【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸

文字の大きさ
上 下
26 / 37
番外編

丸く収まる side エメ

しおりを挟む
エメ=デュリュイは、新しい恋人が出来た。
別れたばかりで変わり身が早いと言われれば何も言い返せない。人によっては普通だと言うだろうが。しかし考えても見て欲しい。自分のタイプど真ん中直球の人間が、目の前に現れたのだ。好きにならないわけがない。

そして、好きになった人は、嬉しいことにエメを好きになってくれたのだ。

「いや、俺のおかげが8割くらいだな。あとの2割は運だ」
「はー、うっざ。調子乗んな」

ディランと居酒屋で飲んでいるが、ディランは最高潮に自分に酔っていた。だが何も否定できない。聞けばディランがクラークに後押ししてくれて居たというではないか。

クラークとは、あのまま友人としてそばにいられればそれでも良いと本気で思っていた。
しかしいざ恋人になると、ディランのふざけた軽口もニヤけてきてしまう。

「んで?どうよ?1ヶ月経ったけど」
「…ずっと優しいよ。穏やかだし」
「へーへー、そういう事じゃねぇよ」
「うっさい!」

ディランが言いたいことは分かっている。先に進んだかどうか、である。

どうやら、サシャ=ジルヴァールと喧嘩した理由は、ファーストキスを裏切って取ったことであったことから、クラークがそういう事にきちんと興味がある男であるというのはディランも分かってはいたようだった。

エメは何人かと付き合ったことがあるため、キスもセックスも初めてではないが、それはクラークにとって織り込み済みであったため、特に言及はされなかった。

「したんだろ?」
「セクハラ親父か!」

ニヤニヤと聞いてくるディランに、涙目になりながら罵る。ディランは何処吹く風である。

あの告白の後、すぐにクラークの家に連れ込まれた。いや、決して強制されたわけではない。クラークの家が近いからと連れてかれたのだ。エメは道端でなければもう何でも構わないと思ってついて行った。

クラークの家は広かった。連れてかれた先は伯爵家で、門構えからやはりお貴族様だと実感した。

そしてそのまま、どこに連れてかれるのかと思ったら応接室で、速攻クラークのご両親に挨拶となった。目が回る展開に頭が狂ったのかと思った。クラークのご両親も穏やかな人で、貴族であることよりもクラークを1番に考える人を探していたようだった。一途なのは自他ともに認めているので自信はあった。

そしてそのまま、何故か食事を一緒にとることになり、夜になり遅くなったからと泊まりになった。そう。恋人になった当日に、もう致してしまったのだ。

クラークは『経験がないから、痛かったらちゃんと教えてね。ごめんね』と言っていた。エメは怒涛の展開でついていけず、そんなこと気にせず!と訳の分からないことを口走り、それを了承と取られた。

エメは経験があったから、大丈夫だろうと思っていた。緊張はしたが、ぶっちゃけ言うと、クラークが初めてなら多分そこまで気持ちよくもならないだろうとちょっと余裕ぶったのだ。

事が始まると、クラークはとてつもなくしつこかった。執拗にキスをされ、全身くまなく舐められ、あらぬ場所まで舐め吸われ、自身の象徴は何度達したのか数えられず、最後は飛沫を吹いて恥ずかしさで死にたくなった。こんなにしつこくされたことは初めてのことでエメの余裕はどこかに風化していった。

挿入後も大変だった。とかくしつこいのだ。しつこすぎて、エメはヨガリ狂った。経験なんてなんの役にも立たなかった。この間、クラークは1度も達していない。クラークはどうやらエメが快楽に溺れる姿を見て満足していた様だった。最後はクラークも気持ちよくなってくれたようだが、遅漏なのも考えものである。

そして、この1ヶ月、そういうことになるとだいたいしつこい。とにかく変わらずしつこい。しかししつこいのはセックスの時だけなので怒るに怒れない。クラークもエメが怒れないのを分かっていてやっていると思う。

「クラークもすげぇ機嫌が良くてな。俺がめちゃくちゃ褒められるんだわ」
「なんでディランが褒められるんだよ」
「そりゃお前をあてがったから……てかお前、あいつのあだ名知らねぇの?」
「?」
「氷の貴公子っつーんだよ。とにかく、冷たい奴なんだよ」
「はぁ?まさか」

エメには最初から優しかったではないか。そんな姿を見たことがないので、ディランの言葉は信用ならなかった。

クラークは変わらず優しくて穏やかだった。今まで付き合った男たちと比べるのも烏滸がましいが、変な病気のような癖もなく、ただ優しくて穏やかだった。毎日癒される。
もちろんセックスの時以外の話だが。

「……知らぬが仏よ」
「何の話?」

ディランがボソリと言った瞬間に、エメの恋人であるクラークが到着した。エメの隣に座ると、店員にお酒を頼んだ。

「クラークが冷たい人間だって。そんな事ないのに」
「へぇ」
「おいやめろお前まじで馬鹿」

ディランは突然慌て始めた。ディランが慌てるなど珍しいこともあるものだ。

「ディラン、明日ちょっと一緒に訓練しようか」
「おいエメお前のせいだ、くそっ」
「なんで俺のせいなんだよ。自分が言ったんだろ」

自分の発言には自分で責任を取るべきである。

「エメ、ディランとの友情を見直すのはどう?」
「おい!友人関係まで口出すのはないだろ!」
「うーん。まぁ女友達じゃないしなぁ」
「エメをくっつけたら紹介してもらえると思ってんだやめろこら!」

ディランはどうやら下心込みだったらしい。

しかしディランにはあまり言えないが、エメの友人達はディランの事を『嫌』と言っているのを知っているので紹介する気はさらさらない。ご愁傷さまである。

「ディランはエメに手を出さなそうだから許してたけど、余計なこと言うなら『おろす』よ」
「くそ、なんてやつを紹介しちまったんだ俺は」
「おろすって三枚おろし?ディランおろされたほうがいいんじゃね?」
「エメおいこら、お前俺に恩を感じねぇのか」
「感じてる感じてる。でも女の子は紹介しないよ」

ディランは珍しくも項垂れた。仕方ないじゃないか。誰もディランに興味無いのだ。ディランの悩みはどんなやつも友人止まりになることであった。

「むしろクラークを紹介しろって言われたから、付き合ってるって言っちゃった」
「うん、それは全然いいよ」
「くそイケメン爆発しろ」

ディランからは見えていないが、机の下でクラークが手を重ねてきた。少し驚いて、クラークを見ると微笑まれた。エメは酒のせいだけじゃなく少し頬が熱くなるのを感じた。

「ぎょええ、目の前でイチャつくな爆発しろ」
「うるさいな。もう帰るよ?」
「嘘ですエメ様、女の子紹介してください」
「そんな奇特な女の子いたらいくらでも紹介してあげるよ」

ディランの悲痛な叫びが、居酒屋の個室に響き渡った。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

処理中です...