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番外編

崩壊する side クラーク

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クラーク=アクセルソンは悩んでいた。自分の中でゲシュタルト崩壊が起きようとしていたからだ。

クラークの性的嗜好はそもそもノーマルだ。
1度目はサシャ=ジルヴァールに崩壊された。そして、 今2度目が崩壊されそうになっていた。

エメ=デュリュイはサシャ=ジルヴァールとは対極の位置に存在する。

サシャを月と表現するならば、エメは太陽だ。
月は暗い時に薄明かりとなる。しかし太陽は全てを明るくする。エメはまさしく、その太陽という存在だった。

サシャはそもそも、あまり会話を楽しむタイプではなかった。どちらかと言うと、穏やかに静かにそこに佇んでいた。クラークと似ている部分が多く、一緒にいてとても楽だった。

しかし、エメはどちらかと言うと、対話を楽しむ。しつこくもなく、努めて明るく楽しく会話をしたいという意思が伝わってくる。騒がしいという訳では無い。気取らなくても、クラークの気持ちに対して、ただただ照らし続けてくれている。

益々わからなくなってしまった。
サシャは男性というよりは中性的で、所作も洗練されていた。どちらかと言うと、女性に近い気がした。
けれどエメは元気な男の子という印象だ。言葉遣いも所作もそれに現れている。

そして、自分がどうしてここまで悩むのか、よく分からないのだ。

職場で訓練後、同期で紹介元となるディランが後ろから肩を組んできた。

「よ、どうだ?エメとは」

いきなりのことでほんの少しよろけるが、すぐに持ち直して答えた。

「どうって。友達だよ」
「はー? 何やってんだよ。エメは思いっきりお前のこと好きだろ?」

ディランも、エメがクラークを好きになっていることに気づいているようだった。クラークも食事に行くのかと聞かれればエメに誘われた、とディランに答えていたし、分かりうることだろうとは思う。

「エメはクラークがドタイプだと思ったんだよ。大当たりしたのになー」
「…楽しんでない?」
「楽しくなきゃ誘わねぇよ。ま、クラークはそうだよな。なかなか認められねぇだろうな」
「どういう意味だよ」
「言葉通りだよ。趣味も嗜好も。お前、思ってるより分かりやすいやつだぜ?ただ、お前が難しく考えすぎなんだよ」

難しく考えすぎ、とは、この間エメにも言われた言葉だった。
恋愛とは悩むものではないのだろうか。誰も彼も、突発的に動けるものではない。

「お前、サシャ=ジルヴァールにキスされたって知った時、許せなかったんだろ?自分を裏切ったって思ったから別れたんだろ?」
「……だからなんだよ」
「一途で健気で、誠実だと思っていたのに、裏切られて悔しくて怒り狂ってやりたかったんだ。そうだよな。サシャ=ジルヴァールは、交友関係がなかったから、そういう一面を一切見なかった」

ディランの言う通りだ。サシャに友人が多かったら、きっとクラークはどう動いていたか分からない。

「エメは健気だぜ?好きな奴には一辺倒で、他の奴になんか見向きもしない。今フリーなのが珍しいくらい一途な奴だ」
「だからって」
「簡単に好きになるかって? なるだろ。お前の好みが服着て目の前にぶら下がってるんだぞ」
「いやでも」
「あーめんどくせぇな。お前。じゃあなんだよ、今の友人関係で満足してんのかよお前。不満タラタラの顔してんだろーが」

不満。

ディランの言葉で、はた、と気づいた。こんなにグチグチと悩んでいる理由に、言葉を付けるのならば、不満が似合った。

エメに、『無理に自分の事を考えなくていい』と言われて、自分は不満を感じていた。考えて欲しいはずなのに、考えなくていいと、そう言われたことに納得できなかったのだ。

だから、こうやって、今でもグチグチ考えてしまっている。

「実は答えは決まってたんだよ。あー頭良い奴は本当にめんどくせぇ。理由がなくちゃ動かねぇんだから」
「……ディラン、どうして君がモテないのか、よく分からないよ」
「おい待て聞き捨てならねぇ」

ディランから組まれた肩を払って、振り返らなかった。
ディランが後ろから何か叫んでいたが、クラークはもう何も気にしなかった。
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