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理人×雅
side理人
しおりを挟む「聞いてますか!! 春永先生!!」
「うんうん聞いてますよ」
だん!!と思い切りテーブルにビールジョッキを下ろし、管を巻く彼が面白くて仕方なかった。
ちなみに紫桃が飲んだビールはこのジョッキ半分のみだ。
医者だから高いところに連れていかれるのかとビクビク怯えながら連れていったのは安いチェーン店の居酒屋だ。
その方が紫桃がリラックスしてペラペラ話すと思っていたが、予想通り酔っぱらいの完成は早かった。
顔は真っ赤、耳も首もだ。目も潤み、完全な酔っぱらいと化していた。
「あの患者さんは、まだ帰っちゃダメなんです!!」
「だからどーしてってば。教えてくんないじゃん」
「言えないんだってばばかやろぉ!」
しかしさっきからずっとこれである。
酔わせれば本音も出てくるかと思ったがなかなか吐かない。このままでは別の意味で吐きそうな勢いで酔っている。まさかここまで弱いとは思ってもみなかった。
勢いの良かった紫桃は、はぁ、と息をはき、机に頬を付けて呟いた。
「センセーはさぁ……なんで医者になったの……」
ありがちな質問だ。
合コンに連れていかれる度に女の子たちから聞かれてきた。
「なんでって。給料は良いし、親が医者だし、なれる学力があったからかなぁ」
大抵こう答えることにしている。変に謙遜すると女の子たちはまだしも、男は変にプライドがあるのか敵視されることがある。
紫桃も看護師とは言え男である。あまり職場で面倒なことになりたくない。
「……ふーん、なんだ。心臓外科だし……もっと凄い夢とかあるのかと思った……」
「夢? あー……まぁ、夢、ねぇ……」
紫桃は俺に何を求めているのだろうか。
目を真っ赤にして頬をピンクに染めながら、ジョッキの結露を指先でなぞっている。その姿がやけに色っぽく見えるのは、俺も酔っているのだろうか。
「じゃあしとーくんは?」
「おれ?おれはぁ」
尋ねられるとジョッキに向けていた目を俺に合わせた。その瞳が酔っ払っているせいかキラキラと煌めいている。
「俺は、沢山の人に助かって欲しい。頭も良くないし、お金もないから医者にはなれなかったけど…でも沢山助けたい」
「へぇ。そりゃ素晴らしい」
「……ばかにしてんだろ」
「してないしてない」
ムッと頬を膨らませた。さっきからコロコロと表情が変わって飽きない。
「俺もそんな風に夢があれば、優しくなれたのかもね」
「? はるながせんせーはやさしいですけど」
「そう見せてるだけだよ」
徐々にトロンと瞳の形を溶かしていく姿につい苦笑する。彼は誰にでもこんな無防備なのだろうか。普段の彼はポメラニアンが恐怖にキャンキャンと鳴いている様子にそっくりなくせに、今や剥いていたハズの牙が削ぎ落とされている。
あーあ、この子ダメだなぁ。
「ところで、話は変わるけど」
俺が切り返すと目だけ机とジョッキから離して俺を見つめてくる。見上げてくる瞳は酔って潤みが強い。
「紫桃くんは男も女もイける派?」
「…………はあ?!?!」
反応に時間はかかったけれど、聞かれた内容は理解したようだった。立ち上がって背を反らし、驚きに満ちていた。
「ちなみに俺は可愛ければどっちでも良いんだけど」
「な……、な……!」
酔っぱらいとは違う頬の赤みに、話の流れを察したようだ。
「どう? 多分俺、上手いと思うけど」
酒はほとんど飲んでないし、勃つ。余裕で。
華奢で小柄で、悪い男にすぐ捕まりそうな顔してる。
まさかそんな誘われ方をするとは思ってなかったのか、紫桃は口をパクパクとしながら声にならない声を出していた。
嫌悪感がないならイける。
「看護師って、ストレスヤバいもんね。発散するだけだよ。いこ」
席を立ち、会計を済ませて紫桃をタクシーにポイッと放り込む。抵抗する暇すら与えず、タクシーに俺も乗り込んでホテルの行き先を伝えた。
その間も紫桃は顔を真っ赤にして俯き、グルグルと目を回しているようだった。
面白いからイタズラしようとシートに置いてある手に俺の手を載せると、ビクッと肩を揺らした。
「……っ」
めちゃくちゃ意識してる。流されるだけではなく意外にも乗り気なのかもしれない。
早く着かないかな。
紫桃の細い指をなぞりながらそう思った。
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