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廉×碧
宣告
しおりを挟む「糖尿病だね」
無機質な部屋で目の前の白衣を着たおじいちゃん先生に言われた言葉は思いもよらぬ単語だった。
「……え?」
「だから、糖尿病。分かる?おしっこから糖が出ちゃう病気」
驚きすぎて一瞬呼吸を忘れた。けど、おじいちゃん先生は俺の心境を特に気にかける様子もなく続けようとする。
名前は知っている。だって、俺のばあちゃんが大の甘党で糖尿病だったのだから。いっつも『今日も血糖値高いって言われちゃったー、でも薬飲んだからお饅頭食べていい?』って感じだった。
でもそれは、ばあちゃんだ。人生長く生きてれば病気の一つや二つある人にはあるだろうことは俺だって分かるのだ。けど俺はまだまだ花の高校生。
「今の時期、スポーツドリンク沢山飲んだでしょ? あー今どきの子はあれか。翼授けちゃうドリンクか、がはは。アレ飲みすぎたでしょ。ダメだから。もう飲まないでね」
「……え? え?」
「え、じゃないよ。糖が高いんだから。糖分控えないとダメだよ」
スポーツドリンクも栄養ドリンクもほとんど飲まない。甘いものだってそんなに好きなほうじゃない。なのに控えろって。
てか俺って太ってないけど。太ったことない。いや、筋肉も付きにくいからなのか無いけど。
「ま、とりあえず、食事制限から始めよう。ご飯の量減らして。分かった?」
「……は、はい……」
おじいちゃん先生は、忙しいようで早く診察を終わらせたい雰囲気が漂い始める。
俺は自分が空気の読める高校生であることを恨んだ。いつの間にか診察室を出て、会計で処方箋を貰って、小さなクリニックの外に出ていたからだ。
「……本当に?」
信じられなかった。
太ってないし、甘いものもそんなに飲み食いしないし、大食いだって出来ない。それなのに、糖尿病?
隣にある薬局で薬待ちしている間に、スマホを取り出し糖尿病を調べ始めた。
「……神経障害、腎症、網膜症……? 心筋梗塞、脳梗塞……そ、そんなに酷い病気なの?」
体調が良くなくて病院にきた。ここ最近ずっと身体が怠くて、何だか何を食べても痩せちゃうし、いよいよ身体がおかしくなったと思って近くにあるクリニックに行ったのだ。
それで言われたのが糖尿病。
まだ俺、高校生だよ。おかしいって。糖尿病になったら合併症ってやつでこんなに病気かかるかもしれないの?
「どうしよう、どうしよう……」
「神木さーん、お待たせしましたー」
薬剤師さんから声がかかり、薬の説明を受けていくつか貰った。お金を払って薬局を出ると茹だるような暑さに浸かる。
俺の直面している問題は、病院の人たちからすると当たり前なんだろうなって思った。みんな、ロボットみたい。聞きたいことは沢山あるけど聞けない。お医者さんじゃないと病気は詳しくないだろうし、看護師さんも忙しそうだし、薬剤師さんも事務的で言い出しにくい。
患者は俺だけじゃない。
そんな当たり前のことに、クリニックに行って実感した。
とりあえず出来ることからするしかないと、俺は言われた通り食事制限から始めた。今までもそんなに多く食べてこなかったけど、それよりも減らした。
これはちょうど良かった。節約になるからだ。俺は両親が居ない。家族はおじいちゃんだけだ。たった一人で俺をここまで育ててくれたおじいちゃんには心配かけなくないから病気のことは隠した。
体調が良くなくて薬を貰った、とだけ話した。おじいちゃんには、根性が足りんって言われてしまったけれど、本当は心配しているのを知ってるから余計に言えなかった。
高校からの帰り道。トボトボと歩きながら呟いた。
「なんか、良くならない……」
糖分を抜けば良くなるかと思えばそんなことはなかった。むしろどんどん痩せていってるせいで、もっと病的になっていってる気がした。薬を飲み込むのも億劫だし、治る気がしなくてむしろ怖くなっていく。でも飲まないとと思って一生懸命飲み込んでいた。
おじいちゃん先生には薬が無くなったらまた来いって言われているし、それまで病院に行けない。
俺、死ぬのかな……
暑さもあって、多分限界だった。
ぐにゃりと視界が歪んだ。その瞬間、隣ですれ違おうとしていた男の人が何か叫んでいたけれど、俺の耳に届くことはなかった。
「点滴!早く! 脱水が酷すぎる!インスリンも準備して!あー違う!持続インスリンだからシリンジで準備して!」
ほとんどない意識の狭間で、男の人や女の人がバタバタと走り回っている。腕には管が沢山繋がって、胸からも機械の管が繋がっていた。
目を開けたことに気づいた男の人は、俺に向かって声をかけていた。なんか……意識を失う前もこの声を聞いた気がする。
「君、気づいた? ちょっと本気で今危ない状態だから勝手に色々してるよ。学校には連絡したから親御さんにはそこから連絡着くと思うからね 」
返事をする元気はない。けれど、おじいちゃん先生より遥かに信頼出来ることだけは分かる。
生きてる。助かる。混乱する頭でそれだけは分かって、こくりとうなづいた。
「つらかったね。泣きたいよね。泣いてもいいから、頑張ってね」
男の人に言われて気づく。俺は涙を流していたんだと。
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