上 下
24 / 37
番外編

崩壊する side クラーク

しおりを挟む
クラーク=アクセルソンは悩んでいた。自分の中でゲシュタルト崩壊が起きようとしていたからだ。

クラークの性的嗜好はそもそもノーマルだ。
1度目はサシャ=ジルヴァールに崩壊された。そして、 今2度目が崩壊されそうになっていた。

エメ=デュリュイはサシャ=ジルヴァールとは対極の位置に存在する。

サシャを月と表現するならば、エメは太陽だ。
月は暗い時に薄明かりとなる。しかし太陽は全てを明るくする。エメはまさしく、その太陽という存在だった。

サシャはそもそも、あまり会話を楽しむタイプではなかった。どちらかと言うと、穏やかに静かにそこに佇んでいた。クラークと似ている部分が多く、一緒にいてとても楽だった。

しかし、エメはどちらかと言うと、対話を楽しむ。しつこくもなく、努めて明るく楽しく会話をしたいという意思が伝わってくる。騒がしいという訳では無い。気取らなくても、クラークの気持ちに対して、ただただ照らし続けてくれている。

益々わからなくなってしまった。
サシャは男性というよりは中性的で、所作も洗練されていた。どちらかと言うと、女性に近い気がした。
けれどエメは元気な男の子という印象だ。言葉遣いも所作もそれに現れている。

そして、自分がどうしてここまで悩むのか、よく分からないのだ。

職場で訓練後、同期で紹介元となるディランが後ろから肩を組んできた。

「よ、どうだ?エメとは」

いきなりのことでほんの少しよろけるが、すぐに持ち直して答えた。

「どうって。友達だよ」
「はー? 何やってんだよ。エメは思いっきりお前のこと好きだろ?」

ディランも、エメがクラークを好きになっていることに気づいているようだった。クラークも食事に行くのかと聞かれればエメに誘われた、とディランに答えていたし、分かりうることだろうとは思う。

「エメはクラークがドタイプだと思ったんだよ。大当たりしたのになー」
「…楽しんでない?」
「楽しくなきゃ誘わねぇよ。ま、クラークはそうだよな。なかなか認められねぇだろうな」
「どういう意味だよ」
「言葉通りだよ。趣味も嗜好も。お前、思ってるより分かりやすいやつだぜ?ただ、お前が難しく考えすぎなんだよ」

難しく考えすぎ、とは、この間エメにも言われた言葉だった。
恋愛とは悩むものではないのだろうか。誰も彼も、突発的に動けるものではない。

「お前、サシャ=ジルヴァールにキスされたって知った時、許せなかったんだろ?自分を裏切ったって思ったから別れたんだろ?」
「……だからなんだよ」
「一途で健気で、誠実だと思っていたのに、裏切られて悔しくて怒り狂ってやりたかったんだ。そうだよな。サシャ=ジルヴァールは、交友関係がなかったから、そういう一面を一切見なかった」

ディランの言う通りだ。サシャに友人が多かったら、きっとクラークはどう動いていたか分からない。

「エメは健気だぜ?好きな奴には一辺倒で、他の奴になんか見向きもしない。今フリーなのが珍しいくらい一途な奴だ」
「だからって」
「簡単に好きになるかって? なるだろ。お前の好みが服着て目の前にぶら下がってるんだぞ」
「いやでも」
「あーめんどくせぇな。お前。じゃあなんだよ、今の友人関係で満足してんのかよお前。不満タラタラの顔してんだろーが」

不満。

ディランの言葉で、はた、と気づいた。こんなにグチグチと悩んでいる理由に、言葉を付けるのならば、不満が似合った。

エメに、『無理に自分の事を考えなくていい』と言われて、自分は不満を感じていた。考えて欲しいはずなのに、考えなくていいと、そう言われたことに納得できなかったのだ。

だから、こうやって、今でもグチグチ考えてしまっている。

「実は答えは決まってたんだよ。あー頭良い奴は本当にめんどくせぇ。理由がなくちゃ動かねぇんだから」
「……ディラン、どうして君がモテないのか、よく分からないよ」
「おい待て聞き捨てならねぇ」

ディランから組まれた肩を払って、振り返らなかった。
ディランが後ろから何か叫んでいたが、クラークはもう何も気にしなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

嫌われ者の僕が学園を去る話

おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。 一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。 最終的にはハピエンの予定です。 Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。 ↓↓↓ 微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。 設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。 不定期更新です。(目標週1) 勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。 誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

転生したらいつの間にかフェンリルになってた〜しかも美醜逆転だったみたいだけど俺には全く関係ない〜

春色悠
BL
 俺、人間だった筈だけなんだけどなぁ………。ルイスは自分の腹に顔を埋めて眠る主を見ながら考える。ルイスの種族は今、フェンリルであった。  人間として転生したはずが、いつの間にかフェンリルになってしまったルイス。  その後なんやかんやで、ラインハルトと呼ばれる人間に拾われ、暮らしていくうちにフェンリルも悪くないなと思い始めた。  そんな時、この世界の価値観と自分の価値観がズレている事に気づく。  最終的に人間に戻ります。同性婚や男性妊娠も出来る世界ですが、基本的にR展開は無い予定です。  美醜逆転+髪の毛と瞳の色で美醜が決まる世界です。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

処理中です...