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番外編
猫 side ダリル
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ダリル=ジルヴァールは本日2度目の涙をたっぷり時間をかけて何とか止めることが出来た。
馬車が止まると、 男と一緒に降りた。見るとどこかの邸のようだった。ディランの実家なのだろうか。邸の中に入ると使用人が何人か出迎えてきた。
「おかえりなさい。あら、そちらのお方は?」
「話してたジルヴァール家の次男だ」
女性がディランに話しかけていた。穏やかそうな女性は、母と同じくらいの年齢のように見える。
「あらあらまあまあ。頬も瞼も腫れてるじゃない。ディラン回復をかけてあげなかったの?」
「おいおい、俺が魔法が苦手なのを知ってて言ってるのかよ」
「あら、そうだったわ。こちらにいらっしゃい」
女性にそう言われ、ダリルはどうしていいか分からず、ディランの方を1度見る。ディランは顎で行くように促したため、おずおずと女性の前に立った。
女性はニコニコと微笑みながら、頬に手を近づけ、白い光を操る。徐々に頬の痛みが減っていくのを感じた。
「……はい。もう大丈夫ね。可愛い子猫さん、お名前を教えてくれるかしら?」
「…だ、ダリル……ダリル=ジルヴァール……」
ディランもこの女性も、ダリルを猫と称するのがよく意味がわからなかった。しかし、女性の微笑みは、母のそれと似ていて暖かい気持ちになっていく。
「じゃ、ダリルこっちに来い」
「あらあらもう連れてっちゃうの?」
「荷物も持ってかなきゃだし、とりあえず落ち着かせるだけだ。食事の時にまた顔を出す」
「分かったわ、またね。ダリルさん」
ディランに手を掴まれ、無理矢理連れていかれそうになる。ダリルが女性の方に振り返ると、変わらずニコニコと手を振り続けてくれていた。
階段を上り、しばらく廊下を歩くと広い一室に案内された。客室にしては広いそこは、明らかに剣を壁に飾る壁掛けが突き出ていたり、鎧をかける為のトルソーのようなものが置かれていて、明らかにディランの自室だと分かった。
ディランは持ってくれていたダリルの荷物を机に置くと、ダリルにソファに座るように促した。
所在なさげに端の方に座ると、ディラんが隣に座った。
「な、ち、近い!」
「ああ? どこ座ろうと俺の勝手だろ?」
それにしたって近い。いつも思うが、ディランは距離感がバグっている。
「広いんだから、もっと遠くにすわ」
「そんなことどうでもいいんだよ。お前、今日の分のキスしろよ」
「は、はぁ?」
なぜ今このタイミングなのか。この男がやる事なす事、いつもいつもよく理解できなくてダリルの脳を混乱させてくる。
ディランは既にしてもらう気満々でニヤニヤしている。
「……お前、気持ち悪いな」
「おいおい待て待て。そういう萎えるこというんじゃねぇよ」
「気持ち悪いったら気持ち悪い!」
ダリルはそう言って、逃げることにした。
なぜここに来てキスなのかも理解出来ないし、そもそもどうしてここに連れてこられたのかも理解出来ない。分からないことだらけでダリルの頭はオーバーヒート寸前だった。
ディランは一度ため息をつくと、ダリルの腕を掴み、自らの方に引き寄せていった。
ダリルは体勢を崩し、なし崩しにディランの方に寄りかかることになった。頭がディランの胸にポスンと収まると、顎を手で抑えられ、上を向かされた。
予想以上にディランの顔が近くにあって、ダリルは一瞬で顔に熱が集まっていく。
「お前、いちいち可愛いんだよ。猫みたいで」
「んなっ……!んっ!」
反抗しようとディランの胸を押そうとするが、唇を奪われる。反抗しようとした気持ちは舌が入り込むと牙を抜かれたように引っ込んでいく。ダリルの悦い所をなぞる舌に身体は勝手にヒクヒクと反応していく。
「んっ…ん、んん……ぁ」
「あー、あと3日かよ。延長しねぇ?」
「しない!」
バンッと思い切りディランの胸を叩いたが、全くビクともしなかった。
「ま、噂はどうにかするし、父親もどうにかする。約束は生きてる。とりあえずここに住め」
ダリルの居場所がなくなったことを、ディランは分かっててここに連れてきてくれたのだ。
家に帰ったら父に殴られるだろうし、庇ってくれるか分からないがその母もいない。学園も退学したともなれば何処にも行く場所はなかった。
「さっき会ったのは俺の母親。 何かあったら何でも言えばいい。今後は…まぁ就職するしかないな。その辺もどうにかするから心配するな」
「……なんで」
「あ?」
「なんでここまでしてくれるの。別に、僕は…ここまでしてくれとは頼んでなんか……」
ダリルがそう言うと、ディランはまた大きくため息をついた。
「お前が助けろって言ったんだろ」
「そ、そうだけど……でも本当にしなくたって」
「はぁ? ここまで来たんだからもうそれで良いだろうが。頭でっかちか。めんどくせぇな」
「う…」
ディランに頭を撫でられながら、ダリルは天邪鬼になったようにディランの言葉をどうにか否定しようとしてしまう。
ディランはそれが分かったかのように押し付けてくる。
こんな強引な男、ダリルの友人には居なかったせいで戸惑いが隠せなかった。
