【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸

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番外編

丸く収まる side エメ

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エメ=デュリュイは、新しい恋人が出来た。
別れたばかりで変わり身が早いと言われれば何も言い返せない。人によっては普通だと言うだろうが。しかし考えても見て欲しい。自分のタイプど真ん中直球の人間が、目の前に現れたのだ。好きにならないわけがない。

そして、好きになった人は、嬉しいことにエメを好きになってくれたのだ。

「いや、俺のおかげが8割くらいだな。あとの2割は運だ」
「はー、うっざ。調子乗んな」

ディランと居酒屋で飲んでいるが、ディランは最高潮に自分に酔っていた。だが何も否定できない。聞けばディランがクラークに後押ししてくれて居たというではないか。

クラークとは、あのまま友人としてそばにいられればそれでも良いと本気で思っていた。
しかしいざ恋人になると、ディランのふざけた軽口もニヤけてきてしまう。

「んで?どうよ?1ヶ月経ったけど」
「…ずっと優しいよ。穏やかだし」
「へーへー、そういう事じゃねぇよ」
「うっさい!」

ディランが言いたいことは分かっている。先に進んだかどうか、である。

どうやら、サシャ=ジルヴァールと喧嘩した理由は、ファーストキスを裏切って取ったことであったことから、クラークがそういう事にきちんと興味がある男であるというのはディランも分かってはいたようだった。

エメは何人かと付き合ったことがあるため、キスもセックスも初めてではないが、それはクラークにとって織り込み済みであったため、特に言及はされなかった。

「したんだろ?」
「セクハラ親父か!」

ニヤニヤと聞いてくるディランに、涙目になりながら罵る。ディランは何処吹く風である。

あの告白の後、すぐにクラークの家に連れ込まれた。いや、決して強制されたわけではない。クラークの家が近いからと連れてかれたのだ。エメは道端でなければもう何でも構わないと思ってついて行った。

クラークの家は広かった。連れてかれた先は伯爵家で、門構えからやはりお貴族様だと実感した。

そしてそのまま、どこに連れてかれるのかと思ったら応接室で、速攻クラークのご両親に挨拶となった。目が回る展開に頭が狂ったのかと思った。クラークのご両親も穏やかな人で、貴族であることよりもクラークを1番に考える人を探していたようだった。一途なのは自他ともに認めているので自信はあった。

そしてそのまま、何故か食事を一緒にとることになり、夜になり遅くなったからと泊まりになった。そう。恋人になった当日に、もう致してしまったのだ。

クラークは『経験がないから、痛かったらちゃんと教えてね。ごめんね』と言っていた。エメは怒涛の展開でついていけず、そんなこと気にせず!と訳の分からないことを口走り、それを了承と取られた。

エメは経験があったから、大丈夫だろうと思っていた。緊張はしたが、ぶっちゃけ言うと、クラークが初めてなら多分そこまで気持ちよくもならないだろうとちょっと余裕ぶったのだ。

事が始まると、クラークはとてつもなくしつこかった。執拗にキスをされ、全身くまなく舐められ、あらぬ場所まで舐め吸われ、自身の象徴は何度達したのか数えられず、最後は飛沫を吹いて恥ずかしさで死にたくなった。こんなにしつこくされたことは初めてのことでエメの余裕はどこかに風化していった。

挿入後も大変だった。とかくしつこいのだ。しつこすぎて、エメはヨガリ狂った。経験なんてなんの役にも立たなかった。この間、クラークは1度も達していない。クラークはどうやらエメが快楽に溺れる姿を見て満足していた様だった。最後はクラークも気持ちよくなってくれたようだが、遅漏なのも考えものである。

そして、この1ヶ月、そういうことになるとだいたいしつこい。とにかく変わらずしつこい。しかししつこいのはセックスの時だけなので怒るに怒れない。クラークもエメが怒れないのを分かっていてやっていると思う。

「クラークもすげぇ機嫌が良くてな。俺がめちゃくちゃ褒められるんだわ」
「なんでディランが褒められるんだよ」
「そりゃお前をあてがったから……てかお前、あいつのあだ名知らねぇの?」
「?」
「氷の貴公子っつーんだよ。とにかく、冷たい奴なんだよ」
「はぁ?まさか」

エメには最初から優しかったではないか。そんな姿を見たことがないので、ディランの言葉は信用ならなかった。

クラークは変わらず優しくて穏やかだった。今まで付き合った男たちと比べるのも烏滸がましいが、変な病気のような癖もなく、ただ優しくて穏やかだった。毎日癒される。
もちろんセックスの時以外の話だが。

「……知らぬが仏よ」
「何の話?」

ディランがボソリと言った瞬間に、エメの恋人であるクラークが到着した。エメの隣に座ると、店員にお酒を頼んだ。

「クラークが冷たい人間だって。そんな事ないのに」
「へぇ」
「おいやめろお前まじで馬鹿」

ディランは突然慌て始めた。ディランが慌てるなど珍しいこともあるものだ。

「ディラン、明日ちょっと一緒に訓練しようか」
「おいエメお前のせいだ、くそっ」
「なんで俺のせいなんだよ。自分が言ったんだろ」

自分の発言には自分で責任を取るべきである。

「エメ、ディランとの友情を見直すのはどう?」
「おい!友人関係まで口出すのはないだろ!」
「うーん。まぁ女友達じゃないしなぁ」
「エメをくっつけたら紹介してもらえると思ってんだやめろこら!」

ディランはどうやら下心込みだったらしい。

しかしディランにはあまり言えないが、エメの友人達はディランの事を『嫌』と言っているのを知っているので紹介する気はさらさらない。ご愁傷さまである。

「ディランはエメに手を出さなそうだから許してたけど、余計なこと言うなら『おろす』よ」
「くそ、なんてやつを紹介しちまったんだ俺は」
「おろすって三枚おろし?ディランおろされたほうがいいんじゃね?」
「エメおいこら、お前俺に恩を感じねぇのか」
「感じてる感じてる。でも女の子は紹介しないよ」

ディランは珍しくも項垂れた。仕方ないじゃないか。誰もディランに興味無いのだ。ディランの悩みはどんなやつも友人止まりになることであった。

「むしろクラークを紹介しろって言われたから、付き合ってるって言っちゃった」
「うん、それは全然いいよ」
「くそイケメン爆発しろ」

ディランからは見えていないが、机の下でクラークが手を重ねてきた。少し驚いて、クラークを見ると微笑まれた。エメは酒のせいだけじゃなく少し頬が熱くなるのを感じた。

「ぎょええ、目の前でイチャつくな爆発しろ」
「うるさいな。もう帰るよ?」
「嘘ですエメ様、女の子紹介してください」
「そんな奇特な女の子いたらいくらでも紹介してあげるよ」

ディランの悲痛な叫びが、居酒屋の個室に響き渡った。
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