシャを上手に宥めているらしい。
連絡するのは簡単だ。
魔法で連絡を取り合うだけである。
ただし、向こうはコリンが締切破りの常習犯であることは良く良く理解しており、小一時間説教を食らうのは間違いなかった。
それでも最後はなんとか締切を伸ばす交渉をさせてもらえるので、説教くらいなんでもないのだ。
そうして、今日も締切破りのコリンは、締切を伸ばすことに成功する。
「サシャ、あと2週間伸びたから伝えといてー」
「え!? 2週間?! 私の時は1日とか2日とかしか言わないのに!」
「あはは、修行が足りんよー」
「うぐぐ……!」
本気でサシャは悔しそうだった。
伊達に8年以上事務経験がある訳では無い。サシャなんかコリンに比べたらまだペーペーだ。
「いつも通り、伝えてねー」
「……私は構いませんけど、コリンさんの手柄なんですから、コリンさんが伝えた方が」
「あーそういうの、別に要らないから。 サシャ、私帰っちゃうよー?」
「ちょっと! 帰らないでください!」
サシャは慌てて魔法師団の方へ駆けていく。
コリンに決済して欲しいものがいくつかあるのだろう。コリンとしてはサシャを虐めたい気持ちが芽生えてくるが、あまり虐めすぎるとサシャはアメジストの瞳を潤ませてしまうのだ。
それに、サシャが伝えた方が魔法師団の連中も良く言うことを聞く。
いい加減なコリンより信用のあるサシャの方が良いのは当たり前のことだ。
きっとサシャは、「今度こそ締切破らないで下さいね!」と迫力のある綺麗な顔をさせて言っているに違いない。
仕事が終わり、たまたまエドガーと廊下でばったり出くわした。
騎士は苦手だし、団長室の思い出も良くないが、エドガーとは普通に会話できるようにまでなっている。
「久しぶりだねぇ、元気?」
「同じ職場にいるのに変な挨拶だな」
「あはは、君のところはサシャが甲斐甲斐しくお世話しに行ってるから、行く必要がないしねぇ」
サシャは、エドガーに「よくここまで来てくれた」とアーヴィンに傷つけられて辺境に来た時に言われ、それからは父親のように思っているらしい。
まだサシャのような年齢の子供を持つには早い年齢なのに、難儀な事だ。
「事務の方はなんとかなってるのか」
「まぁサシャがだいぶ育ったからね、私が居なくなってももう平気なくらいだよ」
「それは困るな。コリンが居なくなったら、誰が締切の延長をするんだ?」
「私の価値そこだけー?」
「それ以外は不真面目だと聞いてるが?」
「あはは。 真面目にやっても仕方ないしねぇ」
そういうと、エドガーはほんの少しだけ険しい顔つきになる。
「……お前の過去は、こびり付いて剥がれていかないな」
「なかなかね。 こればっかりはどうしようもないって諦めてる」
「コリン、俺はお前をちゃんと尊敬している」
真っ直ぐみてくる瞳に、コリンの姿が映る。
エドガーの人たらしのような言葉に、コリンは居心地が悪くなる。
「だから、まだ諦めるな。お前は腐らず頑張ってきたことを俺は知ってる。今は……ただ休んでるだけだ」
「そりゃ……どうも。」
「いつか、お前の過去を引きずる鎖が外れる瞬間が来るだろう。その役目が、誰なのかは分からないけどな」
「……きっと、それは……だいぶ先のことだよ」
「そうか。 ここには、居ないのか」
「そうだね。 居ないよ。 だからあんまり期待しないでねぇ」
エドガーはため息をつく。 苦笑のような顔に、コリンはそれ以上何も言えなかった。
「……俺は、期待してたんだがな。なかなか上手くいかないもんだ」
そう言って、エドガーはコリンの横を通って騎士団を後にした。
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