36 / 37
番外編
約束 side ディラン
しおりを挟む
ディラン=シェルヴェンが噂をかき消す約束の条件にキスをし始めてから5日目になっていた。
既に5日目の深夜、ディランは仕事から帰ると、ダリルがソファでクッションを抱きながら小さく座っているのを見つけた。
「……おかえり」
猫が丸くなっているように見えて、思わずディランは笑いそうになる。
ディランの性的嗜好は女子に全振りされていたのにも関わらず、ダリルに興味を持って接し、話していくうちに面白くて興味が尽きなかった。
ダリルと話しているとどうにも飽きない。ディランはダリルの警戒心が強くツンとぶっきらぼうなのに、妙に従わせたくなる所が気に入ってしまったのだ。
そうなるとディランは切り替えが早かった。もはや女への興味よりも、ダリルをいかにディランの虜にさせるのかを考えた。
そして2日目に父親がダリルを殴った事で展開が大きく変わった。
味方だと思っていた母親も出ていき、ダリルの非常に歪でなんとか強気に保っていた心がポッキリと折れたのだ。
そしてその心の隙間にディランは入り込んだ。
ディランはダリルが3日目の時に頭を撫でられるようになった時点で、堕ちたと思っていた。
その答えとして、ダリルは4日目の昨日、ついに自分からキスをしてくるようになった。それはまるで野良猫が懐いたようだった。
「ただいま、大人しくしてたか?」
「なんで暴れる前提なんだよ、ミーナさんとお菓子作ってお茶して、本読んでた」
ミーナとはダリルの頬と瞼を回復した、ディランの母親だ。ダリルはすぐに懐いたようだった。ディランには懐くまで3日を要したのに理不尽である。ディランがダリルにした仕打ちを考えれば当たり前のことだが。
「へぇ。なら就職せず、ミーナの相手をずっとしてくれても構わないぜ? 」
「…馬鹿じゃないの」
ダリルはそっぽを向いて言う。
「本気なんだけどなぁ。とりあえずダリル、全部片がついたぞ」
「……えっ、ほんとに言ってる?」
「ほんとほんと」
噂に関しては、全て父親が単独で行い、ダリル=ジルヴァールは関与無しと塗り替えた。それが1番簡単であった。学園ではダリルも大人しくしていた為、ほとんどの者がすぐに信じたようだった。
父親の今後については、母親の実家に預けさせた。母親も実はダリルを置いていった訳ではなく、また実家に融通を頼みに行っていただけだったのだ。
私物が無くなったのは、全て売り払ったせいだった。
ダリルを殴ったことを父親から母親に伝わり、ディランの方で預かっていることを伝えると、謝罪されよろしく頼むと言われた。
さすがに傷ついたダリルを引き戻すようなことは母親も出来ず、ダリルが出ていったことで後継者なしとなり、母親の実家がジルヴァール家の領地を引き受けることとなったようだ。
父親の実権は今後は無い。療養と称して軟禁するようだった。
「……母上、出てった訳じゃなかったんだ…」
ダリルは母親に捨てられた訳では無いと分かってホッとしているようだった。
「あとは就職先なんだが」
「あ、うん。どこ?」
ダリルの隣に座って、ニヤニヤと伝える。
「住み込みで三食昼寝付き、週休2日、福利厚生完備」
「……嫌な予感しかしない」
勘のいいやつだ。
「ミーナのお菓子教室付き」
「ちょっと。文官として働くんじゃないの」
「領地経営の補佐が週5日」
「……」
ちょっと傾き始めたようだった。ダリルはジト目でディランを見ていた。ディランは可笑しくて更にニヤけそうになるのを必死に抑えた。
領地経営はまだディランの父がやっているが、そのうちディランの兄が引き継ぐ予定である。
「……す、は?」
「あ?」
ボソボソと、クッションに顔を埋めて何か言っている。よく見ると耳まで真っ赤に染まっていた。
「だから! キスは!?」
「……そりゃ、いつでも」
ダリルはクッションから顔を上げて、顔全体を真っ赤にして叫んだ。ダリルがそんなことをまさか聞いてくるとは思わず驚きながら返事を返す。
ダリルは声にならない声で唸った後、また呟くように小声でボソボソと何か言っていた。
ディランはよく聞こえなくて耳を近づけた。
「~~っ、就職する!」
「おわ、いきなりデカい声……は? おい。マジか」
「う、うるさい! もう言わない!」
「おい待てこらどこか行こうとするな」
急に立ち上がったダリルの腕を掴んで引き止めた。
ディランはもう緩まる顔が抑えきれなかった。
「キモい!」
「おいコラ恋人にそりゃないだろ」
「っわ!」
ダリルの腕を引いて、無理矢理ディランの方へ引き寄せた。バランスを崩したダリルがディランの所に収まった。
ダリルの顔は相変わらず真っ赤だった。
「もう日付変わって、5日目は終わってるんだけど。キスしていい?」
「……や、やだ。っん……!」
ディランはどこまでも素直じゃないぶっきらぼうな猫の唇を奪った。
既に5日目の深夜、ディランは仕事から帰ると、ダリルがソファでクッションを抱きながら小さく座っているのを見つけた。
「……おかえり」