けれども、ディランに撫でられている頭がどうにも暖かくて、振り払う気にはなれなかった。
馬車が止まると、 男と一緒に降りた。見るとどこかの邸のようだった。ディランの実家なのだろうか。邸の中に入ると使用人が何人か出迎えてきた。
「おかえりなさい。あら、そちらのお方は?」
「話してたジルヴァール家の次男だ」
女性がディランに話しかけていた。穏やかそうな女性は、母と同じくらいの年齢のように見える。
「あらあらまあまあ。頬も瞼も腫れてるじゃない。ディラン回復をかけてあげなかったの?」
「おいおい、俺が魔法が苦手なのを知ってて言ってるのかよ」
「あら、そうだったわ。こちらにいらっしゃい」
女性にそう言われ、ダリルはどうしていいか分からず、ディランの方を1度見る。ディランは顎で行くように促したため、おずおずと女性の前に立った。
女性はニコニコと微笑みながら、頬に手を近づけ、白い光を操る。徐々に頬の痛みが減っていくのを感じた。
「……はい。もう大丈夫ね。可愛い子猫さん、お名前を教えてくれるかしら?」
「…だ、ダリル……ダリル=ジルヴァール……」
ディランもこの女性も、ダリルを猫と称するのがよく意味がわからなかった。しかし、女性の微笑みは、母のそれと似ていて暖かい気持ちになっていく。
「じゃ、ダリルこっちに来い」
「あらあらもう連れてっちゃうの?」
「荷物も持ってかなきゃだし、とりあえず落ち着かせるだけだ。食事の時にまた顔を出す」
「分かったわ、またね。ダリルさん」
ディランに手を掴まれ、無理矢理連れていかれそうになる。ダリルが女性の方に振り返ると、変わらずニコニコと手を振り続けてくれていた。
階段を上り、しばらく廊下を歩くと広い一室に案内された。客室にしては広いそこは、明らかに剣を壁に飾る壁掛けが突き出ていたり、鎧をかける為のトルソーのようなものが置かれていて、明らかにディランの自室だと分かった。
ディランは持ってくれていたダリルの荷物を机に置くと、ダリルにソファに座るように促した。
所在なさげに端の方に座ると、ディラんが隣に座った。
「な、ち、近い!」
「ああ? どこ座ろうと俺の勝手だろ?」
それにしたって近い。いつも思うが、ディランは距離感がバグっている。
「広いんだから、もっと遠くにすわ」
「そんなことどうでもいいんだよ。お前、今日の分のキスしろよ」
「は、はぁ?」
なぜ今このタイミングなのか。この男がやる事なす事、いつもいつもよく理解できなくてダリルの脳を混乱させてくる。
ディランは既にしてもらう気満々でニヤニヤしている。
「……お前、気持ち悪いな」
「おいおい待て待て。そういう萎えるこというんじゃねぇよ」
「気持ち悪いったら気持ち悪い!」
ダリルはそう言って、逃げることにした。
なぜここに来てキスなのかも理解出来ないし、そもそもどうしてここに連れてこられたのかも理解出来ない。分からないことだらけでダリルの頭はオーバーヒート寸前だった。
ディランは一度ため息をつくと、ダリルの腕を掴み、自らの方に引き寄せていった。
ダリルは体勢を崩し、なし崩しにディランの方に寄りかかることになった。頭がディランの胸にポスンと収まると、顎を手で抑えられ、上を向かされた。
予想以上にディランの顔が近くにあって、ダリルは一瞬で顔に熱が集まっていく。
「お前、いちいち可愛いんだよ。猫みたいで」
「んなっ……!んっ!」
反抗しようとディランの胸を押そうとするが、唇を奪われる。反抗しようとした気持ちは舌が入り込むと牙を抜かれたように引っ込んでいく。ダリルの悦い所をなぞる舌に身体は勝手にヒクヒクと反応していく。
「んっ…ん、んん……ぁ」
「あー、あと3日かよ。延長しねぇ?」
「しない!」
バンッと思い切りディランの胸を叩いたが、全くビクともしなかった。
「ま、噂はどうにかするし、父親もどうにかする。約束は生きてる。とりあえずここに住め」
ダリルの居場所がなくなったことを、ディランは分かっててここに連れてきてくれたのだ。
家に帰ったら父に殴られるだろうし、庇ってくれるか分からないがその母もいない。学園も退学したともなれば何処にも行く場所はなかった。
「さっき会ったのは俺の母親。 何かあったら何でも言えばいい。今後は…まぁ就職するしかないな。その辺もどうにかするから心配するな」
「……なんで」
「あ?」
「なんでここまでしてくれるの。別に、僕は…ここまでしてくれとは頼んでなんか……」
ダリルがそう言うと、ディランはまた大きくため息をついた。
「お前が助けろって言ったんだろ」
「そ、そうだけど……でも本当にしなくたって」
「はぁ? ここまで来たんだからもうそれで良いだろうが。頭でっかちか。めんどくせぇな」
「う…」
ディランに頭を撫でられながら、ダリルは天邪鬼になったようにディランの言葉をどうにか否定しようとしてしまう。
ディランはそれが分かったかのように押し付けてくる。
こんな強引な男、ダリルの友人には居なかったせいで戸惑いが隠せなかった。
けれども、ディランに撫でられている頭がどうにも暖かくて、振り払う気にはなれなかった。
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