【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸

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番外編

春待ち side ディラン

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ディラン=シェルヴェンは酔いたい気分だった。
人の入りもそこそこの個室の居酒屋は、そこそこの値段で酒と料理が運ばれる。味もまあまあ。不満はない。

「おいエメ!いい加減女の子を紹介しろ」
「はー? それが人に物を頼む態度かよ」
「エメ様。お願いします」

今の不満は、ディランのおかげで好みど真ん中の恋人をゲットしたはずのエメ=デュリュイが、女の子をディランに紹介しないことである。

ディランは生来、女好きである。柔らかい肢体に顔を埋めたい。出てるとこが出て、出ないところは引っ込んでる女の子が特に好きだ。

そして、この目の前にいるエメは、女友達が多い。特に仲がいいジニーやターニャはボンキュッボンで素晴らしい。しかしエメは絶対に紹介してくれない。

「ディラン、その度にエメを飲みに誘うのやめてくれないかな」
「おい、お前も俺に恩を感じねーのか。お前に告ったやつの何人かこっちに流せよ」

エメの隣でニコニコと穏やかに微笑みながら、実は仕事中は突然笑顔が消え、氷の訓練場を作り上げるのはクラーク=アクセルソン。

つい1ヶ月ほど前にこのエメとクラークを引き合わせ、くっ付けたのは誰でもない、ディランであった。

ディランは自他ともに認めるほど交友関係が広い。基本会ったやつは大体友人になる。そして何故か運の良いことに、本気でヤバい人間は友人にはならないことが特技である。
その特技を生かし、キューピットみたいなこともすることが出来る。
なぜならディランは察する能力が高かった。
その人物が今何を考え、好き嫌いを把握することが出来るのだ。もはや才能と言っても過言ではないと自分でも思う程であった。
実際に何人かの友人を、このエメとクラークのようにくっつけて結婚まで至っているのだから、自分の人を見る目は間違っていないと思う。

しかしだ。これは友人たちにだけ限って起こりうることであり、自分で自分のキューピットは出来なかった。

ディランは悲しいことに男子と話しても、女子と話しても、全て友人になる。
これがディランの特技の弊害であった。

「クラークまた告白されたの?」
「最近は減ってたけどね。エメがいるからってちゃんと言ってるし」
「クラーク……」
「ぎえぇぇ、やめろ目の前でイチャつくな」

目の前の2人の雰囲気が甘くなって来たのを感じて止めようとする。
しかし、既に彼らは2人の世界に入り込んでおりディランの事などお構い無しだ。
殺意が湧きそうになるが、ここで反抗してもエメは紹介してくれなくなるし、クラークは訓練中、魔法を連発してくるだろうしどちらも地獄だ。

「クラークに告白してくる女子なんて、絶対ディランのことタイプじゃねーだろ」
「どういう意味だこら」
「お前人に優しくないし、うるさいし、人の不幸や噂話もゲラゲラ笑うじゃねーか。クラークとは真逆すぎて女の子もドン引きだよ」
「うわ…最低だね」
「やめろ追い込むな俺を。傷ついた」

ディランは噂話が大好物である。そもそも友人たちが多いのも人間が好きであることに起因しているのだ。人は集まれば噂をする。その噂を聞いて面白がるのが趣味だった。

しかし、その噂好きでこの2人をくっつけたのだからここまで言われるのは心外である。

「お前ら……俺のおかげで付き合った恩も忘れやがって」
「あーはいはい。ありがとう」
「エメ、心のこもってないクソ適当な礼はやめろ」
「ディランはそもそもどういった女の子がタイプなんだ?」

クラークに問われ、ディランはすぐさま答えた。

「ボンキュッボンで性格良くて美人の女の子」
「そんな女子が売れ残ってるわきゃねーだろ鏡見て出直せ」
「くそエメ、俺の顔が悪いわけねぇだろ」
「女の話してる時のディラン、めちゃくちゃ気持ち悪いぞ」

エメにそう言われ、撃沈する。

ディランは顔は悪くない。むしろ友人たちからもモテる顔だと言われる。アーヴィンのような王子顔でも、クラークのような穏やかなスマイルを携えた顔でもない。
友人曰く、凛々しい顔立ちで男らしくて色気もちゃんとある。背も高いし体格も良い。しかもエリートコースで金もある。どうしてモテないのか分からない。
とまで言わしめた。しかし最後の言葉は要らない。

「ああー…さっきの顔を女子の前でしたら気持ち悪がられるだろうね」
「そうそう。それさえなきゃマシなのに」
「おいまてマシ程度なのかよ」

エメとクラークら頷きながらディランを見る。

「てか友達多いなら友達の誰かに告白しねーのか?」
「しねぇよ。ありゃ友人であって恋人にはならねぇ」
「なにその理論。凄いな、友達以上恋人未満な人もいないの?」
「はぁ? いるわきゃねぇよ。友人は友人であって、それ以上でも以下でも ねぇ」

ディランのもう1つダメなところは、一度友人と決めつけると、もう二度とそういう目で見ることが出来なくなることだった。
女友達たちも、ディランと会話するのはディランがもはや自分を女として見ておらず、友人として接してくれていると分かるからである。女にとって危険がない安全パイだと思われているのだ。
しかもその上、気が合う人間が見つかればディランに紹介してもらえるので、女子としてはありがたい友人である。

「君意外と真面目なんだね…」
「んだよクラーク、俺はいつでも真面目だ。女が欲しいのも真面目だ」
「クラーク、ディランが調子乗るから褒めるなよ。ディランはただ女の子に相手されないだけであって、真面目じゃねーよ」

またしても撃沈である。

女友達が多いエメに言われるのはディラン的にかなり効く。女子の言葉を代弁されているようだった。

「はぁー! 彼女欲しーーー!アーヴィンのように俺の事を知らない土地に行くかーーー!」
「その知らない土地でも同じこと繰り返すだけだ馬鹿」
「アーヴィンは別にモテたくて辺境区域に行ったわけではないし、アーヴィンはそもそも学園でも1番女子にモテてたよね、関係なくない?」

この2人に友情はないのか。

「俺に春をください」
「なんか可哀想になってきたな」
「エメ。ディランのことばっか見てないでね」
「おいバカやめろここでイチャつくんじゃねぇってさっきも言っただろ」

ディランが死んだ魚の目をしている中、クラークがエメの顎を指で優しく自分に向けさせていた。そんなクラークを見てエメが赤面する姿はディランにとって毒でしかなかった。
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