猫が丸くなっているように見えて、思わずディランは笑いそうになる。
ディランの性的嗜好は女子に全振りされていたのにも関わらず、ダリルに興味を持って接し、話していくうちに面白くて興味が尽きなかった。
ダリルと話しているとどうにも飽きない。ディランはダリルの警戒心が強くツンとぶっきらぼうなのに、妙に従わせたくなる所が気に入ってしまったのだ。
そうなるとディランは切り替えが早かった。もはや女への興味よりも、ダリルをいかにディランの虜にさせるのかを考えた。
そして2日目に父親がダリルを殴った事で展開が大きく変わった。
味方だと思っていた母親も出ていき、ダリルの非常に歪でなんとか強気に保っていた心がポッキリと折れたのだ。
そしてその心の隙間にディランは入り込んだ。
ディランはダリルが3日目の時に頭を撫でられるようになった時点で、堕ちたと思っていた。
その答えとして、ダリルは4日目の昨日、ついに自分からキスをしてくるようになった。それはまるで野良猫が懐いたようだった。
「ただいま、大人しくしてたか?」
「なんで暴れる前提なんだよ、ミーナさんとお菓子作ってお茶して、本読んでた」
ミーナとはダリルの頬と瞼を回復した、ディランの母親だ。ダリルはすぐに懐いたようだった。ディランには懐くまで3日を要したのに理不尽である。ディランがダリルにした仕打ちを考えれば当たり前のことだが。
「へぇ。なら就職せず、ミーナの相手をずっとしてくれても構わないぜ? 」
「…馬鹿じゃないの」
ダリルはそっぽを向いて言う。
「本気なんだけどなぁ。とりあえずダリル、全部片がついたぞ」
「……えっ、ほんとに言ってる?」
「ほんとほんと」
噂に関しては、全て父親が単独で行い、ダリル=ジルヴァールは関与無しと塗り替えた。それが1番簡単であった。学園ではダリルも大人しくしていた為、ほとんどの者がすぐに信じたようだった。
父親の今後については、母親の実家に預けさせた。母親も実はダリルを置いていった訳ではなく、また実家に融通を頼みに行っていただけだったのだ。
私物が無くなったのは、全て売り払ったせいだった。
ダリルを殴ったことを父親から母親に伝わり、ディランの方で預かっていることを伝えると、謝罪されよろしく頼むと言われた。
さすがに傷ついたダリルを引き戻すようなことは母親も出来ず、ダリルが出ていったことで後継者なしとなり、母親の実家がジルヴァール家の領地を引き受けることとなったようだ。
父親の実権は今後は無い。療養と称して軟禁するようだった。
「……母上、出てった訳じゃなかったんだ…」
ダリルは母親に捨てられた訳では無いと分かってホッとしているようだった。
「あとは就職先なんだが」
「あ、うん。どこ?」
ダリルの隣に座って、ニヤニヤと伝える。
「住み込みで三食昼寝付き、週休2日、福利厚生完備」
「……嫌な予感しかしない」
勘のいいやつだ。
「ミーナのお菓子教室付き」
「ちょっと。文官として働くんじゃないの」
「領地経営の補佐が週5日」
「……」
ちょっと傾き始めたようだった。ダリルはジト目でディランを見ていた。ディランは可笑しくて更にニヤけそうになるのを必死に抑えた。
領地経営はまだディランの父がやっているが、そのうちディランの兄が引き継ぐ予定である。
「……す、は?」
「あ?」
ボソボソと、クッションに顔を埋めて何か言っている。よく見ると耳まで真っ赤に染まっていた。
「だから! キスは!?」
「……そりゃ、いつでも」
ダリルはクッションから顔を上げて、顔全体を真っ赤にして叫んだ。ダリルがそんなことをまさか聞いてくるとは思わず驚きながら返事を返す。
ダリルは声にならない声で唸った後、また呟くように小声でボソボソと何か言っていた。
ディランはよく聞こえなくて耳を近づけた。
「~~っ、就職する!」
「おわ、いきなりデカい声……は? おい。マジか」
「う、うるさい! もう言わない!」
「おい待てこらどこか行こうとするな」
急に立ち上がったダリルの腕を掴んで引き止めた。
ディランはもう緩まる顔が抑えきれなかった。
「キモい!」
「おいコラ恋人にそりゃないだろ」
「っわ!」
ダリルの腕を引いて、無理矢理ディランの方へ引き寄せた。バランスを崩したダリルがディランの所に収まった。
ダリルの顔は相変わらず真っ赤だった。
「もう日付変わって、5日目は終わってるんだけど。キスしていい?」
「……や、やだ。っん……!」
ディランはどこまでも素直じゃないぶっきらぼうな猫の唇を奪った。
117
お気に入りに追加
1,256
あなたにおすすめの小説

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**

αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました!
※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる