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理人×雅

side雅

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  次の日からというものの、紫桃雅(しとう みやび)は春永理人(はるなが りひと)を徹底的に避けた。

  とにかく避けた。
  声をかけられそうになったら小走りで走り、違う人に声をかけ、聞いてないふりをした。
  他の看護師やスタッフ達にも不思議がられたが、春永先生は恐らくその辺り上手くやってくれていたのか追求はされなかった。

  怖い。あんな風に人を快楽で変えることが出来るなんて。医者か?医者だからなのか?いやそんな全ての医者があんな…いや、もう、あの時の自分は酒でおかしくなってたせいだ。絶対そうだ!

「……紫桃くん、大丈夫? 百面相だけど」
「大丈夫です!」

  隣でカルテを打つ同僚に訝しがられ、慌てて返事をする。

  何日か経っているのに強烈なあの日の出来事が頭から離れない。正確には気を抜いた一瞬で思い出す。忙しければ何ともないが、仕事の嵐が過ぎ去るとまた台風のようにやってくる。厄介な記憶だった。

あははと誤魔化して笑う。すると、後ろから声がかかった。

「紫桃、点滴変えたから」
「え? あ、はい」

  加藤先生だった。 

  誰の、とか、いつの、とか全然言わないが点滴ラベルを渡してくれたのでまぁいいかと思うことにした。

  あれ以来加藤先生とはあまり話してない。向こうも大人だし、仕事だからと水に流してくれているのかもしれない。
  折を見て、熱くなりすぎたと謝らなくてはと思うが普段の調子と同じ感じ過ぎてわざわざ蒸し返すことも出来なかった。

「……また?」
「はい…また……」

  同僚が自分以上に嫌そうな顔をして渡された点滴ラベルを見た。電子カルテの近くにある準備した点滴と見比べ、同僚はため息をついた。

「何それ。ほとんど一緒じゃん。変える必要なくない? 検査して決めた訳でもないのに」
「…でも、指示なので」
「無駄な仕事させたいだけじゃん。あーほんとアイツ面倒くさ。一緒に確認したげるから準備しておいで」
「……すみません」

  加藤先生は態度を変えることはないけれど、度々こうやって嫌がらせのようなことをするようになった。
  そう考えると水に流してないのかもしれないけれど、態度が普通なので判断しかねている。

  点滴はもちろん、注射も薬も指示も。勤務が始まる前に拾った情報とは違った指示を出されてしまう。

「……師長に言った方が良いよ」
「でも、普通なんですよ。自意識過剰なのかも」
「……それにしてはウザイくらい指示変えてくるけどね。私は紫桃くんのミスを待ってるようにしか見えない。最低。一番迷惑受けるのは患者なのに。ほら、点滴持ってきて」

  同僚も少し熱い所がある人で、その言葉に苦笑する。
  波風立てないように無理に庇おうとはしないけれど、こうやってフォローしてくれるのでありがたい。

  同僚の言う通り、これが本当に嫌がらせならばまだこの位は耐えられる。自分は新人ではないし、指示されればその通りに動く事くらい可能だ。

  新たな点滴を準備してため息をついた。とぼとぼと同僚の所へ戻ると、大きくため息をついた同僚が紙を一枚目の前に出てきた。

「……また変更だって。これでも嫌がらせじゃない?」

  今持ってきた点滴が無駄になった瞬間の出来事だった。
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